カサンドラ=ネイルの憂鬱
ゼーゲン騎士団では新たな団長を迎えていた。
「どうしてあたしが団長付なんだい!?」
団長室の大きな机にドンッと両手をついたカサンドラが、革張りの椅子に腰掛けてにこやかに見上げるシルヴィオに食ってかかる。
「私も新任で慣れませんからお願いします」
「シリルが妥当だろ? あたしは誰かに付くなんて柄じゃ無いんだよ」
「私がカサンドラさんにお願いしたいんですよ」
シルヴィオは全く取り合わず笑顔のままだ。
「それで食事はいつにしましょうか? 週末辺りどうですか?」
「約束なんてしてないだろ?」
腕を組んだカサンドラが不満げに息を漏らす。
「しましたよ。マラカイトの席譲ってあげたじゃないですか」
「……あのねえ、前から言いたかったんだけど、この際だからハッキリ言うよ。あんたモテるんだからこんなおばさんじゃなくて若い女の子誘ったらどうだい? みんな喜んで付いくと思うよ」
「カサンドラさんはおばさんなんかじゃ無いですよ。それに僕は年上が好みなんです」
その言葉を聞いたカサンドラが顎をあげてシルヴィオを見下ろした。
「そりゃ奇遇だね」
え!? とシルヴィオの顔が明るく輝く。
「あたしも年上が好みなんだよ」
「意地悪な人だな……」
シルヴィオが困ったように笑う。
「……仕方が無いから団長昇進祝いに飯ぐらいおごってやるよ」
「ほんとですか!?」
立ち上がったシルヴィオが身を乗り出してカサンドラに顔を寄せる。
「近いよ!」
カサンドラが後ろにのけぞった。
「あんたね、もしセクハラしようとしたらとっちめるよ」
「……確認ですがどこからがセクハラですか?」
「あたしが嫌だと思ったらセクハラだねえ」
「じっくりその辺りのことも聞かせて下さい。ぎりぎりのところで踏み止まりますから」
「あんたも物好きだね」
呆れたように言いきるとカサンドラが部屋を出ていこうとする。
「カサンドラさん、どこへ行くんです? 今から本部ですよ?」
「団長」
艶やかな笑みを湛えてカサンドラが振り返った。
シルヴィオがその笑顔に頬を赤くする。
「調整に慣れたあんたに付き人はいらないんじゃないかい?」
「まさか」
カサンドラの立つ場所まで歩くとシルヴィオが扉を閉め、その手を扉に置いたままカサンドラの顔を覗き込んだ。
「私にはカサンドラさんが必要なんです」
カサンドラが伏し目がちに赤い唇を微かに尖らせ息を吹く。
団長室に風が吹いて机の上の書類が舞い上がった。
目を奪われたシルヴィオの腕が取られ、気がつくと体が回転して床に仰向けになり天井を眺めていた。
「スキだらけだねえ。そんなんで団長が務まるのかい?」
「カサンドラさんがいてくれたら」
カサンドラがプッと笑った。
「あんたも懲りないね」
そう言いながらシルヴィオに手を伸ばす。
「寝っ転がっていないで、さあ行くよ。団長」




