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24. 刻印(2)

「内乱のきっかけになった事件さ。その後、第五騎士団が総力戦で鎮圧したんだ」

 カサンドラが沈痛な面持ちで話す。


 いつの間にか金色の髪の少女がそこに立っていた。

「役立たず」

 倒れているクラウゼンを一瞥する。

「弱い人。そんなんで欲しいものが手に入るわけ無いじゃ無い。甘いのよ」


「よせよ!」

 言葉を聞いていたジャンが少女に近づくと足下の泥が絡みつき倒れ込んだ。


「こいつ……」


「あんた達は弱くて無知で反吐が出るわ」


「そこまでにしてもらおうか? お嬢ちゃん。あたしも虫の居所が悪いんだよ」


「永く続いた王朝は腐る。だから彼は正そうとした。あなたたちは必死にそれを守ろうとしてる。愚かな奴らを」


 リリーヴァレーが鼻で笑った。


「滑稽だわ。側で見てきたあなた達のリーダーでしょ? 彼が潰そうと思った国にまだ迎合する気?」


「テロリストに荷担する気なんて無いね。間違ってるなら正面から正してやるだけさ」

 カサンドラが立ち上がるとリリーヴァレーを真っ向から見据えた。


「あたしは誓ったんだよ。ドラゴンストーンに。最後の一人になるまでこの国を支えるとね」


 カサンドラが拳を握りしめた。

「だから……あんたの復讐劇にみんなを巻き込むんじゃ無いよ!! ジェイドさん!! 本気でオフェリアさんがこんな事望むと思ってんのかよ!? それならあんたはバカヤローだよ!!!」



「カサンドラ……。私は…後悔していない。オフェリアの為じゃない。自分の為にやったんだ。私こそがそう望んだんだ。それが……正義……だと」


 ヒュルヒュルヒュルヒュル


 傷とともにアトメン病の発作が起こり、クラウゼンが苦しそうに喘鳴ぜんめいする。


「リリー……、君……に……故郷をプレゼント……できずに、すま……ない」

 

「謝らないで!! そんなの……謝られたら叶わないみたいじゃない!!」


 金色の瞳が急速に光を失い翳っていく。


「私は一人になったってやり遂げてみせる――――」


「悪いがそれはさせらんねえな」

 足にまとわりついた泥を蹴り上げるとジャンが少女をめつけた。

 

「どうするってのよ? あんたに何ができる? ここは私のフィールドよ」


 そう言うとリリーヴァレーが土砂の海の中央に飛び降りた。

 キーファの風から解き放たれた地底の土砂が、またリリーヴァレーの支配の元でうねりをあげる。


 ジャンが目の前で作った火球をなげつけるが、小さな火では土砂の中に吸い込まれてしまった。


「ジャン! あたしの風を使いな!」


 ジャンがアーチを描いた火輪を作ると、カサンドラが巻き起こした風にそれが巻き上げられる。

 立ち上がるカサンドラがリリーヴァレーに向けて渦巻く炎を打ち込んだ。

 リリーヴァレーの目の前に土壁ができ炎の渦を弾く。


「イエロードラゴンは厄介だね」カサンドラが舌打ちする。


ねえさん! 上だ!!」

 ジャンが見上げた縦坑の上部から大きな岩が作り上げられる。


 カサンドラが岩に向けて風を起こすが支えきれない。

「ギッ……!!」


 突然横風が吹き、ぶら下がっていた巨大な岩を根元から削り反対側の土壁へと吹き飛ばした。


「キーファ!!」


 目線を下げたまま、ゆらりと立ち上がったキーファが片手をリリーヴァレーに向ける。


 指を弾くとクロスしたかまいたちがリリーヴァレーに向けて飛び出した。


「…………!!!」

 息をのむ少女の前に大きな影が横切る。

 

「ダリア!!!」


 二人はキーファの風に巻き込まれ土壁にめり込んだ。


「……リリー……」


「誰もここから出さないわ!!!」

 金髪の少女が金切り声を上げる。


 彼女の声に呼応するように、縦坑の中の土壁や岩がごろごろと音を立てて崩れ始める。


「全員退避!!」

 カサンドラが声を上げる。


「キーファ、すぐに離脱するよ!!」

 カサンドラがキーファに指示を出すが、キーファは両手をだらりとおろし突っ立ったままだ。

「キーファ時間が無いよ!?」


 うなだれるキーファが心配で、アリューシャがキーファの背中に手をやり顔をのぞき込んだ。

「キーファさん!?」


 生気を失ったような瞳をアリューシャに向ける。


「アリューシャ…………会いたかった」

 キーファが力無くアリューシャに手を回す。


「キ……キーファさん?」


「後にしろよ! キーファ!!」

 ジャンがキーファを怒鳴りつけて肩に手をやると、そのままキーファが地面へと崩れ落ちた。


「キーファ!!」

「キーファさん!!」


 慌ててアリューシャがキーファに手をやるが、キーファは朦朧としていてその瞳はどこか遠くを眺めている。


「キーファさん!? しっかりして下さい!! 怪我を!?」


「…………シャ……行くなよ」


「私はここにいます!」

 アリューシャがキーファの体を触るが怪我も発熱も見受けられない。


「姐さん……これって……?」


「ああ」


「何なんですか!?」


「ホワイトアウトだよ」


「ホワイトアウト……!?」



 石に魂を喰われる者――――ホワイトアウト



 何度も目の前で見てきたはずの患者の姿と、今のキーファの状態が重なりアリューシャは恐ろしくなった。


「そ……そんな!!」


「早すぎるだろ!?」


「たぶん劇症型だね。キーファのシンクロ率は最高峰だよ」

 

「すぐに脱出しよう」


 3人が下に見える坑道に顔を向けた。


「あそこからならお父さんも連れて出られるね」


「お願いします」


 その時、壁にめり込んだリリーヴァレーが白い手を震えるように掲げた。縦坑から通じる全ての道の入り口に巨石を落とす。



「あっ……!!」


 アリューシャが塞がれてしまった坑道を見て愕然とする。

 

「あの女!!」ジャンが吠える。


「アリューシャすまない! あの道にはもう戻れない」


「はい。……わかっています……」



 父さん――――



 悲しみと恐ろしさをかみ殺すようにアリューシャが口を堅く閉じた。


「……せめて団長は連れて帰る」

 ジャンが横たわるクラウゼンの元へ行こうとすると、足下から土槍が数本、棘のように突き出た。 


「危ねえ」ぎりぎりの所を回避したジャンが縦坑の下でうずくまるリリーヴァレーを睨みつけた。


「彼は……渡さない……」

 息を切らして血まみれのダリアの胸の中にいる少女が、最後の力を振り絞りこちらに手を向けている。


 

 カサンドラが歯を食いしばり、土の棘で檻のように閉ざされてしまった向こう側を見た。土壁に沿うようにしてクラウゼンが血の海に沈んでいる。



 こんな最期を…………


 カサンドラは胸の中にぶり返そうとする熱情を毅然として振り切る。

 第五騎士団の副長としてジャンに指示を出す。


「ジャン、あんたはキーファを抱えな。一気に脱出するよ」


 カサンドラが上空に穿つ悪魔の穴を見上げた。

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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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