23. 悪魔の穴(5)
暗い坑道を髪を振り乱し脇腹を押さえたカサンドラが、体を引きずるようにして歩いていた。
突き当たりの空間の明るさに一瞬目がくらむ。そこを見上げるようにアリューシャが立っていた。
「ハァ……アリューシャ……」
アリューシャの肩に手をやると、彼女は青ざめ怯えたように空中を見つめている。その視線の先にカサンドラが目を留めた。
「――――ジェイドさん!!!!」
カサンドラの叫び声で止まっていた時が流れ出す。
体を突き抜けていた土槍がボロボロと塊となり崩れ落ちる。
ゆっくりと音も無く、ジェイド=クラウゼンの体が空中から落下していく。
振り返ったキーファは、自分のすぐ後ろで赤い血が飛び散る光景を眺めていた。
ジャンが炎で作った道を抜け、螺旋階段へと跳び移ると、更に大きく上方向へと跳び上がった。
落下するクラウゼンに手を伸ばし受け止めたものの、レッドドラゴンであるジャンではそのまま土砂の海の中に真っ逆さまだ。
カサンドラが左腕を大きく振ると風がジャンとクラウゼンをすくい上げ土壁に向かって吹き飛ばす。クラウゼンを抱えたジャンが壁にぶつかり二人は螺旋階段の上に落ちた。
「ジャンさん!!」
叫ぶアリューシャに間髪入れずにカサンドラが声を上げる。
「アリューシャ! 掴まりな!!」
カサンドラがアリューシャの体に手をやると、大きくジャンプした。
痛みで顔を歪ませるが風を起こしながらフワリと反対側の壁にある螺旋階段に降り立つ。
「団長!! くそ!!!」
吹き出す血を両手でジャンが抑えつける。
すぐにアリューシャが駆け寄り制服に手をやるが、クラウゼンが息を切らせながら口を開いた。
「……アリューシャ……いいんだ」
「よくないよ……!! こんな……」
血まみれの服を脱がそうとするアリューシャの手を、クラウゼンの冷たい手が力無く止める。
ゆっくりと螺旋階段へ降り立ったキーファがそこで立ちすくむ。
「どうして……俺をかばったんだよ……?」
虚ろな瞳で血まみれのクラウゼンを見下ろした。
「そんなの決まってるさ。あんたを愛してるからだよ」
カサンドラも瞳を潤ませながら、それが流れ落ちないように堪えている。
「……あ…い……?」
「ジェイドさんがあんたの傷つくとこを黙って見てるなんて、できっこないんだよ」
「覚…悟……が、足りない……な」
血を吐きながら自分を嘲るようにクラウゼンが笑った。
「全てを犠牲にする……と、誓った……のに」
カサンドラが悲痛な顔をして呟く。
「オフェリアさんに……?」
「オフェリアさん……?」アリューシャがカサンドラの顔をのぞき見る。
「団長の奥さんだよ」




