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23. 悪魔の穴(1)

 アリューシャを抱えたダリアが前方を走り、ヨルクを抱えながら走るラモサ達が後に続く。

 しかしポゼサーのダリアとでは一方的に差が広がっていく。


「ダリアさん、父さんが!」


 アリューシャがダリアの肩を一生懸命叩くとダリアが足を緩める。


 そこへなんとか追いついてきたラモサが口を開いた。

「おい、ダリア!! こいつは荷物にしかなんねえ……!」息をきらせながらラモサが訴える。


 それを聞いていたアリューシャの顔が蒼くなる。

「父さんは置いていきません! 私が走りますから! お願いします!」

 今度はアリューシャが懸命にダリアに訴える。


 引きずられるように走ったヨルクは衰弱が激しく息も絶え絶えで通路にうずくまる。


「父さん!」

 ダリアの肩の上からアリューシャはヨルクに手を伸ばす。


 ハアハアと膝に手を付いていたラモサがすくっと立ち上がると懐に手をやった。

 彼の手には黒い拳銃が握られていた。


 それを見ていたアリューシャの息が止まる。

「止めて!!!」


 ガーーーーン!!!


 坑道の中を耳をつんざくような爆発音が鳴り響いた。


 ラモサの銃から細い煙が上がる。

 座り込んでいたヨルクの頭がグラリと揺れ、地面に突っ伏した。


「父さん!!!!」

 アリューシャが悲鳴を上げる。


「ラモサ!」


「これで清々したぜ」

 悪びれる様子も無く、ラモサが薄ら笑いを浮かべる。


「父さん!! 下ろして!!」

 

 暴れるアリューシャをダリアは羽交い締めにする。そしてそのまま走り出した。


「やだ……! ダリアさん! 止まって!!」


 ダリアはスピードを緩めない。どんどんと横たわる父親の姿が暗闇に閉ざされ、アリューシャが恐怖におののく。


「父さん!!! ――――イヤぁあああ!!!!」



「親父はあきらめろ」

 ダリアのすぐ後ろを走るラモサが愉快そうに笑う。


「人殺し!!」

 アリューシャが憎しみの言葉をぶつける。


「人殺しはお前の親父だよ」


 アリューシャの拳に力が入る。

「ダリアさん! 今なら父さんは助かります。お願いだから……」


「アリューシャ……」黙っていたダリアがようやく口を開く。

「俺たちは必要ない物は切り捨てる。そう決めたんだ」

 急に男のような言葉遣いをするダリアからは、いつもの軽妙さは微塵も感じない。


「私は……あなたたちに協力なんてしません。父さんを助けてくれないのなら絶対に!」


 それを聞いてハッとラモサが鼻で笑う。

「じゃあ、どこからか子どもでもさらってくるさ。あんたの前でその子に銃を突きつけてやるよ」


 恐ろしい事を言うラモサにアリューシャの顔が青ざめる。

「ダリアさん……」

 アリューシャの前では優しさを見せるダリアも、ラモサの言葉を否定することは無い。


 ダリア達の非情さにアリューシャが言葉を失う。


「……あなた達は悪魔よ」


「悪魔はあんた達だ」ラモサがアリューシャに侮蔑の表情かおを向ける。

「悪魔の技でドラゴンの魂を食い尽くすんだろ?」


 アリューシャが絶句した。握りしめていた拳からも力が抜ける。

 もうヨルクの姿も闇に飲まれ、アリューシャの目に映る事は無かった。



 駆け抜ける男達の足音だけが響く中、突如ダリアが足を止めた。

 真っ暗な坑道の先を睨みつけると、ぞんざいにアリューシャをその場に落とす。


 両手を大きく前方に降り、かまいたちを発動させた。

 それが土壁に当たり、ドォオンと嫌な音を立て、坑道が揺れる。土埃が辺りに舞い落ちアリューシャが頭を抱えて込んだ。

 

 一瞬にして炎の壁が現れダリアの目前の全てを塞いでしまった。


 怯えるアリューシャには何が起こっているのか理解できない。坑道を支える丸太の根元に小さく身を縮める。


 火の壁の中央がグオンと膨らむと、突然何かが飛び出した。

 ダリアが後方に大きく吹き飛ばされ、隅に積まれていた木材の上に音を立てて突っ込んだ。


 熱気で顔を伏せたアリューシャの腕が掴み上げられた。


「アリューシャ!! 無事だったか!!」


「ジャンさん!?」


 背後にいた男達が恐れおののき銃を構えるが、ジャンの起こした炎に炙られ銃が熱を持つ。焼き焼きとした銃を取り落とした所で、炎の壁が向こう側から風の渦を描き男達に襲い掛かった。

 叫び声をあげ倒れた敵の体が火に巻かれると、すぐにジャンが全ての炎を消してしまった。  


「アリューシャ大丈夫かい?」


 消えた炎の壁の向こう側から聞き覚えのある声がする。

 アリューシャの目から大粒の涙が落ち、カサンドラに飛びついた。


「カサンドラさん!」


「あんた、心配かけて! 無事で良かった」


 アリューシャが首を大きく横に振る。

「父さんが!!!」


「お父さん……? お父さんがどうしたんだい!?」


「父さん生きてたんです! それで、それでここに。でもさっきあの人に……血がたくさん出て」

 泣きじゃくるアリューシャの言葉に二人の顔色が変わる。


「お父さんはどこだい!?」


「もっと戻った所です!」


「よし、行こう!」

 ジャンがアリューシャを抱え上げ倒れているダリアや男達の横をすり抜け走り出す。



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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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