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22. 真実の残骸(4)

 着地しようと地面を見ると、そこから伸びた鋭い突起が音を立てながら、のこぎりの刃のように次々とキーファに襲い掛かる。

 

 空中でもう一度回転して飛び上がったキーファが、風刃を飛ばそうと体をしならせた。

 だが背後からも鈍い衝撃波を感じ身を翻した。反射的に腕に帯びていた風を背後に向かって繰り出す。


 キーファのかまいたちが切り裂いた水の塊が、反対側の土壁に当たりじゃぶんと音を立てて水風船のように割れ散った。



 クラウゼンが顔を歪めて右腕を押さえると静かに地面に着地した。



『ジェイドさん!!』



 二つの声が同時に空間にこだました。

 金髪の少女が慌ててクラウゼンの元に駆け寄った。


 クラウゼンの静かで優しい眼差しは、キーファでは無く駆け寄る少女に向けられていた。



「……団長……?」

 

 キーファが息をするのも忘れその光景を見つめていた。

 


 何が起こっている――――?



 キーファの視界が揺れ始める。


 尊敬するゼーゲンの団長で父のように慕ってきたジェイド=クラウゼン。

 その人がどうして敵の女と並んで立っているのか、頭が理解することを拒絶する。



 クラウゼンが隣に寄り添う少女にそっと声をかける。

「リリー、アリューシャは?」


「ダリアが一緒だから大丈夫。それより傷が!」

 リリーヴァレーが自分の髪を結っていた幅広の白いリボンを解くと、クラウゼンの腕に巻き付けた。

 チュールレースに血の赤が染みこんでいく。


 力無く地面に降り立ったキーファを鋭く睨みつけたリリーヴァレーが手をかざすと、さっきの土の突起がキーファの足下から突き上げた。


 弾かれたように跳び上がったキーファは空中をフワリと浮遊する。地面から突き出してくる無数の土槍を美しい弧を描きながら避ける。


 目はリリーヴァレーでは無くクラウゼンを見据えたままだ。




 ショートした頭の中をこじ開けるようにして、今までの出来事が記憶の中から押し寄せた。



『クラウゼンさんは父の友人なんです』


『偶然ドラゴンストーンの事を知ったんだよ』


『背中を預ける仲間が裏切り者かもしれないと思うしかないんだ』



 情報はずっと漏れていた……

 

 レイテ村の事件の書類に記されていた特記事項がふいに頭をかすめた。

『目撃情報を合わせると、土砂の水分含有量が多量だったもよう。現在は高乾燥状態』


 

 イエロードラゴンの『土』だけでは無い。

『水』の関与――――



 静かな響きを持つ声からあふれ出る優しい言葉は、深い森の中の清流のようであり、

 全てを広く大きく受け止めてくれる寛容さは大海原のようである。


 彼のブルーストーンは淡く透けるような水の色では無い。

 海を越えていくような力強い群青色――――



 今までバラバラになっていたピースがキーファの中でカチリとはまる。

「レイテ村の事件の時…………そこにいたのかよ?」


 縦坑の中の風は不安定で、縦横無尽に吹きすさぶ。

 思わずクラウゼンとリリーヴァレーが風を避けようと体勢を低くする。


「どういう事だよ……ジェイドさん!!!」

 キーファの声が叫びとなり縦坑の中をこだまする。


「キーファ……」


「ア……アリューシャの親父さんは友達だろ? そんな人殺して、仲間だったイェーガーもあんたが殺したのか!?」



『あなたの生死は問わないと言われています――――』


 火に巻かれた屋敷の中で聞いた敵の言葉が、今頃になってキーファに襲い掛かる。


「アリューシャさらって…………俺の事も殺していいと……?」

 キーファの胸が詰まる。


 クラウゼンは表情を崩さず、黙ったままキーファを見上げていた。


「違うって言ってくれよ!!!!」

 キーファの感情に呼応して風が更に勢いを増す。



「ジェイドさん、私の土だけじゃ彼に避けられちゃうわ。水を出して」


 クラウゼンがスッと手を掲げると外から轟音がする。縦坑に穿った上部の穴から海水の匂いをはらんだ水柱が悪魔のうなり声を上げて下り立つ。

 リリーヴァレーが足場を作り、二人がそこへ飛び乗ると縦坑の中の地面は土砂の濁流と化した。


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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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