22. 真実の残骸(3)
思い詰めた表情でヨルクが話し始める。
「イエロードラゴンは滅多に出ないんだよ」
「イエローストーンが出ないってこと?」
「ええそうよ。リリーヴァレーの石の特性がイエローだという事。切除された石を他の人間が占有した時にも同じ色を発しのよ。私の石のことだけど」
にっこりとダリアが笑う。
「違いがでるのはシンクロ率だよ。ストーンとのシンクロ率が高ければそれだけ石は輝く」
アリューシャは宝石のように美しく輝いていたキーファのストーンを思い出した。
「まだアリューシャちゃんの知らないドラゴンストーンの秘密は多いわ。パパによおく教えてもらうのね」
「それでここに来たんですか?」
「あー理由? もちろん観光よ。アリューシャちゃんのお勉強にもなるでしょ?」
歩いていたダリアが立ち止まる。後ろに続くアリューシャもヨルクも足を止める。
「それに……まだ役者は揃って無いのよ。一番必要な料理人は確保した。だから次は魚を釣ってこなくちゃね」
「魚って……?」
「もちろんポゼサーよ」
ダリアの黒い瞳には何の感情も見えない。それが返ってダリアの冷酷さを浮き彫りにする。
アリューシャが無意識に後ずさる。
「アリューシャ!」
ヨルクが残されている右手でアリューシャの腕を掴んだ。足下の小石がカランカラと音を立てて崖から落ちていった。
「もうアリューシャに何も言わないでくれ」
ヨルクが言葉を吐き捨てた。
「あら、私は聞かれたから答えただけよ?」
「ダリアさん達はどうしてそんな事をするんですか? 何が目的なんですか!?」
ダリアの黒い瞳にまるで地毛の赤色が乗り移ったように静かな火を灯す。
「目的はこの国を潰すこと――――」
ダリアの言葉でアリューシャの背筋がヒヤリとする。
「どうしてこんな事をするかって? そうねえ、それは好きな人の望みを叶えてあげたいからかしら」
「ダリア!!」
螺旋階段の一番上にリリーヴァレーの姿がある。その声は縦坑の中を響き渡った。ふわりと跳び上がった少女がアリューシャ達の前方へと着地した。
「あら? リリー、お帰りなさい」
「急いでここを出ましょう」
「どうしたの血相変えて」
「連絡が来たの。急いでその子を連れて島から出て!」
あまりに切迫したリリーヴァレーの様子に、ダリアが無言のままアリューシャを肩の
上に抱え上げる。
「ちょっと待って!」
リリーヴァレーがアリューシャの襟元に手を回すと、首から丁子石のペンダントを引きちぎった。
「何するんですか!? それは私の宝物なんです!!」
アリューシャの顔が蒼白になる。
「こんな物……!」
リリーヴァレーがは顔を歪ませ、地面にペンダントを叩きつけると踏み潰そうとした。 しかし上げていた足をゆっくりと下ろすと考え直したようにペンダントを拾いあげた。そしておもむろに自分の首に着けたのだ。
「返して下さい!!」
アリューシャの手を撥ねのけると、表情を硬くしたままダリアに視線を送る。
「行って」
「やだ……」
その場にたたずむヨルクに不安げにアリューシャは目を向けた。
「父さんは!?」
「先生にはラモサ達が付きそうわ」
「何かあるんですよね? 私は父さんと離れません! 一緒じゃ無きゃどこへも行きません!!」
ダリアがくすりと笑った。
「わがままな子猫ちゃんね」
◇ ◇ ◇ ◇
暗闇の中、目標を定めたようにキッキが坑道を前へ前へと飛び続ける。
カーブを曲がった所で地中を突然明るい光の帯が縦断した。
唐突に明るくなったその大きな空間の底に、小さな人影が壁によりかかり倒れ込んでいるのが見えた。
「アリューシャ!!」
クラウゼンの声とともにキーファが深い穴の中へと飛び降りた。真っ直ぐに羽根を広げて飛んでいくキッキと共にキーファも風を使い大きく飛翔した。
倒れ込む人物がスッと片手を上へと掲げる。
「待ってたわ――――」
キーファの位置からも、もうその人物の顔がよく見えた。
アリューシャでは無い、金色の長い髪が暗闇に浮かび上がる。
「キッキ!! 戻れ!!」
急いでキーファが指笛を吹くが間に合わずリリーヴァレーの真上で着地しようと羽根を傾ける。
次の瞬間地面が音を立て巨大な突起がキッキに向かって伸びる。
寸前キーファが起こした上昇気流でキッキが縦坑の上へと吹き飛ばされた。
そのまま縦坑の最上部に開いている穴からキッキが空へと脱出する。
「お前、丁子石を持ってるな!? アリューシャをどこへやった!!!」
「この石そんな名前なんだ? ほら、返してあげる」
そう言ってせせら笑うと、リリーヴァレーが上に向かってペンダントを放り投げた。
キーファが飛び上がると天井部分から岩が落ちてくる。
風でペンダントの軌道を変え、岩を脚で撥ね付けながら回転するとパスンと手の中にペンダントをキャッチした。