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15. そのままで(3)

 部屋の中央の丸テーブルに大きな建物の見取り図が広がっていた。

 並ぶようにしてカサンドラとシルヴィオが座る。


「……それとこことここが新しい配置です」

「ああ、ありがとよ」


 伝達事項を全て言いきると、シルヴィオがまだ机の上を眺めているカサンドラの横顔を見た。

「アリューシャは元気ですか? なかなか顔も見られないから心配で」


「そうだねえ。今は元気だったり落ちてたりいろいろだねえ」

 目線をそのままにカサンドラが答える。


「そうですか。大変な事がありましたしね」


「アリューシャが小さい頃から知ってんだよね?」


「ええ、だから妹見てるみたいで気になってしまうんですよ。末の妹がアリューシャと似てるんです」


「実家にいるのかい?」


「いいえ。もうお嫁にいっちゃいまして、実家もそれは淋しいものですよ」


「そうかい」


「よかったらカサンドラさん、今度うちに遊びに来ませんか? 割と広いですよ? うちの実家。トリーアビーチの近くだから海も見えるし」


「知ってるよ。ハウザー家といえば知らないヤツはいないさ」


「でしたら……」


「行かないねえ……」カサンドラが次は自分の手の中の書類を捲る。


「……じゃあ、夕食でも一緒にどうですか? 最近キルシュ通りにオープンしたローストビーフのお店が人気だそうですよ?」


「美味いもんなら若いの連れて行ってきなよ」


 カサンドラの答えにシルヴィオがフーッと息を吐いた。

「……どこだったら私と一緒に行ってくれますか?」


「団長のとこ」


「それは普通にお仕事ですね」


「普通にお仕事だけで十分だね」


「他の〈若いの〉とは行ってるのに、どうして私とは行ってくれないんですか?」

 

 ようやくカサンドラが書類から目を上げてシルヴィオを見た。

「あんたがこうやって誘うの止めてくれたら考えるよ」


 ずいとシルヴィオが身を乗り出す。

「そう言われて誘わなかったんですけど一向にお声はかかりませんでした」


「そうだったかい?」




 ガチャリとノブがまわり「ただいまあ」とアリューシャが医務室から戻ってきた。


「シルヴィオさん!?」


 椅子に腰掛けて書類を広げるカサンドラのすぐ隣にシルヴィオが座っている。アリューシャの足がピタリと止まった。


 迫力ある美男美女が並んで座っていると圧巻の光景だった。

 お似合い過ぎていい雰囲気だったのではないかと勘ぐってしまう。

  


「シルヴィオがあんたが元気かってさ、心配して来てくれたんだよ」

 カサンドラが笑顔を浮かべる。


「え? そうなんですか?」


「そうだよ。この前元気がなかったからね」


「あ! ……そうでした。この前は一緒にキーファさん待ってもらってありがとうございました」

 あの時の事を思い出すとアリューシャの胸はまだツキンと痛む。

「もう元気ですから」

 ありったけの笑顔を引っ張り出してシルヴィオに答える。


「それなら良かった」

 シルヴィオが安心したような笑顔を浮かべると立ち上がった。


「それじゃ、カサンドラさん。団長のところへ戻りますが、ご一緒にどうですか?」


「あたしは後で行くよ」


「……わかりました」

 シルヴィオが静かに部屋を出て行った。




 自分の荷物をベッドに置くと、テーブルで書類の続きを読むカサンドラの隣にアリューシャがピタリとくっつく。

「カサンドラさんとシルヴィオさんって……どういう関係なんですか?」


「どうもこうも副長同士さ」


「そうでしょうけど、なんだか、なんだか」

 アリューシャの目が爛々と輝く。


「期待に応えられなくて悪いけどね」


「千切っては投げてる相手ですか?」


「まさか!」カサンドラが笑う。


「だって凄くお似合いに見えたんです」


「あの坊やからしたらあたしなんてママに近いんだよ」


「坊やだなんて……シルヴィオさんあんなにステキなのに」


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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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