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10. 飛空船アレキサンドライト(4)

 キーファが眉をよせたまま息を吸うとクラウゼンに目を向けた。

「団長。二人だけで少しお話できますか?」


 クラウゼンが静謐な目をキーファに向ける。

「わかった」


 それを聞いてカサンドラとシルヴィオが部屋を出て行った。



 キーファは揺るがない瞳をもって、彼の尊敬するゼーゲンの長の前に立った。

「アリューシャと親父さんについてはいつから知ってたんですか?」


「10年ほど前だよ」クラウゼンが思い出すかのように遠い目をする。

「お前は私の持病を知っているだろう?」


「はい」


「彼の奥さん、つまりアリューシャの母親と私は同じ病だ。彼は研究をしていたようで、その事を知っていたフィッシャー先生の紹介で度々彼を訪れていたんだ」


「そこで彼がアンブロスの秘法を知っていると?」


「ああ、本当に偶然だったんだ。彼の書斎で目にしてしまったんだよ。砂状化したドラゴン・ストーンの原石をな。立場上取り締まらなければならない私はヨルクに話を聞いた。彼は明言しなかったが、私は彼の話を聞いているうちに思い出したんだ。ドラゴンストーンを切除できる人間がいるらしいという、まことしやかな噂話をな。

 彼の表情を見ていなければそれが噂話などではなく、真実の話だとは思わなかっただろう」


「それがどうして手術を請け負うように?」


「1年ほど経った時にホワイトアウトを起こしたヤツがいたんだ」


「その頃イェーガーに?」


「ああ、お前とは入れ違いだな。古い友人だ。私はそいつが為す術無く石に食われていくのをただ黙って見てはいられなかったんだ」


「だからアリューシャの親父さんに頼んだんですか?」


「そうだ。おかげでヤツは助かった。それからは……そういった者がいれば手術を頼むようになった」


「彼は受け入れたんですね?」


「研究者として続けたいと言ってくれたのだよ。ただこの事は絶対に他言しないと約束してね」


 キーファが顔を歪める。

「本当に秘密にしたんですか?」


「一部の人間だけにはどうしても開示する必要があった。ストーンの管理は国を左右する」


「それじゃあ……」


「それに手術を受けた人間も否応なしに増えていく。私は絶対に信のおける政府関係者に切除した石を預けることにしたんだ」


 キーファが黙り込み考えを巡らせる。

「それでも結局こんな事件が起きてしまった。どうして彼ら親子をきちんと保護下におかなかったんですか?」


「保護はしていたんだ」


「でもいたって普通の暮らしをしていましたよね? レイテ村には役人の詰め所すら無い」


「被害者はヨルクともう一人居たことを覚えているか?」


「はい。確かもう一人農夫の男性が」


「……彼は一線を退いたイェーガーだ」


 キーファの瞳が大きく開く。

 退いていたイェーガーとはいえ、ポゼサーの一般人の警護など格別の計らいだと言って良い。


「ヨルク親子を守るためにレイテ村に潜入してくれていたんだ」


「それじゃ……」


「彼の死因は聞いてないだろ?」

「はい」


「村にポゼサー同士の争った形跡は無かった。この意味がわかるか?」

「まさか……」


「彼は自分の家のリビングで発見されていた。首を掻き切られてね。他の住人は誰一人襲われていない。怪我した者すらいなかったんだ」


「彼の正体を知っていた者が!?」

 キーファが唖然とする。

「どれだけの人間が関わっているんですか? 他にどれだけの人間がアンブロスの秘法を知っているんですか? 政府内の人間って誰ですか!?」


「いくらお前でもそれを話すわけにはいかない。それにアンブロスを死に追いやった奴らの線もある。敵は多く、正体は霧の中だ」


 キーファの顔が曇る。


「…………アリューシャはいつか自由になれますか?」


「今のところは何とも言えないな」


「いつか……」


 いつかみんなに謝りにいきたいと話していたアリューシャを思い出す。美しい夜空の星を見上げていた蒼い瞳が揺れていた。


 キーファが拳を握りしめる。

「俺は絶対にアリューシャを守ります」

 キーファは真っ直ぐにクラウゼンを見据えた。


「ああ、頼んだぞ」


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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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