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10. 飛空船アレキサンドライト(3)

 シルヴィオに続いて二人はクラウゼンの待つ団長室を訪れた。アリューシャとカサンドラも中に入ると後ろから小走りで足音がした。


「キーファさん」アリューシャが思わず笑顔になる。


「すみません、遅くなりました」


「今からだよ」カサンドラが答える。


「目の腫れ引いたな」


「おかげさまで!」

 キーファの顔を見てアリューシャはなぜか安心するような心地を感じた。


「さあ、団長がお待ちですよ」



 部屋の奥の書室、大きなデスクの前にクラウゼンが座っている。

「昨日は大丈夫だったかな? やはり急いで話すものじゃなかった」

 気遣わしげにクラウゼンが話しかけ、目の前の椅子をアリューシャに勧めた。


「違うの。私が望んだことだから」


「……お悔やみを」


「ありがとうございます」アリューシャがきゅっと唇を結び頭を下げた。


「こんな時にすまないが、話を聞かないわけにもいかなくてね……」


 アリューシャが静かに頷く。


「大方のところはキーファから報告を受けているんだが……。アリューシャ、君はお父さんがどうして占有者に襲われたのか、もう理由を知っているね?」

「はい」

「単刀直入に聞くよ? アンブロスの秘法を君は知っているかな?」


 一度目線を下げたアリューシャがクラウゼンの精悍な顔を見つめた。


「私が、アンブロスの秘法を受け継いでいます――――」




 アリューシャは今までのことの全てをクラウゼンに話した。

 父のヨルクが手術のできない状態にあったこと。

 自分が偶然その手術に関わったこと。

 その後の2度の手術の執刀は自分だったことも。



「そうか。襲った奴らはその可能性を考えて君をさらおうとしたのだろう。医学生の娘なら何か知っているに違いないと」


「クラウゼンさん。犯人達の目星はついてるの?」


「まだ捜査中ではっきりとした事はいえないんだ」


「……そうなんだ」


「ただ、絶対に奴らを捕まえてみせるよ。そして君の安全も必ず守る。ヨルクに誓って」


「よろしくお願いします」アリューシャが頭を下げた。


「それで一つだけアリューシャに頼んでおきたいことがある」


「何?」


「秘法についてだよ。アンブロスの秘法は文字通り秘された方法だ。本来は公然とするわけにはいかないシロモノなのだよ。君はそれを身をもって知ったことだろう」


「……うん」


「イェーガーでも知るものはいなかったんだ。うちの連中は信用できる。それでもこの件については話さないようにしてもらいたい。知るのは今この部屋にいるメンバーだけだ」


 アリューシャがカサンドラ、シルヴィオ、クラウゼン、そしてキーファの顔を見回す。



「難しい話はここまでだ。アリューシャはこのアレキサンドライトでゆっくりと過ごして疲れを取ってくれ。今夜は歓迎会をしよう」


「ありがとう」


 クラウゼンがカサンドラに目配せする。

「じゃあ、アリューシャは部屋に戻っていいよ。場所覚えたかい?」


「はい。もう大丈夫です」


「それじゃ、夕食の時にね」シルヴィオが優しく微笑んだ。

 アリューシャも微笑むとキーファの顔を見る。

「後でな」

「はい」




 アリューシャが扉から出ると、口火を切ったのはシルヴィオだった。

「情報漏れの件が気になりますね」


「無線を使っているんだし、役所連中も関わってる。ここが原因なんて事は無いだろ?」カサンドラが困惑した表情を浮かべる。


「俺もそう思います」と同調したのはキーファだ。


「ただ、全ての可能性を考えないわけにはいかないな」クラウゼンが腕を組む。


「団長!」キーファが声を上げた。

「まさかここにスパイなんていませんよ!!」


「わかっている。だがアリューシャの安全が第一だ。違うか?」


「それはもちろんです!」


「じゃあ全ての可能性を考えよう。この事は我々4人だけの胸の内に留めてくれ。そしてアリューシャの周囲にも目を配るように」


 シルヴィオとカサンドラがはいと頷く。

 キーファも物言いたげだったが受け入れた。


「アリューシャの事は父親の件でに狙われている。全員が襲撃を含めてより警戒するようにとだけ通達を出せ」


「はい」シルヴィオが頷く。

「カサンドラ。君はアリューシャをたのむぞ」

「お任せを」



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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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