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10. 飛空船アレキサンドライト(2)

「よし、食べ終わったなら部屋へ案内するよ」

 椅子を鳴らして立ち上がったカサンドラに続いてアリューシャもお皿を持って立ち上がる。


「カウンターに乗せたらいいよ」

 

 そろそろと空っぽになったお皿を置くと、奥で洗い物をしていたマックスに声をかけた。


「ごちそうさまでした! とっても美味しかったです」


 マックスが振り向いて「あいよ」と泡のついた手をあげた。


「もう行くのかよ? 姐御?」

 集団の一人が声をかける。


「あんたらまだいたのかい? 暇なら持ち場に帰んな」


「休憩中なんだからもっとゆっくりさせろよお」


「アリューシャちゃんだってゆっくり飯食えたかどうか」


「いいえ、私は」


 二人の話を聞いていたのか、アリューシャの事がすでに知れ渡っているのか、早速名前を呼ぶ隊員の若者にカサンドラの眉毛がピクリと上がる。


「さあ、行くよ」

 アリューシャの背中に手を添えてカサンドラは先を急がせた。


「じゃあね、アリューシャちゃん。また後でねえ」

 手を振ってくる隊員にアリューシャは頭を下げて食堂を出た。



 再び早足で歩くカサンドラの後ろを駆け足気味について歩いた。

 そのカサンドラがピタリと歩みを止めると、アリューシャも慌てて自分の足に急ブレーキを掛ける。


 カサンドラが勢いよくアリューシャを振り向いた。


「アリューシャ」


「はい」


「あんたキーファとは何でも無いのかい?」

 アリューシャがボンと頭の先端まで赤く染まった。


「キーファさんには、お、お世話になっただけで」


「本当にキーファは指一本あんたに触れてないと?」


 赤い顔のままアリューシャは頷く。


「そりゃ逆に厄介だね」


「……え??」


「実はあんた格闘技が得意だとか無い?」


「無いです。運動全般苦手で」


「……よし!! 部屋は止め! あたしの後についてきな!」


 連れて来られたのは甲板にほど近い、明るい部屋だった。中央に丸い二人掛けのテーブルセットが置かれ、本が山積みになっている。

 

 ベッドスペースが仕切りの向こうに、右側には本棚が、左側は大きなウォークインになっていて扉が開け放たれている。中には所狭しとチェストが押し込まれ、その天板の上にもたくさんの本が積み上がっていた。


「誰かにベッドは運ばせるからこっちの机を本棚の前に移動させるか」

 カサンドラが部屋の中を見回す。

「アリューシャ、そっち持って」


「せーの」


 次はその本棚の前に寄せたデスクの上にウォークインの本を運ぶ。アリューシャもカサンドラに続いて次々と運んでいく。


「ここの連中に悪い奴は一人もいない」


「はい」


「ただ、何というか頭が足りなかったり、真っ直ぐで突っ走るヤツも多い」


「はあ」


「だからさ!」カサンドラが大きな辞書を3冊ドンとデスクに置いてそこに体重を乗せる。


「若くて可愛い女が紛れ込んだら、あいつら舞い上がってどうなることやら」


「す……すみません」

 なんとなくアリューシャはカサンドラに謝った。


「美人の宿命だね」はぁとため息をつく。

 

「あたしも若い頃は言い寄ってくる男をどれだけ千切っては投げ千切っては投げした事か」


 想像するとカサンドラにはあまりにぴったりで、それが大げさな表現には思えない。


「でも……その私はそんな、美人とかでもなく……」


「甘ーい! 甘いね! 無自覚がいっちばん良くない! 今までだって言い寄って来る男の一人や二人いたはずだよ?」


「そんな人はいませ……」

 アリューシャの脳裏に夕暮れのベンチで迫ってきたルカの顔が思い出された。


 空中で視線を止めたアリューシャにカサンドラが揚々とした顔を向ける。

「まさかそいつはキーファじゃ無いだろね?」


「違います! キーファさんはそんな事しません!」


(あの腰抜け)


「はい?」


「いいんだよ、こっちの話」

 

 天板がようやく見えたチェストの端を持つとカサンドラの反対側に回ってアリューシャも天板を持った。


「じゃあ、せーのであたしのベッドの横まで移動しよう」


「せーの!」


 片付いたウォークインは思っていたよりも奥行きがあり、小さな書斎ほどの広さがある。


「ここにベッドを置いたら、とりあえずアリューシャの寝室には使えるね」

 カサンドラがニッと笑った。


「お部屋間借りしてもいいんですか?」


「アリューシャが気を使っちゃうかな?」


「そんなことは全然! 実はホッとしてます」


「ほんとは別に部屋は準備してたんだけどねぇ。落ち着いてから移動してもいいしさ」


「ありがとうございます」




 トントン――――


 丁度その時部屋の扉がノックされた。

 カサンドラが勢いよく開くとシルヴィオが立っている。


「今戻りました。アリューシャは一緒ですか?」


「ああ、一緒にいるよ。タイミングのいいこと」


 部屋の奥に立っていたアリューシャにシルヴィオが目を向ける。


「アリューシャ。もう大丈夫?」


「大丈夫です!」思わず衣服を手で整えながらシルヴィオに向き合った。


「そうか、良かった」シルヴィオの優しげな微笑みにアリューシャがうっとりとする。


「じゃあ、団長の所へいいかな? カサンドラさんも一緒に」


「はいよ」


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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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