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8. take me home(3)

「……キーファさんのご両親はどんな人ですか?」


「俺の親父は靴職人でさ。母さんは普通の主婦だよ。後は三つ上の姉ちゃんが一人」


「4人家族なんですね。お姉ちゃんがいるなんて羨ましいな」


 キーファがあー……と言いながら頭を掻いた。

「そうなんだけど……ベラージュの町に俺がいたのは墓参りに行ってたんだよ。俺の故郷の近くでさ……みんな死んじまったから」


「そうだったんですか。すみません。私……なんか……思いもよらなくて」

 自分だけが不幸を背負っているような顔をしていたことにアリューシャはいたたまれなくなった。


「やっぱりしんみりとした話になるよな!? ずいぶん前の話だよ。今は団長を親父みたいに思ってるし、イェーガーの仲間達は兄弟だよ」


 アリューシャの沈んでしまった表情にキーファが明るい声を出した。


「今はアリューシャもキツイかもしれないけどな」

 キーファが柔らかい笑みでアリューシャを見つめる。


「私も…………いつかキーファさんみたいに笑って話せるようになる日が来るのかな?」


「生きてりゃ誰かに出会う。その人の代わりになんて誰もなれないけど。でも開いた穴はいつか他のあったかい何かで埋まってたりすんだよ」


「そっか……」

 アリューシャがまだ滲んでいる目元をもう一度指で払うと、夜空を見上げた。 

 木々の間から見える藍色の空に、星の運河が広がる。一つ一つが宝石のように瞬く。

 そのままアリューシャはごろんと仰向けに倒れた。


「星がきれいに見えますね。明日も晴れそう」


「そうだな。明日にはバルバロスにつくから、野宿も最初で最後だ」


「こんなにキレイな星の下ならもう一晩くらいこうしててもいいかも」


「じゃあ本船の甲板で寝るか? ここよりももっと星がよく見えるぞ?」


「キーファンさんもつきあってくれます?」


「俺は見張り当番の時は、嫌でも一晩中甲板にいたりするんだよ」


「じゃあそれにつき合います」


「上空は風が強くて寒いから、たぶん風邪ひくぞ?」


「私こう見えても寒さに強いし、風邪だって全然ひかないんで…………クシュッ!」


 目が合った二人は思わずフフと笑った。


「言ってる側から風邪引いたんじゃないか?」

 キーファが枕にしていた自分のジャケットを広げると、アリューシャの毛織りの上に掛けた。


「キーファさん……このままこっち側で寝てもいいですか?」


「ああ、いいよ。俺があっちに行くから」


「そうじゃなくて…………隣で眠ってもいいですか?」


「俺は……構わないけど」


「さっきみたいに一人で座ってるよりも、近くに居る方が全然暖かいです」


「そうだな……」


「一人じゃ本当に凍えちゃって風邪どころじゃなかったかも。キーファさんが一緒にいてくれて良かったなあ」


「あんまりそういう事言うなよ。……『優しい』とか『頼りになる』とかもさ」


 アリューシャが目をまん丸に開いて飛び起きた。


「ルカと話してたの聞いてたんですか!?」


「そりゃ、すぐ上にいたから聞こえるさ」


「もぉ……恥ずかしい」顔を両手で覆った。


「その『信頼』に応えるから、もう寝ろよ」

  

 ぱたぱたと両手で頬を叩くと、キーファに背を向けてまたアリューシャは横になった。


「……おばさまの怪我、大丈夫かな?」


「アリューシャの応急処置が良かったからきっと早く治るさ」


「いつかおばさまやルカやハース家の人たちに謝りに行きたいです。レイテ村のグラートにも。……大切なフィンの洋服も焼けちゃったし」


「いつか行けるよ」


 背を向けていたアリューシャがキーファの方へと寝返りを打つ。

「キーファさん……」


「なんだ?」


 アリューシャは『ついてきてくれますか?』という言葉を慌てて引っ込めた。それはキーファの『任務』の範疇外だ。


「……おやすみなさい」

 そう言うとアリューシャはまたキーファに背を向けた。

 

「ああ、おやすみ」

 手に持っていた小枝を火にくべると、キーファもアリューシャに背中を向けて横になった。


 

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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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