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8. take me home(2)

 陽が昇るまで仮眠をとると二人はチェックアウトを済ませて宿を出た。大きく伸びをして空を見上げているアリューシャにキーファが声をかける。


「アリューシャ、一つ言っておきたいことがあるんだ」

 改まったキーファの言い回しにアリューシャがギクリとして腕を下ろす。キーファがいつもとは違う真剣な目をして立っていた。


「行き先はイェーガーの本船。停泊中のバルバロスの町だ」

「ええ……」

 目指す場所はとうにわかっていたイェーガーの本船。


 飛空船アレキサンドライト


 それをあえて確認するキーファをアリューシャは少し不思議そうに眺めた。


「俺は……やっぱりどこからか俺たちの情報が漏れていると思っている」


 今度こそ本当にアリューシャの心臓が嫌な音をたてた。


「でもそれはイェーガーじゃない。あの船は俺の家で、仲間は家族同然なんだ。だから……」


「キーファさん」アリューシャが静かに口を開く。

 

「私も信じています。イェーガーの人はあんまり知らないけど……。でも私が知っているクラウゼンさんもシルヴィオさんも絶対に私や父さんや、他の人たちを危険な目に遭わせることなんてしません」


 アリューシャがにっこりと笑う。

「それにキーファさんもです」


 見つめてくる真っ直ぐなアイスブルーの瞳から思わずキーファは目を逸らした。

「案外イェーガー知ってるじゃないかよ。そんなに知ってる一般人はいないぞ?」


「そうかもしれませんね。私ってラッキーなのかな?」


 キーファがフッと笑った。

「じゃあ、行き先も確認したことだし、改めて出発するか!」

「はい」


「ここからだとまだまだ歩くからガンバレよ」

「はい!」

 朝の目映い光の中を二人は並んで歩き始めた。



◇ ◇ ◇ ◇

 フリージャの町から飛空船を使う予定にしていた二人だったが、ハース家での襲撃を受けて大幅にルートの変更をしていた。

 時間はかかってもなるだけ人のいない道を、地道に歩いてバルバロスを目指す事にしたのだ。


 ハース家の屋敷を出てから三日。最後の難関はフォンデルス山の峠を越える事だった。標高は高くないが、その道程に宿や山小屋は無い。この山を越えるなら飛空船を使う事が一般的だった。

 地元民だけが使う樹木に閉ざされた山道を二人は進んだ。



「結局こんな山の中で野宿になったな……大丈夫か?」


「平気です。キャンプに来たと思いますから」


「この時期は虫は気にしなくていいが、とにかく冷えるんだ」

 キーファとアリューシャは寒気を避けようと岩と灌木に囲まれた場所を寝床として選びたき火を起こしていた。

 火を挟んで二人が話す。


「たき火の近くで眠ったほうがいいんだけど、寝ぼけて突進するなよ?」


「しませんよ」

 キーファの煎れてくれた熱いお茶に口をつける。


「あ、そうだ! 忘れてた!」

 自分の後ろに置いた荷物をがさごそと漁るとアリューシャは茶色い紙袋を取り出した。


「それ、麓の店で買ってたやつだよな?」


「はい。マシュマロです」


 袋から白いマシュマロを二つ取り出す。細い枝を拾うとそこに刺してたき火であぶり始めた。

 砂糖の焦げ付く甘い香りが鼻孔をくすぐる。


「マシュマロを焼くのか?」


「待っててくださいね。もうちょっと」


 表面に黄金色の焼き目がつくと、アリューシャがキーファの隣に移動した。

「食べてみてください」


 マシュマロを囓ってみると表面の焦げた部分ががサクッとし、中のマシュマロがとろんと糸を引く。砂糖の甘みが口の中に広がって溶けた。


「……美味い!」


 そのキーファの表情にアリューシャは満足気に笑った。

「よく父さんと母さんとキャンプファイヤーをしたんです。家の庭でだったけど。母さんが焼きマシュマロ大好きで、父さんがたーくさん買ってきちゃうんですよ。母さんが『太っちゃう』って言いいながら一番食べてて……」

 微笑んでいたアリューシャがキュッと唇を噛んだ。


「アリューシャ……」

 

目をゴシゴシと擦るともう一度笑顔を取り戻してからキーファに顔を向けた。

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ルーセント・ムーンの獣」ルーセント・ムーンシリーズの第一作。現代と異世界の間で心が揺れ動く女子大生の冒険ラブファンタジーです。こちらもよければご覧ください。
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