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5. ドラゴンストーン(1)

 森の中をどんどん進み、緑が色を濃くした林道沿いでキーファは足をゆるめた。夏には狩人が使っているだろう、閉め切られた山小屋を見つけると太い杉の枝から飛び降りた。



 小屋の前でアリューシャをそっと地面に下ろすが、膝はガクガクと震えて上手く立てない。慌ててもう一度キーファが支えた。

「大丈夫か?」


「はい」

 アリューシャの手を引いて、キーファは小屋の中へ入っていった。

 

 炉に火を入れるて明るくなると、キーファがアリューシャの頬にできた爪の先ほどの小さな傷に気づいた。


「木がはじけ飛んだときか?」

 アリューシャの頬の傷に持っていた布きれをそっと当てる。

 薬を出そうとキーファは自分の荷の中を探った。


「キーファさんは風を操るんですね」


「ああ。俺のはグリーンドラゴンだよ。巻き込んですまなかったな」


「いえ、そんな。巻き込んだのは私の方ですから」

 アリューシャはようやく落ち着きを取り戻していた。


 キーファが沸いた湯を金物のマグに入れると、小さな葉っぱを浮かべてアリューシャの手に握らせた。


「熱いからな」

 アリューシャがカップに顔を近づけると湯気が目に沁み、レモンの良い香りがする。


「アリューシャ……何があったのか話してくれるか?」

 キーファが今まで見た事が無いほど厳しい表情をしている。




 キーファがゼーゲン騎士団に入団し、占有者としてイェーガーになってからの経験もさほど多くは無い。それでもこの事件からは言いしれぬ闇を感じていた。

 父親が殺され、その娘が占有者に追われるなど第一級特殊事件の中でも根が深い。


 一度深呼吸すると呼吸するとアリューシャは頷いて、真っ直ぐにキーファを見つめた。



「父は医師で……私も医師を目指しています」


 確かに報告書にはそう書かれていた。キーファは記憶を呼び覚ます。被害者家族の欄に羅列された情報。

 アリューシャ=アンダース、シュトラーゼ学術院ドクトルマエスター科の3年。


「医師になる為には通常二通りの方法があるんです。学術院でドクトルの研究を修めるか、もしくは現役の医師に師事するんです。弟子入りして学ぶということです。

 父が医者だったので私は当然父に師事して医師の資格を取ろうと思っていました。でも父は学術院に入るように私に勧めたんです。きっと世界が広がるだろうって」


 アリューシャはその時の事を思い出し、まるで遠くを見るように舞い上がる火の粉を見つめた。


「だから、私は帰省した時だけ父を手伝いながら臨床を学んでいました」


「今回はフォルク祭の休暇で実家に戻ってきていたんだな?」


 アリューシャが首を横に振った。

「ほんとは……この休暇では帰る予定じゃ無かったんです。友人の家に遊びにいくつもりで。それが急にダメになったんです。友人の親戚に不幸があったとかで。予定を変更した私は父さんに電話したんだけど繋がらなくて。それで近所のグラートに電話したんです。そしたら駅まで迎えに来てくれるって。父さんを驚かしてやろうなんて話してたんです」


「それがどうしてあんな事になった? 何か心当たりはあるのか? お父さんが狙われた理由は?」

 


「父は……村の医者ですが、それだけじゃなくて……」

 アリューシャは一呼吸おいてキーファに顔を向けた。


「『ドラゴンストーン』に関わる仕事も請け負っています」


 キーファの目の色が変わる。

「ドラゴンストーン!?」


 アリューシャがそっとキーファの首筋に人差し指を向けた。


「父はソレを取り除く事がができるんです」


「これを!? まさか!?」

 キーファは己の耳にはめられたシルバーのイヤーカフを触った。そこから繋がるチェーンの先に爪を当てた。

 小さくカツと音をたてる。


 そこにあるのは〈シルフの得難き口づけ〉


 中心部はエメラルドよりも深いグリーン

 そこから放射状に淡いブルーが走り、森林を映す湖をそのまま閉じ込めたよな透明度の高い石



「取ることは不可能だ。これを取られれば占有者ポゼサーの命は無い。この石も同じく、人間と一蓮托生だ」

 

 アリューシャが静かに首を横に振った。

「いいえ。誰も犠牲にせずに、石も朽ちる事無く、無事に取り除く方法があるんです」

 

「まさか……」キーファの目が大きく開いた。


 これまでに起こったことを一つ一つ、自らも確認するようにアリューシャが語り始める。



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