蒼の覚書2
カホ視点
加護の話
この世界で最も恐れられている刑罰は、おそらく加護の剥奪である。一度失った加護を再び授かることはまずできない。そして、加護の剥奪の中で最も重いのが友愛の女神の加護の剥奪である。
この世界には様々な姿をした"人間"がいて、様々な"モンスター"がいる。その違いが何処にあるかといえば、友愛の女神の加護――すなわち、言葉による意思の疎通が可能かどうか、である。勿論、同一の言語を使っていれば、友愛の女神の加護がなくとも言葉は通じるのだが、当然地域によって使用言語は異なっている。加護を失えば余所の土地では言葉が通じず、モンスターとして扱われることともなる。つまり、友愛の女神の加護を剥奪するとは、人の身からモンスターへと堕とされるということを意味する。このため、この刑を受けたものは寧ろ野に放たれる。地元では加護を失ったことが広まって肩身が狭くなり、他の地に向かえば言語が通じずモンスターと見做される、というわけだ。
もっとも、長命を誇る精霊族なんかになると自力で多言語を覚えて別に困らないという場合もあるが。他の神の加護は紋様が躯に刻まれたり虹彩に色が加わったりなんやかんや目に見える形で印が刻まれることもままあるが、友愛の女神の加護は基本的には肉体的な変化はもたらさないのである。
そもそも、神様の加護というものは神への信仰の対価である。この世界において、信仰は極めて即物的な行為である。人として認められるために必要なことであり、一人前と認められるために必要なことである。具体的に何が必要になるかは神によって違うので何とも言えないが、私が加護をいただいている剣の男神なんかは日々剣の鍛錬を欠かさないことが求められる。私の意志で決めたことではなく、父の指導だ。騎士たるもの、剣の一つも振るえなければならないとかなんとか。私は幼いころから騎士になるつもりなぞ欠片もなかったが、一定の戦闘能力を得られたことに関しては父に感謝していないこともない。
また、神から与えられるものとしては祝福というのもある。こちらから求めていないのにあっちが勝手に見初めて与えてくる加護のことである。私も我が種族の例に漏れず富財の神の祝福が与えられているらしい。まあ、お金に困ったことはないので、そうかもしれない。
人が得られる加護や祝福に限りはないが、加護には制約(すべきことの場合としてはいけないことの場合があるが)がつきものなので、複数の加護を得ればそれだけ行動に制限をかけられることになる。制約を破り続ければ神によって加護を剥奪されることもありうる。それは非常に不名誉なことだ。ある意味で、刑罰で剥奪されるより不名誉かもしれない。
そういえば、稀な例だが、自力で言語を習得する以外にも例外があった。迷宮遺産の中には、所持者に神の祝福を得ているのと同じ効果をもたらすものがある。それで友愛の女神の祝福を得れば実質加護があるのと同じことになるだろう。色んな意味で滅多に手に入るものではないが。普通の人間にはガラクタみたいなものだし。収集者なら欲しがるかもしれないが。
迷宮遺産には貴重な魔導具が多いが、そういう、普通の人間には使い道のないものもある。それらは紙が用意したものだというが、まあ…いわゆる客人のための道具なのだろうと、メタ的に考えて私は思っている。実際、遭遇したことはないのだが、そういう伝説が時々ある。異世界から紛れ込む人間…特に裸人族が多いとかなんとか。でもって、裸人族至上主義が祟って神々から制裁を受けたというオチがつく場合もままある。
ちなみに、友愛の女神はその名の通り友愛を尊ぶ女神である。故に違う人間を虐げる人間からは加護を剥奪するともいう。他種族をその意思を封じて奴隷にするやつとか。まあ、女神が自分で気付いて剥奪する例は少ないらしいが。なにしろ、友愛の女神は全てのに人間に加護を与えている。全てに目を配ることはできないようだ。まあ、神殿に参ればほいほい加護くれる女神だしな…。
神々には、それぞれに贔屓の種族というのがある…らしい。私もすべて知っているわけではないが、祝福って大体そんなもんである。個人のなんやかんやを見初めている場合もあるらしいが。私に与えられた祝福も推定種族由来である。




