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『あーあー聞こえますか?ドーゾー』
無線のようなざらっとしたノイズも混じらぬ通話ソフトで、開口一番通話相手がそう言うものだから夕海は少し笑ってしまった。
一先ずプレイ前に諸注意を伝える算段で、夕海は先に紗智子へと通話を繋いでいた。勿論、チャットで返すなんてまどろっこしいマネはしたくないと限定解禁のマイクを携えて。
「こちら夕海、聞こえますよ。Over」
相手のノリに乗じて返すとはっと息を呑む気配を感じる。
『あ、そっちの方がかっこいい!じゃなくて、取り敢えず繋いだけど師匠は?』
「まだ呼んでない。先にさっちゃんに伝えたい事があって」
『ネナベしてるのと声出せない以外で何かある?』
おずおずと切り出した言葉に被せる様に返され、夕海は一瞬言葉を失った。話が手短に済むその察しの良さは本当に舌を巻く。
「…さっちゃんの記憶力には恐れ入ります…で、さっちゃんマイク使うよね?」
『まぁ私チャット打つの遅いしそのつもりだけど』
「うん。で、私ネナベ、さっちゃん女の子でしょ?」
『うんうん。あ、師匠には私が女って言ってるの?』
「もち。それで…」
『あ、彼女って思われるんじゃない?それはどうなの』
「ホント話が早くて助かる…取り敢えず、学友って話はしてるからゆーJIくんの片思いで押し切ろうかなと。まぁ聞かれないとは思うけど方向性だけ一応」
『マジ?いいのそれ…うける』
どうやらツボに入ったらしい紗智子が一頻り笑い終えるのを待って、夕海は至極真面目な口調で答えた。
「だってさっちゃんのこと、だいとぅきだし」
『ぶっ…とぅきって、夕海…古いよ…それ…っふ、ははは』
更に笑って笑い疲れた紗智子のひーひーと言う悲鳴を聞きながら、夕海はマイクのスイッチをオフにする。
≪ゆーJI:さーて、呼びますよ≫
『おっけー』
ぽちりと招待ボタンをクリック。
どうやら呼吸音をマイクが拾ったらしい、すうとやや緊張気味に息を吸い込んだ後、聞き馴染みのある低音ボイスが聞こえた。
『えっと、もしもし?』
『お、噂の師匠?こんばんはーゆーJIに唆されたさーちゃんです』
『こんばんはーさーちゃん、さん?』
『さんなくていいですよ。呼びづらいでしょ?』
『じゃあさーちゃんで。僕は弾速です、よろしくね』
『よろしくおねがいしまーす』
夕海の知り合いという話をしているからか、弾速はいつもより気安い口調で話している。
流されていく自分が打ったこんばんはの文字を眺めながら夕海は喋れないことのもどかしさを感じだ。
(仕方ないけどリアタイには負けるよなぁ…ちょっぴり寂しい)
『ゆーJIさんもこんばんは。それじゃ、やろうか』
≪ゆーJI:おーけぃ≫
『はーい』
文字と声の返事を受けて、弾速はちょっぴり得意げにパーティコールと告げて夕海と紗智子をゲーム内パーティに呼び寄せた。
「さて、夜はこれからですよ!」
誰にともなく発した言葉は、自室に木霊するのみであった。