8 第六幕 ンガイの森
『燎原の炎』
綾野祐介
8 第六幕 ンガイの森
ウィスコンシン州北部、チェクワメゴン=
ニコレット国立森林公園からはそう遠くない
リック湖近くにその森はあった。但し、周辺
はほとんど森であり、その中でンガイの森と
呼ばれる場所が何処なのかは判別するのが難
しい。元々そこはナイアルラトホテップの地
球上の住処であった。建物があるわけではな
いが、ナイアルラトホテップとて通常の形態
は不定形であり建物としての住処を必要とし
ている訳ではないからだ。
クトゥグアとナイアルラトホテップは、書
かれた物によっては対立しているかのように
記述されているが、実際はそんなことはない。
そもそも旧支配者同士で敵対などする筈が
ないのだ。お互いがお互いを相いれない存在
として認識している、というのはまだいい方
で、相手を全く認識すらしていないことの方
が多い。相手にすらしていない、ということ
だ。
だから、ナイアルラトホテップの住処であ
ったンガイの森をクトゥグアが気まぐれに焼
き尽くしたのは、別にナイアルラトホテップ
を敵対視していたからではない。本当にただ
の気まぐれだった。
しかし、ナイアルラトホテップからすると
自らの拠点を焼かれたことに変わりはない。
当然、クトゥグアのことをいいように思って
いる筈もない。但し、旧支配者同士の関係と
しては、そんな単純に説明できるような関係
ではない。
そして、住処を追われたナイアルラトホテ
ップは、別の住処を構えるのではなく、世界
各地にある星の智慧派の拠点を積極的に訪れ
出した。自らの究極の目的の為に、精力的に
動き出したのだ。それが、人類にとっては、
いいこととは到底言えないことだった。クト
ゥグアの気まぐれはナイアルラトホテップの
更なる暗躍を生んでしまったのだった。