表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

3 第二幕 甲賀 火野の将兵

『燎原の炎』

                綾野祐介


3 第二幕 甲賀 火野の将兵



 日野里の若者は18歳になると村を出るこ

とになっている。ある目的・使命があるかだ。

火野将兵も18歳になった月に村を出た。同

じ年に18歳になったのは将兵だけだった。


 将兵の2年前に18歳になって村を出た青

年は普段からの言動をみて村の使命は負わさ

ずに放逐されたことになっている。但し、二

度と村には戻れない。出た本人からすると、

その方が気は楽だろう。使命を負わされない

よう、普段から軽薄なイメージを作っていた、

という風に将兵は思っていた。賢い青年だっ

た。将兵にはそんな技はない。普通に正直に

生活しており、村の秘密を負わされて村を出

ることになったのだ。


 村に生まれた男子として仕方ない、と思っ

ていた。18歳なると、ではなく、生まれた

時から背負わされているのだ。自らの人生を

運命として受け入れているはずだった。


 村を出てすぐ、将兵は東京に向かった。東

京の広尾に村の拠点でもある会社が存在する

からだ。そこは村を出て戻らなかった者が経

営する警備会社だった。とりあえずは、その

会社に就職し都内で活動を始めるたのだった。


 特に目立って活動も出来事もなく、警備会

社の仕事を普通に熟していた将兵は、使命と

は何かを考え始めていた。一族の悲願、村の

掟、使命と言われても、現実社会には合わな

いし元々現実的ではない、と感じ初めていた

のだ。都会には情報が溢れている。その何れ

もが村の使命を否定していた。将兵は無為に

2年近くを過ごしてしまっていた。



 そんな将兵をある外国人が訪ねてきた。浅

黒い風貌からはどこの国の人かが判別付かな

かった。


「火野将兵正君だね。」


「そうですが、あなたは?」


「私は星の智慧派のナイという者だ。お主に

興味があって訪ねてきた。」


 星の智慧派の話は村で聞かされていた。敵

対する旧支配者の陣営だと思っている。訪ね

てきたのはその指導者と目されているナイ神

父その人だったのだ。


「ナイ神父様ですね、初めまして。僕に何か

ご用ですか?」


「そう緊張することはない。我はただ興味が

あって訪ねてきた、それだけだ。お前たちの

組織をどうこうしようと思っている訳でもな

い。お前たちはお前たちの使命を全うするよ

う努力すればいいのだ。」


「では、本当に興味本位でお越しになられた

と仰るのですか?」


「さっきから、そう言っておるだろうに。ま

あ信用できない気持ちも判るがな。しかし火

の民と呼ばれるお前たちの中でも群を抜いて

お主の能力は高いようだな。」


「そうなのですか?自分ではよく判りません

が。」


「そうだな。お前たちの主に人間としてはか

なり近いところに居るようだ。面白いな。我

の下で働かないか?」


「そっ、そんなことができるとでも?」


「おう、できようとも。少なくともここに居

るよりお主の使命を達するには都合がいい情

報が集まる可能性は高いぞ。」


 とんでもない提案だった。星の智慧派やダ

ゴン秘密教団とは相いれないと思っていた。

少なくともそう教えられていたし、過去の歴

史は如実に物語っていた。旧支配者同士に連

携などあり得ないのだ。旧神との大戦以後特

に疎遠、というよりも敵対しているはずだ。


 各々の眷属や人間世界での支援組織にして

も同様だった。過去ずっとそうだったのだ。


「私を火の民と知って仰っているのですね。

その真意はどこにあるのですか?」


「真意も何も、お主たちの使命が達しやすく

なるよう手伝いをしてやろうと、ただそれだ

けだ。誓って他意はないないぞ。」


 確かに火の民の組織は脆弱だった。日本国

内に限られていたことも致命的だ。逆に星の

智慧派はアメリが本拠であり、世界中にその

触手を伸ばしているのだ。将兵の使命を達す

るには情報が不可欠だ。その情報の中心と言

える星の智慧派なら様々な稀覯書の閲覧も可

能かも知れない。


「すッ、すぐにはお返事できませんが、少し

だけ考える時間をいただけますか?」


「好きなだけ考えるとよいわ。また折を見て

来る。」


 そう言うとナイ神父は消えてしまった。



 将兵が村に戻った相談事とは星の智慧派に

入ってもいいかどうか、ということだったの

だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ