26 第十一幕 インスマスの再興(4)
26 第十一幕 インスマスの再興(4)
オーン家の居間に通されて二人はオーンの
出発準備が整うのを珈琲を飲みながら待って
いた。
居間には大きな暖炉がある。その上には数
多くの写真立てが並んでいた。ウィリアム・
オーンその人の写真もあった。父親と思しき
男性と二人で写っている。彼が写っているの
は、その一枚だけだった。他はもっと上の世
代の人々の写真だろうか、どう見ても写真が
古いものが多い。
「少し変じゃない?」
風間真知子が岡本浩太に問う。それは浩太
も思っていたことだった。
「確かに、どう見てもウィリアムさんの父親
がどの写真にも写っているみたいだ。」
父親はウィリアムとの一枚の他の全てに写
っているように見えた。但し、それぞれの写
真に写っている人々は、その背景である自宅
の風景から見ても時代、時代で変わっている
ようなのだが、父親だけが全く同じように写
っている。
「まさか。似ているけど何代にも渡っている
写真だよ、多分。」
「確かに、この家の横の木の成長をみたら、
写真ごとには相当年を経ているみたいだから
同じ人ってことはあり得ないものね。」
「何かあったのかい?」
突然後ろからオーンが声をかけてきた。
「いっ、いえ特に何も。写真を見せていただ
いていただけです。」
「ああ、それは父と家族の写真です。僕も写
っているのが一枚ありますよ。」
やはり彼と写っていたのは父親だった。た
だ問題はほかの写真たちだ。
「他の写真はお父さんの写真と祖父や曽祖父
のものですか?」
オーンは浩太の顔を怪訝そうに見返した。
何を聞いているのか判らない、という顔だっ
た。
「これは全部父の写真だよ、変なことを言う
ね、もう準備が出来たから出発しよう。」
写真の話はそれ以上できなかった。