25 第十一幕 インスマスの再興(3)
『燎原の炎』
綾野祐介
25 第十一幕 インスマスの再興(3)
「オーンさんどうしたんですか、こんなとこ
ろで。」
インスマスの入口付近で別れたはずのウィ
リアム=オーンが不意に現れた。
「うん、君たちが教会跡に行くって言ってた
から、ちょっと心配になってね。色々とあっ
た教会だから。」
「そうなんですね。でももう全て調査とかが
終わってて何も残ってないみたいなんですよ。」
少し訝しんだが、浩太は素直に答えた。逆
に何かを見つけていたとしたら、オーンはど
んな態度に出るか判らなかったからだ。
「そうなんだ。残念だったね。で、君たちは
これからどうするんだい?」
「特に何も考えていませんが、そろそろアー
カムに戻ろうとおもっています。」
「行きの時にも言っていたけど僕の用事が終
わるのを待ってくれるのなら今日中にはアー
カムに戻るから、また乗せて行ってあげるよ。」
行きの時もそうだったが、どうもオーンの
目的が判らなかった。ただ親切なだけとは思
えなかったのだ。しかし、他にアーカムに帰
る方法もないのは確かだった。
「ではお待ちしていますので、よろしくお願
いします。」
「一緒に僕の家に来て、そこで待っていてく
れれば出るときにも便利だからついておいで
よ。」
二人はオーンの家に着いていくことになっ
た。
ウィリアム=オーンの家はインスマスの東
の外れにあった。海からも遠く離れており、
周辺の数軒の家は健在だった。
「ここらあたりは大火の被害にあわなかった
んですね。でも、どの家も住んでいる人はい
ないようですが。」
「そうだね、ここらで実際に使用している家
はうちだけかな。他は家は残っててもアーカ
ムに越していってしまったみたいだよ。イン
スマスでは店もやってないので、まだまだ生
活するのは難しいから。でも、多分もう少し
し住民が戻ってきたらウェイト雑貨店も再開
して賑やかになるんじゃないかな。あまり被
害がなかったみたいだから。」
インスマスが復興していくのは良いことな
のだろうか。その呪われた繁栄は、再興すべ
きではないのではないか。そこに戻って住も
うとしているオーンの前では、そんな事は言
えるはずもなかった。