10 第七幕 火の民の役目(2)
『燎原の炎』
綾野祐介
10 第七幕 火の民の役目(2)
火の民の出自は不明である。いつしか火の
民と呼ばれるようになった。一族としては飛
鳥時代や奈良時代まで遡れるようだが定かで
はない。始祖は役行者と戦っただの、いや共
に戦っただの、その修行に協力した、だの伝
説が伝わっているが、火野将兵は信じてはい
なかった。ほとんどが後付けの話であろう。
一族の中のごく少数に遺伝している能力が
ある。俗に「パイロキネシス」と呼ばれる発
火能力である。極端な場合指の先から炎を発
することができた。また、意識を集中させた
場所に発火させることもできた。
発火能力を持つ者は一族の中でも尊重され
その者を中心に一族は結束しクトゥグアの封
印を解く目的に向かっていくのだ。
火の民とクトゥグアの関わりも実際のとこ
ろは詳しく伝わっていない。なぜクトゥグア
を信望し、その封印を解こうとしているのか
は、今となっては一族の誰も知らなかった。
火野将兵の発火能力は一族で過去一番発火
能力が高かったと言われている三代前の長を
遥かに凌いでいた。但し、それを知っていた
のは本人のみで父である宗次も気が付いてい
なかった。宗次には発火能力は皆無だったの
だ。
火の民としての自らの能力、一族としての
今までの経緯と将来。火野将兵は様々な観点
から自分が何か一族の岐路を決定づける存在
になるのではないか、という不安定ではある
が確信めいたものがあった。