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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

優しくしないで

作者: 須谷

短めBL

最初の方暗めです

「お前なんて初めっから好きじゃねぇよ。」


 中学校3年間ずっと優しくしてくれていた人は、中学校の卒業式の日にそう僕に言い放った。

その人はずっと親友だと思ってた人だった。

 そう、裏切られたのだ。結局ずっともてあそばれていたのだ。僕は、彼の手のひらの上で踊らされたいただけだったのだ。

 別に他に友人がいなかったわけではないけど、一番仲が良いと思っていた友人にそういわれるのはすごくショッキングな出来事だった。

一番だと思っていた分、傷もかなり深かった。

 それ以来だろうか。僕は人を信じることができなくなった。

 

 僕は高校生になった。

 今の高校の志望動機といえば皆無で、親に言われたからの一点張りである。

家では僕の意思なんてものはほとんどなくて、なんでも言いなりだ。

僕は親の人形のようなものである。

 

 僕の弟は勉強の出来がとことん悪かった。

その反動なのか親は僕に、自分たちの評判が良くなるように、ひたすらに勉強を押し付けた。

本来弟がやるべきだった分まで、兄の僕に。

 しかし、子供というものは親には逆らえない。

血のつながった親は、子供にとって絶対である。

どんなに理不尽でも、血のつながりからは逃げることができないのだ。

 そのせいで中学生の間は1,2年の時ですら、ろくに友人と遊ぶことなんてできなかった。

そのせいだったのかもしれない、嫌いと言われてしまったのは。

味気がないと思われてしまっていたのかもしれない。

中学生で放課後遊べない上に、部活に入らずずっと塾に行っている奴なんて、嫌われるに決まっている。

 高校生になってやっと塾からは解放されたのだけれど、今になってはもう遅いしどうでもいいことだ。上面だけの友人すら作る気はないのだから。

 

 だから、家にも学校の人間にも、僕には相談相手なんてものがいなかった。

卒業式であったことをいうひとなんて、もちろんどこにもいなかった。

 僕は悩みを発散する場所を持てず、ひたすら自分の中に悩みをため込んだ。

 募りに募った悩みは、僕の人間不信を悪化させた。

僕は卒業式のあの日に言われた言葉を、何度も何度も頭の中で繰り返した。卒業から入学までの約1か月間。ずっと。初めは人なんか信じない、と思うだけだったのに、日に日に人が怖くなっていった。

 高校に入るころには、周りの人間みんなが裏表のある怖い人にしか見えなくなった。

 だから僕は高校生になったのにもかかわらず、何もできない。

話すことも、楽しむことも。唯一できることといえば勉強だったから、僕はひたすらに勉強に打ち込んだ。

 僕は高校3年間、ずっと友人など作らずに勉強だけをしているつもりだった。

 なのに、その僕の計画を打ち砕くやつが現れた。

 

 彼は誠といった。名前からして、いい人だった。

そいつは僕にニコニコしながら話しかけてきた。

“なんで勉強ばかりしているの?俺と話さない?”

 僕はなんで自分が話しかけられるのかが分からなかったし、やっぱり人が怖かったから。

自分に言い聞かせた。この人は裏がある怖い人。そうでもしなければ期待してしまいそうで、いやだったから。

 でも彼は根気よく僕に話しかけてくる。1回話しかけさえすれば、あとは怖いものなしらしい。

ろくに返事もしない僕に、彼は積極的に話しかけてくる。

答えを一言で返せるような質問をたくさんしてくるのだ。

 それに彼は僕にやさしくしてくる。

忘れ物をすれば、何も言わずにそっとその品を机の上においてくれたり、これまた何も言わずにノートを貸してくれたり。

 やっぱりなんで僕にやさしくしてくるのはわからない。

 僕といたって楽しくないのに。

 でも、毎日毎日。周りに変な目で見られながらも、僕にやさしくする誠。

僕は、信じないと言いつつもだんだん彼の方に心が傾き始めていた。


 こんなにやさしい人に無視まがいのことをするのはだめだと、直感的に思ったから僕は頑張って、ちゃんとした言葉を返すことにした。

 

 ここ十数日で、彼の存在は僕の中でとても大きなものになっていた。

大したことは何も言えやしないけれど、彼のとなりは居心地が良かった。

うんとかああとかありがとうとか、一言じゃなくて。ちゃんとした文章で、言葉で。

ちゃんと返してみよう。


 次の日も誠は僕に話しかけてくる。

「葉月は、部活には入らないの?」

 いつもなら、うんと答えて終わりだっただろう。でも、返してみようと決めたから僕は必死に言葉を紡いで返す。

「入りたい部活がない…んだ。中学校の時、やっていなかったから。」

僕がそう言葉を返すと、一瞬彼は驚いた顔をしたが、すぐにニッコリ笑顔になって言葉をつづけた。

「そうだったんだ。塾とかに行っていたの?」

「うん。3年間ずっと塾に行ってた。」

そうなんだー、といいながらニコニコ笑う誠。

僕が返したのがそんなに嬉しかったのだろうか。

でも、あんまりにも彼の笑顔はきれいだったから、僕もつられて笑った。

「ねぇ葉月、好きなものとか教えてよ。」

 今まで僕には好きなものなんてなかったけど、今は目の前の存在が結構好きだ。

しかし、そんなこと言えたもんじゃないから、好きな食べ物をこたえる。

「カレーライス。好き。」

 また彼は目を細めて笑った。

「おいしいもんね。」

 子供っぽいとか言われるかと思ったけれど、やっぱり彼はニコニコして僕に当たり障りのない返事をする。

彼は僕にやさしい、言葉の選び方をする。


ある日、僕は誠に言った。

「俺といたって楽しくないでしょ?」

 ずっと気になっていたことだった。初めっから一番気になっていたこと。

誠は悲しそうな顔をした。

「そんなことない。」

僕の言ったことをやんわり否定した。

「そんなこと言って本心はわからないじゃないか。もう、優しくしないでよ。期待しちゃうから。」

彼は今にも走りだしそうな僕を必死に引き留めて、抱きしめた。

「君の過去にどんなことがあったのかはわからないよ。お家の事情も知らないし、言いたくないなら言わなくてもいいよ。でもね、これだけは言わせて。少なくとも俺は、君といて楽しいし、君にやさしくしないつもりはない。」

「なんで?絶対裏切るのが落ちなんでしょ?!」

僕は泣きじゃくった。幼稚園のころから一度も泣いたことがなかったのに。

すると彼はつぶやいた

「期待しなよ。」

「へ?」

僕ののどは素っ頓狂な声を上げる。

「やさしくされたら期待しちゃうというのなら、期待すればいい。俺は君の期待に応えるから。」

それは冗談でもなんでもなく、彼の必死の、言葉だった。

救いの手が差し伸べられた瞬間、ぼくのめからはさっきよりも大粒のしずくが零れ落ちた。

「本当に信じていいの?」

「俺は絶対裏切らないよ。心に誓う。だから、信じて?」

 そういわれて、ずっと彼が僕にしてくれていたことを思い出した。

毎日、ろくに返事もしない僕に話しかけて、僕の忘れ物に僕より早く気付いてそれを貸してくれて、面白い話もできないのに一緒に移動教室に行ってくれたりもしていた。

 そんな人が、僕を裏切ったとするなら、世の中なにも信用できないじゃないか。

 信じて…みようか。これだけ優しい人ならば、信じても後悔しないはずだ。

だって、今思えば中学校の友人は、大して話しかけてくれなかったんだから。この人とは全然違う。

「…信じてみるよ。」

 過去の出来事を引きずって、まったく人を信じようとしなかった自分。

そこに手を差し伸べてくれた誠。

彼は最初からやさしかった。信じていい人のはず。僕を待ってくれる人のはず。

 だから僕は、ゆっくりになってしまうと思うけれど、少しずつでも彼を信じていこうと思う。

彼はきっと僕の悩みも聞いてくれる。

そして、彼なりのやさしい言葉選びで僕をいい方向に導いてくれると思う。


 いくら時間がかかっても、絶対に彼にお礼をしよう。僕の生きる姿勢で。

僕にやさしくして、期待させて。

そしてその期待に応える人が、これからも僕のとなりにい続けることを願って。



有難うございました。

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