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31話 帰還・いかんっ・いざ行かん!

sideヘルケン



「オオォォォ!」

「ハァ!・・・グッ」


手に持ったリーチのあまりないダガ-で魔族にから斬りかかる。

敵は身構えると逃げずに体躯が大きく上回る俺を真正面から受けきった。全体重を乗せに集中した一撃は敵の体制を少し崩したがそれ以上の成果は見られない。

女と言えど敵はあの魔族、見かけによらず筋力にも目を張るものがあるな。


ここは一見大きなチャンスだが追撃はせず直に来るであろう攻撃備え跳んで離れる。


(今だ!行け!!)


そして魔族の後ろで間髪いれず同胞が大きな顎を空けて敵の喉笛を食いちぎらんと駆ける。が影を踏んだ瞬間に侵入者を待ち構えた罠のようにその影が実体化し無数の黒い刃がその道に生えたことで同胞は強制的に回避に移り道を大きく外れた。


「ちっ。なかなかに厄介だなソレは。尽きることも期待するだけ無駄にちがい・・ない!」


矢のような早さで飛んでくる影を一閃してうち払う。こちらの攻撃が効くことは実証済みだ。


しかし形勢逆転は望めない。あの影は近付くと実体化し黒い刃として我らを襲ってくる。しかも一度に生えてくる量も多くまるで乾山が生えたように。救いなのは影が形をなすまでにかかるほんの少しの瞬間があることか。


「妙な魔法を使いよる」


コレではらちが明かない、数の差を生かして死角を突こうとするが知覚を共有させているのか敵の後ろに配置させた天狼に一度奇襲させたがそれを敵は見ることもせず逆にカウンターを喰らわせ瞬く間に一体の天狼が影に呑まれて大きな黒いミノ虫にされてしまった。そこからは叩いては直に離れるというヒット&アウェイが繰り返されている。


互いに一歩も引かない状態、どうしたものか


「どうした、先ほどの勢いが落ちてきているぞ。もう疲れたとは言わないだろうな老獣」

「まさか、貴様こそ守りに徹さず己から攻めてみればどうだ」


分かり切った挑発だ、そのような策につられるのは今だとシャドットだけだろう。


「しかし解せんな。何故トドメを刺さない。そこに転がっている者(狼)、最初にとらえた時点でそれ位出来ただろう。何故生かす?」


そう、コレが頭に引っ掛かっていた。

頭に昨日の光景が甦る。


あの時、仲間の悲鳴を聞きつけ急いで駆け付けた時にはもう遅かった。

山菜の採集に使われていた場所は同胞の血で染められ護衛についていた腕利きの戦士も5人のうち一人を残してこと切れていた。聞くにほぼ全員の犠牲を払って敵数体を撃退し倒せたのは一体だけでその一体は死に際に自爆し近くの仲間を道連れにしたという。

敵の目的は言うまでもなく唯の殺戮、戦いの不得意な女や連れの子ども達も容赦なく殺されてしまった。

あまりに非道・・・そして残虐な光景だった。


そしてその時遠くの崖の上に見えた数体の影、そこで初めて敵の存在を認知した。

形は人型、だがその体はまるで岩のように丸くてボコボコしていた。腕や足も胴不釣り合いに大きさが異なっていた。今まで全く見たことのない種族だ。数多く存在する獣人でもあの異形な者は見たことがない。そして感じた大きな邪の気、あれがまともな存在では決してないと一目で分かった。


そこでふとある国の人間達が戦争を起こしているという噂が頭によぎった。



私はそこで悟った・・・・あれが魔族・・なのだと。



「昨夜此処に来た貴様等の仲間は戦うことが出来ない同胞を襲い、女子供を容赦なく殺しつくした。それ程のことをしておいて何故手を抜く。一体何が目的なのだ!!」

「なん・・だと・・・!」


予想を裏切り魔族は驚きの声を上げた。

知らなかったのか?それもあれは驚きの表情、まさかこの魔族と昨夜のあれは・・・

いや、決めつけるのは早い。奴らは同じ魔族で連日でこの森に現れたのだ、関係がない筈がない。


「一つ貴方に問いたい。昨日この地に魔族が現れたとは・・・それは真実か」

「魔族と言えどあれは初見だった、だが今目の前にいる貴様が同じ魔族なら確実だ。言っただろう?“貴様からはあいつらと同じ匂いがする”と。我らの嗅覚は視覚で得るものより確かだ」

「まさか・・・だが私たち以外に・・・」

「もういい、もとより我らが語るのは口ではない、今は力で語るのみ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


目を横の天狼に移し手こずっているもう一組の援護に行かせる。

もう手を隠す必要はない、全力を持って討つ!



side end






sideリゼ



「もういい、もとより我らが語るのは口ではない、今は力で語るのみ!!」

(さっきも言っていたと思うのだが、意外とお喋りなのか?)


なるほど、だから私達はこれほどまでに敵視されていたのか。となればこの森は踏み入るべきではなかった。だが聞き捨てならないのは。


「本当に私たち以外の魔族がいたとは」


しかも余程のことをしてくれたと聞く、おかげで仲間と勘違いされた私達は完全なとばっちりだ。

また誤解が分かった所で尚更戦いにくくなった。無暗に殺せばそれこそ誤解は真実となり完全にこの森のすべてを敵に回すだろう。なんとかして誤解を解き、そして彼らを襲ったという同族について問わねばならない。


対策としては一応こちらには唯一人種であるエリィがいる。魔族でない彼女が進言してくれれば私達が言うよりかは断然聞いてくれるだろうが・・・無理だろうな。あんなかよわい少女が魔族のことを手助けしても最初ヘルケンが言ったように『洗脳されて操られている』と思われるのがオチだ。せめてジークがいれば説得力があると言うのに、何かと都合の悪い奴だ・・・

などと考えていると。



天を貫かんばかりの獣の咆哮が轟いた。



「グルルルル・・・」

「獣化か。敵のことを心配すればこっちがやられてしまうな」


目の前にはヘルケン“だった”獣がいた。もとより毛深かった獣毛は全身を覆い尽くし後ろで機会を窺っている天狼と姿は大差ない、だがヘルケンだった獣が発する存在感は全く別物となっていた。

変身後の獣人の身体能力は常時の数倍に及ぶと言われている。


「ォオオオオ・・・!!!」


もはや4本足で大地を踏みしめるヘルケンは唯私のみをその闘争心に満ちた目に映している。

もう一体が消えた? まずい、早く勝負を決めなければエリス様達が・・・!!

一気に影を解き放つ。その数はざっと二十、包み込むように飛ばす影の刃は相手にしてみれば視界を埋め尽くすような容赦のない全面攻撃。


これで終わりだ。


「ーーーーッ!!」

「な!」


相手を仕留めるであろう幾本の刃は一瞬のうちに全てが弾かれた。


いきなりの瞬間移動じみた速さになんとか体をズラすことで直撃を避けることが出来た。遅れてやってきた風が大きく唸り耳の中で吹き荒れる。唯の直進でなければ直撃していただろう。


「あれだけの影を獣毛だけで凌いだというのかっ」


通り過ぎたヘルケンはすでに私の影の外。振り返って同じ体制を取り、間も置かずして今度こそと息まいている。


「速すぎる。これは手段を選んでいられないな。・・・『影沼』!」

「!? ガァアアア」


勢いよく踏み込んだヘルケンの右前足が底なし沼と化した影に沈む。だが先ほどと同じくらいの速さで突っ込んで来ていたにもかかわらずヘルケンは逸脱した反応速度なのかはたまた獣の勘でその瞬間には進路を空へと変えていた。


残った前足で地面を蹴ると半分まで飲まれていた足がそれだけでズボッと抜ける。並みはずれた力はそのまま大きく跳躍する形となる。どれほど力を込めたのかヘルケンは凄い勢いで森の木々の高さも越えた。


「それで逃げれたと思ったか?だが残念、これで王手(チェック)だ」


翼がない愚か者が空でできるのは跳んでそして落ちるだけ。ならば今が絶対の好機!


「はっ」


足元の影を戻しそして背中で翼に変える。すぐ大地を蹴ってヘルケンを目指して大きく飛んだ。

“跳ぶ”のではなく“飛んだ”私は上昇の勢いを失いつつあるヘルケンに一息で追い抜く。

そして重力に従って無抵抗に堕ちていくヘルケンはなんとか向きを変え仰向けの状態で私を見る。


「なんだ。もう帰る(おちる)のか? せっかくの空の旅だ。手土産をもらって行け」


翼をたたんで今度は急降下しヘルケンの下につく。まだ落とすわけにはいかない、身体能力に大きな差が出た今ここで勝負を着けるほかはない。


「は!」

「ガフッ」


打ち返すようにして下からヘルケンを打ち上げる。そして直に羽ばたいて飛んでいくヘルケンを横切ると同時に剣を数回打ち体がグラついた所で思い切り上段から撃ち落とした。為す術がないヘルケンはされるがままだがその身を覆う天然の白い鎧が私の攻撃のダメージを大幅に減らしているに違いない。現にヘルケンの闘志はまだ健在、傷の影響は無いのか聞こえてくる咆哮はさらに音量が上がっている。


「チマチマしたものでは意味がないか。なら次のは少し派手に行くぞ!」


体中の魔力を集中させ更にそれを右手の剣に集める。最初から魔力で身体強化を施していたが一旦元に戻る。だが大きく密度の高い魔力が宿る剣なら頑丈な獣毛を突破できる。


「くらえぇええええ!!」


一直線にヘルケンへ滑空して迫る。そして渾身の一撃は迷うことなくヘルケンの腹を捉えた。

洒落にならない一撃を受けたヘルケンは声にならない悲鳴を上げ落下プラス一撃で弾丸となって大地を揺らして深く突き刺さった。舞いあがった砂煙は遅れて着地した私の視界を覆う。


やがて視界が晴れると少し先の方ヘルケンはいた。いや正しくは倒れている。獣化は解けて人型に戻っている。案の定ピクリともしていない。一際目につくのは白かった毛並みの大部分が紅くなっていたことだ。


もう一度言おう。ピ・ク・リ・と・も・し・て・い・な・い。


「え・・・と。い、一応耐えられると思っていたのだぞ。だ、大丈夫か?」


返事がない。ただの屍のy・・・はっ!私は一体何を考えていた!?


「起きろ、おいっ頼む」


最初は遠慮して木の棒で突っついていた。だがそれでも反応がないため次第に焦りから棒を投げ捨て肩を掴むと大きく揺さぶっていた。


「ぐふっ。はぁ・・・はっ」

「生きて・・・るな。よかった」

「あぁ、まだ・・だ。私は」

「まぁ生きてたら生きてるで結局は気絶してもらうんだがな。悪く思うな」


自分がやっておいて、無理に起こした後また眠らせる。なんだか申し訳ない気がしてしまう。


「負ける・・・わけには・・・いかんのだ!」


ヘルケンは力の入らない手を上げて剣を持つ私の手をペシッと払う。虫すら殺せないひ弱な力で。


「不覚だ」


とうとうその力さえ付きその一言をはくとヘルケンは抵抗を諦め無念に口を食いしばる。

それを見て私は剣を迷いなく振り下ろした。


side end




「あ、あっぶなかった~」


大きくため息をついて手に掴んだ剣を放す。別に唯掴んだわけじゃなくて切れにくい刃の根元を挟むように掴んだため傷はない。


マジで危なかった。あと数瞬遅かったら確実に当たってたよコレ()


「ジーク?・・・何故止めた」


おれが止めた剣の持ち主、リゼは剣を収めるとおれを睨むように見た。


「何故って、リゼがこいつに止め刺そうとしてたからに決まってるだろうが。こいつ等は殺しちゃいけねーんだよ」


リゼ達は多分人違いを受けてるんだ。いや、ある意味合ってるけど違う。この獣人も見るからにカトルと同種(ウル族)だろう。ならなんとか誤解は話すことで解ける筈。その前にこっちが誰かヤっちゃってた(・・・・・・・)なんてなってたら言い逃れは絶望的だ。


「人聞きの悪いことを言わないでくれないか。念のために眠らせようとしただけだ」

「眠らせるってもしかして永眠? コイツ死にそうじゃねぇかよ。これ以上傷つけたら死ぬっつーの」


ビシッと倒れてる獣人を指さす。外傷はそれほど多くないが腹に大きく付けられた切り傷が致命傷だ。

それに言い返せないのかリゼは言葉を詰まらせておれから目を背ける。よく見ると少し冷や汗が見える。え、図星?


「それはそうとして今までどうしていたのだジーク?」


無視しやがった。


「まぁ色々あってなー、こっちも飛ばしてきたんやでー」

「ジーク、少し見ない間に口調が変わってないか?」

「口調って? あ、違った。飛ばしてきたんだぜ(・・)、だ。いやーアイツの口癖移っちまった」


此処に来るまでずっとアイツと話してたからな。その内こっちも使ってるようになっててあまりに使いやすいから全然気付かなかった。と言っていると・・・


「そこの人間、その口調を何処・・・で知った。ハァハァ・・・その喋りは獣人でも一握りの者しか知らぬ筈」

「え? こんなに使いやすいのにか? 勿体ねー。今からお前ら種族総出で使えよ、流行るから」

「ふざけるな…! そう言うことを言ってるのではない!」


眼下に倒れてる獣人が急に話に割って入っておれの腕を掴んだ。絞り出された声には血が混じっている。振り払うなら軽くゆするだけでできたがしなかった。見た目と裏腹に瀕死のはずの体から威圧する迫力がそうはさせないとしていた。


「あんまりしゃべんなよアンタ。その様子じゃリゼに手酷くやられたんだろ?待ってろ、今エリィを呼んでくるから」

「待てっ、質問に答え「くどい、寝てろ」ウッ」


首筋への手刀で呆気なく獣人は気を失いパタリンコ。隣で見ていたリゼは唖然としている。容赦?何ソレ食えるのか? 


「ジーク。さっき自分で言っていたでは・・・ん?その背中で寝ている子供はなんだ?」


おれの背中に目をやったリゼがカトルの存在に気づく。しかし今の表現には誤りがある。カトルは確かにねている(・・・・)。だがよく顔を見てみれば、目をグルグル回している。寝息も聞こえずむしろ苦しげにう~う~と唸っている。


「いやや~。お願いやからもう飛ばんといてぇ。あっ、また崖が!おっ落ちるぅー・・・。う~ん」


見事に此処までのいきさつをまさかの寝言で暴露された。


「此処までおれを案内してくれた心優しいウル族のカトルくんだ! 今は疲れてるから寝てるんだよ!」


誤魔化すように声を張り上げ親指をグッと立てて宣言した。


「あぁわかった。要するに原因はお前なのだな」やっぱ無理でしたっ


リゼはカトルを物凄く可哀想な目で見つめてはおれを見てまたカトルを見て…というのを絶対!意図的に繰り返した。


「・・・やめてくれない? ものすごく心が痛むんですけど」

「先ほどの仕返しだ」


人を呪わば穴二つってやつか・・・


「まぁそれは置いといてよ。他の奴らは何処だ?事情ならコイツ(カトル)に聞いたんだ。お前ら勘違いされてんだろ。早くこの場を納めるぞ」

「そうだな。ジークが来たなら話が早い。エリス様達はあっちだ、早く向かってくれ」


と言ってリゼは林の向こうを指さす。言われてみれば風にのってかすかに戦いの音がする。

そうか、二手に分けていたのか…ん?


「ておいっ、そういえばエリィはどうした!? 一緒に襲われてんだろ!!」


エリィは唯一人畜無害の女の子だ。戦いの『た』の字も知らない一般人と言っても良い。そんなエリィが巻き込まれているとなったら真っ先に…!


「エリィなら心配しなくていい。目的は飽く迄魔族に限定されているから危害は加えられていないはずだ」

「ほっ…そうか、それ聞いて安心したよ。じゃあ行ってくるからリゼは此処にいてソイツを見ててくれ」

「任された」



そしておれは再び木々の向こうを目指して駆けた。前のおれなら迷子になっていただろうが今のおれに『まじない』の効果は無効化されている。おれがエリィ達の所にたどり着くのにそう時間はかからなかった。



獣化…スーパー○イヤ人的なもの。完全な獣型となり理性と引き換えに通常の数倍の力を得る。


時話辺りで中ボス的な奴が登場…かもしれない。

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