28話 旅立ちと事情
都市を旅立ってからどこへか続く道を唯歩いていた。
何故おれが知らないのか、それは唯単にエリス達に着いて行ってるだけだからだ。
「すごかったね。あの見送り、ジークもエリィもかなり親しまれてたんだね」
「ったくよー。ギルド総出、おまけに都市のやつらまで揃って来るなんて信じらんねぇぞ」
あれは驚いた。まだ人が起きるにはまだ早い時間に門へ行ったら何十人もの集まりが出来ていた。
しかも揃いにそろっておれの見送りなのだと。出発を朝早くに決めたおれの浅はかな考えは皆にはお見通しだったらしい。
「それ程人望が厚かったってことでしょ?皆ジークのこと信じてるんだよ」
「そう言っておきながらお前、嬉しそうにニヤニヤしていたぞ?」
相変わらずからかい口調のエリスにムッときたがそれに対しては否定もなければ異議もない。
「まぁそうなんだけどよ」
嬉しくないはずがなかった。ギルドの奴らから近所の連中、中には無理して起きてきた子供達まででそろってたからな。ついホロっときちまったじゃねぇか。
「一部は違ったけどね」
と笑うジェス。・・・いたなそんなの。感動を返せこの野郎。
中に大きな旗持ったむさい野郎どもがいてさ。振ってる旗ときたら
『いかないでエリーナちゃん!!』
って大きな字で書かれてたからな、そいつ等最後までエリィエリィって叫んでた。
躊躇なく撤去したがな・・・!
そんなのが極一部いたが大概は俺との別れを惜しんで泣いてくれていた。
ギルドの皆に、ご近所さん一同、依頼で世話になった人達、酒屋の飲み仲間、いつもケンカしたジッちゃんこと鍛冶職人達、・・・数えればきりがなかった。
さすがに一緒になって声をかけてきた門番とか兵はどうかと思った・・まぁ知り合いだから良いけど。
『いってらっしゃい!』
最後に『さよなら』と言われなかったのが凄く嬉しかったな。
また帰ってきても良いんだと・・・
結局おれ達の旅立ちは静寂には程遠いたくさんの声援で見送られたのさ。
「ホントに良い街だったね・・・」
また昨日の憂鬱モードに入ってしまった。おれにあんなとしといてまだ気にかけてくれているらしい。ジェスも結構なお人よしだ。
「だからそんな顔すんなってジェス」
「そうだよ、私達はまた帰るんだから。ねぇジーク」
『いってらっしゃい』って言われたからには『ただいま』って言うつもりだ。
「そゆこと、もうそんなこと気にしなくていいぞ。もうおれ達は仲間だからな」
「ありがとう、わかったよ」
一先ずジェス達の罪悪感は解消出来たか?
「しかしジークよ、今更んなんだがエリィはつれてきて良かったのか?手配されたのは飽く迄お前一人だったはずだ。あの見送りに来てた連中のどれかに預けるのも一つの選択だったのではないか」
ホントに今更の質問を聞かれた、実際エリィは手配も何もされていないし無関係に近いからそう思ったのだろう。
「それは無理だ。お前らには言ってなかったけど、今魔族と戦争してるアドリアがエリィみたいな性質を持った女性を各地から集めてるらしいんだ。この国とアドリアは同盟関係だからな、いつあの都市に奴らの手が伸びるか分からないからな」
「それにジークが私を守ってくれるって言ったんだよ。だから私はジークに着いていくよ」
「あんまり言うなよ。あ!そんなくっつくな!」
放しませんとばかりに右腕にしがみ付いてくるエリィ。振り払おうと思えば余裕だが可哀想になるからしない・・・何よりおれ得だから。
でもあのことはあまりぶり返さないでほしい。よく考えたらあれは結構恥ずい。
勢いとはいえ何しちゃってんの昨日のおれ・・・。穴があったら入りたいとはまさに今この状態のことを言うのだろうか?
「・・・確かに言っていたな、2人で抱き合いながら」
リザのさり気ないカミングアウトは突然だった。
「は?・・・お前なんで知ってんだよ!」
リザ、何故知っている?
あ!確かこいつ昨日おれ達を着けてたって言ってたな。
見たのか!?見てたのか!?あら・・よく見たら少し笑ってる?見てたんだな!!
「えへへ・・・」
焦るおれを余所に頬を紅潮させて恥ずかしがるエリィ。満更でもなさそうなのがおれと違うところだ。
他の反応は予想どうりの結果だった。生温かい視線がおれを貫いてくる。でもちょっと予想外なのがジェスとエリスが少し乗り気でないことだ。この手の話は苦手なのかはたまたウブなだけなのか。
「むむ・・・む」
「・・・いつか・・・・・僕も」
なんだろう・・季節はまだ夏なのにここだけが春の匂いがする。おちょくられるのが避けられたことはおれにとって吉の方向へ動いたに違いないが。
「・・ま、先に進もうぜ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はい!今から第一回お尋ね者達(1人を除く)会談を始めたいと思います」
「何だ、急にどうしたジーク?」
人気のない森で休憩中、さっきまで煮込んでいた昼飯の鍋を中心に団をとっていたのを期と思い、おれはいづれ問題になるだろう事をここで話し合うことにした。
「議題はこうだ。『これからおれ達はどうする?』どうだ、話し合うべきじゃないか?」
「ああ」「なるほど」「確かに」
おれとエリィは仕方なく都市を離れたわけだが目的は持っていない。行くところはないし行きたいところも特にない。このまま各地をぶらついてもメンドい追っかけっこの繰り返しになるだけだろう。
それにこれは互いを知るいい機会だ。これまで一線は控えていたが、もう仲間を口にするからにはエリス達の事情は知っておいても良いはずだ。
「お互い腹の中ぶちまけようぜ。こちとら家もほっぽり出してきたんだ。いやって言ってもついてくからな」
この手を使うのは卑怯な気もするが気にしない気にしない。早く話を進めるためだ。
「そんな!嫌じゃないよ!唯でさえこの地を魔族3人がうろつくのは気が気じゃなかったけど、加護持ちのジークと治癒を使えるエリィ、すごく心強いよ!」
もう少し戸惑うかと思っていたが答えは即答だった。嬉しい意味で否定をしてくれた。
「そうだな。いくら私達が強いといえど前のような不祥事があるやもしれん。その気持ちありがたく貰い受けよう。しかし・・・そうだな、私達に着いてくるとなれば私達の目的を知らねばならんな。ちょうど良い、ここで話しておこう」
どんな話が聞けるのだろうか。魔族の事情なんて聞けないからな、オラワクワクすっぞ!
「まずは改めて名乗るとしよう。
私はエリス・ヴァーティア・ヴァルハラ・・・現魔王の一人娘だ」
一瞬世界が止まったかと思った。
「は?」「へ?」
んー。聞き間違えかな?よく聞こえなかったわ。ほら、エリィもおれと同じ風に首をかしげてる。
「ごめん、聞き取れなかったからもう一回言って。出来れば ハ ッ キリ と」
「この近さで聞き取れないとは仕方ないな、単純で分かりやすいと思うのだが」
だよなー。おれ等の耳が悪いんだよなー。おれ聞いてないよー。エリスの口から『魔●』だなんて聞こえたはずがない。エリスが『●王』って言ったはずないさ。
・・・なんでだろう、ジェスとリザが『諦めろ』って目で見てくる。
エリスは大きくスーハーと深呼吸をする。ドでかいのがきそうだぜ。
「もう一度言うぞ。私は・・・ま! お! う! の! む! す! め! だ!!」
音のない静かな世界が生まれ十数秒ほど経った後
『えええぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!』
人気のない森に男女の叫び声が響き、その声は近くの都市まで届いたという。
「-じゃなくて!!魔王の娘!?お前が!?どうして!!なんで!!お前が!?」
現実逃避をやめ勢いよく立ち上がったおれはまともに機能しない頭の内をそのまま吐き出した。
「そう言っておろうが」
エリスは世間話のように平然と言ってのけた。しかしおれたち聞いた方にとってはとんでもない爆弾発言だ。寝耳に水どころが寝てる所に上級呪文をブチこまれた位の衝撃だ。
よく考えてみろ、唯でさえ人間にとってバケモノのような存在のそれまた上の上のバケモノの娘だぞ!これが驚かずにいられるか!!
「落ち着け」ドス!!
「たぱ!?」
リザによる強烈なパンチがおれの鳩尾に突き刺さった。腹から背中へ突き抜けた衝撃は遠慮が欠片も感じられない。いつかおれが放った獣人への鉄拳制裁のよりも力が乗っていた。肉体の耐久力に自信はあるが、突然それも無防備な急所への攻撃はおれを激痛と呼吸困難の二重苦へと陥れるには十分だった。
「だっ大丈夫ジーク!?」
心配したエリィが凄い速さで駆け付け倒れ伏しているおれの背中を懸命にさする。こういうのに治癒術が効かないのが痛いところだ。エリィの行為は正直慰めにもならないがそれでも不思議と治りそうな錯覚を起こす。
「ぐ・・がふっ・・ごほごほっ・・・っふぅー。ありがとエリィ。もう背中さすんなくて良いぞ。
つーか何しやがる!!魔族のマジパンチとか洒落にならんぞ!!」
「加護持ちのお前にはこれぐらいしないと効かなそうだからな。スマン。それなりに本気でいってみた」
反省はしてる、後悔はしてない!この言葉に尽きる返事だった。
「効くって何!?お前は気付かせる度に相手に瀕死の重傷を負わせんのか!!」
コイツへの考えはかなり変更がいるな、まともな奴かと思ったらコイツイイ性格してやがる。
「おれが肉体系の加護持ちじゃなかったら体が爆発する威力だったぞ!!」
「ぼくもときどき手合わせしてるから分かるけどリザは結構な筋力だよ、それによく耐えたね・・・」
自身も顔を青くさせながら言うジェス。おそらく今のと近い経験をしているのだろう、言葉に説得力が感じられる。
そこでエリスがパンパンッと手を叩き仲裁に入りまた話は戻る。
「続けるぞ。まず簡潔に言うと私は魔王を父に持っている。いわゆる王女だ」
「「ははぁー!!」」
間が空いて頭がサッパリしたおれとエリィの反応は早かった。即座に両膝を地につけ頭も地に着く勢いで下げそこに両手を添えた。一般庶民が知る典型的な敬い方だ。
「2人そろって急に身を下げるな。よい、お前達は私達の恩人なのだ、楽にするがよい」
こっちはノリのつもりだがエリスの方は気に入ってるようだ。
やっぱ姫様だな、『いい』って言ってるけど口調からして下と上という関係が出来かかってる気がする。
「あっそう、じゃ楽にするか。それでエリス、なんでこんな所にいるんだ?」
「お前は切り替えが早すぎやせんか?もうちょっとぐらい敬え。敵国とはいえ姫だぞ」
「だって楽にしろって言ったじゃねぇか。いいだろ、誰に対しても平等に接するのがおれの信条だ」
第一、ここで調子に乗られたらこのままエリスが偉そうにするだろうが、それがなんかムカつく!」
「今さらっと愚痴こぼしたよね?でも一国の王女にその態度だとむしろ清々しいよ」
「今ほど権力にものをいわせたいと思ったことはないぞ・・・!」
どしたのエリス、全身から黒いオーラが滲み出てるぞ。
ん?なんだエリィ・・・聞こえてた?やべ、またいつの間にか心の声が漏れてた。ここが魔族の領地だったら洒落になんねぇ・・気をつけなければ。
「まぁいいさ。それは後にしよう。私達の目的は一つ、『ヴァルハラ』に帰ることだ」
「エリス、しつもーん。・・ヴァルハラって何?」
「なぬ!魔族の国だ!!知らないのか!?魔学はこちらほど発展してはいないがこちらと同じように秩序ある立派な国だ!」
エリィの質問に目を開いてエリスは驚いた。大げさな気もするけど自分の国を知らないと言われたら良い気分にはならないだろう。ましてや自身が王女という身分にもなればそれは屈辱に近いのかもしれない。
「そう言えば魔族の国の名前なんて聞いたことがなかった。おれも初めて知ったよ」
「そうなの?でも僕らの国って唯一の魔族の国だからかなりの知名度はあるはずだよ。おかしくない?」
「たぶんおれ達の国からしたらそっちは国としても認めてないんじゃねぇの?
昔は魔族がさらに暴れてたっていうし、バケモノが国を持つなんて思いたくないとか?
ほら、魔族の領土は大陸でも孤立して隔離されてるようなものだろ?だからおれ達は魔族の国があるところを『魔界』って呼ぶんだよ」
「うん。私も魔界は『悪魔が沢山いて、いつも殺し合いしたり攫った者を食い散らした血で地面は赤く染まってる』って教えられたよ」
「なんだその地獄絵図は」
「要は歴史的な問題だろうな。ってそんないいから早くここに至った経緯を話せ。そこが気になる」
話が進まん!!新しいことを言う毎に話が脱線してしまう。人間焦らされるのは嫌いな生き物である。
また質問が出るかもしれないからあらかじめエリィには『黙って聞いとこうぜ』と釘を刺しておいた。
「わかった。・・・ごほんっ!
私達がこの地でさすらい始めたのはほんの3ヶ月ほど前だ。最初は私とリザの2人だけでこっちに来ていたのだ。理由は・・まぁ正直にいえばこっちの文化に興味があってな。旅行・・と言うのが真実だ。
お父様も度々こっちに来たことがあるらしい」
おい、もう何度も魔王が襲来してたらしいぞ。大丈夫かうちらの国?
ていうかエリスの知りたがりの原因は魔王かよ、バリバリ遺伝してるじゃん。
「もちろん正体は悟られぬ様にしていたぞ。認識疎外の魔法も完璧だった。悟られることはなかったさ。
ではなぜ・・?そう思うだろう。問題はヴァルハラに帰還する時だ。
ここで問題だジーク。今から3か月前の土の月、大きな出来事があった。それはなんだ?」
「土の月?待てよ。その時って・・・・そうだ!思い出した。アドリアが魔界に対する宣戦布告をして戦争が始まったんだ!」
あの出来事は大陸中に衝撃を生んだ。今までおれが生まれてから、と言うよりここ百年くらい魔族との戦争は起こっていない。歴史書に載ってる聖戦を最後に魔族は突然侵攻をやめ今に至る。確かそれは魔王が代わったことが原因らしい。侵攻をやめた魔族は依然何の動きも見せなかった。お互い百年不可侵が続き『平和』の日々が続くさなかの出来事だった。
「そうだ、まさにその行軍中のアドリアに目を着けられてしまった。いくら認識疎外の魔法をかけていたとはいえ虫をも許さぬ警戒網、多数に対して効果は意味をなさなかった。あともう少しで国に帰れる所で逃亡生活が始まったのだ」
エリスは徐々に元気をなくした、思い返した過去は彼女のトラウマとなって残っているのだろう。
次第に体が小刻みに震える様は何かに怯えるようだった。
「こわかった。・・生まれて初めてだった、あんなにたくさんの殺気を受け止めたのは。思わず腰が抜けた。
リザが囮になってなんとか時間を稼いでくれたが、すぐ追いつかれるのは目に見えていた」
そりゃ怖いに決まってるだろ。数え切れない程の敵を前にしたら常人は失神もの。
いくら魔族が強くても圧倒的な数の暴力にはなす術はない。・・魔王は大丈夫そうだけど。
彼女らによくぞ生き残ったと称賛を称えたいくらいだ。
「そこで僕はエリスと出会ったんだ。たまたま狩りに出てて逃げてる途中の彼女と」
言葉を繋いだのはジェスだった。なるほど、だから一緒にいたのか。
「でも相手は軍隊だろ、どうして逃げ切ったんだ?」
「そこは僕にとっては庭みたいなものだったからね。秘密の逃げ道を使ったんだ。・・ヴァルハラとは逆方向だったけどね。僕にはそれが限界だったんだ」
「なぜ謝る。ジェス、お前も私達の命を救ってくれた。お前がいなかったら私とリザはここにはいない。だから謝るな、私はお前に感謝している。その・・ありがとう」
「そっ・・あの・・うん、どういたしまして」
あれ?二人だけが違う世界にいるみたいだ。
この二人って『何か起こる→アイアンクロー→ギャー!!』って関係じゃなかったっけ?
ここはずっと一緒にいたリザに聞いてみるとしよう。
(リザ・・おいリザ!。こっちこっち)
(なんだ)
(前々から思ってたんだがあの二人ってどうなんだ?もしかして・・・コレか?)
通じるか分からないが右手の薬指を一本立てて見せる。
(分からない。私も日々影に隠れたりして2人きりになったところをのぞk・・じゃない、見守っていたがどっちも奥手なのか進展がない。互いに気はあるかもしれんが。機会さえあれば・・!)
通じたよ!ていうかアンタ結構楽しんでたのな。それなら・・・
(なんだその手は?)
(協力するぜ。お前はエリィと組んでエリスを、おれはジェスを・・・どうだ?)
(・・・フッ)
ガシィ!!
魔族と人間が世界で初、二つの意味で手を組んだ歴史的な瞬間が生まれた。
「リザ、ジークと手を組んでどうしたのだ?」
お、2人が異世界から帰ってきた。
「いえ、新しい仲間と親交を深めていたのです」
「?・・そうか。これから付き合いは長い、仲良くやれ。ジークもな」
「はい」「おう!」
この時おれとリザには早くも団結が生まれていた。そして今自分等の考えていたことは同じだろう
『お前らがな!!』
「・・・い!・・おい!聞いてるのか!」
「へ、なんか言ったか?」
「エリスが私達に何か欲しいものはないか?だって」
「なんでまた。別に要求した覚えはないぞ」
「お前達は私達のせいで巻き込んでしまったからな、何かしなくては私の信条に反する。なんでもいい、何か私にできることはないだろうか」
「そう言われてもなー」
今はあいにく足りない物はない。金も前の依頼でかなり貯まってるし。
「じゃあさ、こんなのはどう?
ジークはギルドをやめてるけど元は傭兵でしょ?だったら僕達を『ヴァルハラまで送る』って言う依頼として受けるっていうのはどうかな?」
それって・・すごくいい考えなのでは?
「ジェスくんそれ採用!ってことだエリス。今からおれとエリィはお前らに国へ返すまでの護衛として雇ってもらう。報酬は帰ってからで良いし、いるもんが見つかったらこっちで提示する」
「わかった。それまでお願いするとしよう。よろしく頼むぞ、ジーク、エリィ!」
「了解!」「おーう!」
依頼受諾!目指すはヴァルハラ・魔族3人の護衛!!
一応投稿しましたが多分また修正します。