26話 おれ帰還!そして変化
遅くてすいませんでした。
結構前から書いてたんですけど、何度も何度も修正してて・・・
依頼を達成(撃退)させたおれは帰る途中、ドラゴンの巣と都市に挟まれた別の都市にいた。
ドラゴンを退治せず撃退させた理由はちゃんとある。ドラゴンという種族は仲間意識が以外と強く、仲間の死が伝われば仇を打つべくその相手を探し出して更に暴れる可能性があるからだ。
証拠として頭に生えた角を1本折らせてもらったが、まぁ殺さないに越したことはない。
そしておれは一息入れる為に酒場で休憩中なわけだ。
カウンターに座り一人で食事をしていると周りから興味深い話が聞こえてきた。
「おい聞いたか?アドリアが召喚した勇者ってスゲー強さらしいぞ」
「らしいな。なんでも召喚されて3週間ですでに魔族の拠点を2つ落としてるって話だろ?」
声の発信源は長いテーブルに向き合って座っていた2人の傭兵だった。
酒場はこんな感じで各地の情報が座ってるだけで手に入るというところが醍醐味だな、うん。
そういえば今アドリアは魔族と戦中だったな。こっちと同盟組んでるけどこっちは軽い支援しかしてないからな、ほとんど一国と一国が戦争中だ。
つーか異世界から勇者召喚ってふざけてないねぇ?
自分たちの問題に他人を巻き込むって何様?・・・あ、王様か。
召喚された方もすぐに武器渡されて戦争行って来いって話だから溜まったもんじゃねぇよな。
もしおれが呼ばれたら、敵よりまず先にソイツらからブチのめすわー。
・・・でも、もう拠点を落としたとか異世界人スゲー。
案外いいネタだったから耳を傾けてそれをツマミに食事を続ける。
「でも、その勇者って俺らと同じ人間なんだろ?どんな化け物だよ」
「あのアドリアが呼んだんだぜ。なんでも国宝の魔剣を使わせてるんだと」
「あの聖剣と名高い『ヒュペリオン』を?そら納得だな。おまえどこまで知ってんだ?」
『ヒュペリオン』・・・確か英雄が出てくる本によく出てきた魔剣の名前がそうだったような。
光を放つ勝利の剣、だったか?・・・ダメだ、単純すぎて能力がよくわからん。
「最近までアドリアに行っててな。勇者勇者うるさくて嫌ほど聞いたのさ。
あと聞いた所によるとだな勇者を中心とした5人ほどの強力な小隊を作ってるらしいぞ。
中には王家きっての魔法使いの王女とかあの凶刃『デュラン』もいるって話だ」
その名前で酒場が沈黙で満たされた。
どうやら聞き耳を立てていたのはおれだけじゃないらしい。周りで騒いでいた連中も体越しに2人を見ている。今この店はたった一人の話に夢中なのだ。
その異変に気付き二人が自分達に注がれている視線に驚き会話が中断されるが、周り(おれ含む)の『いいから続けろ』という殺気じみた無言の威圧を受けて少し怯えながら話が再開される。
「あ・・あの『デュラン』って言ったらついに階級を剥奪された元3階級じゃないか。そんな奴を入れるなんて正気かよ。あいつは犯罪者だぞ」
デュラン、奴はギルドや傭兵たちの中で有名だ。
噂によると奴が関わった件には必ず死傷者が出る、しかも多数。
いわゆる戦いに快楽を求める戦闘狂らしく、各地の戦場に現れては敵味方関係なく斬り殺すって噂もありおそらく事実でそれが理由で奴はギルドや傭兵達に嫌悪されている。
今まで捕まらなかったのは奴が上階級者であるという計り知れない実力が起因している。
誰も蛇がいると分かりきった薮をつつきたくないということだ。
他にも戦いの中で瀕死に近い傷を負ったことがあるが翌日は完治してたという話もあるけど定かではない。
まぁ上階級者ってだいたいはバケモンばっかだしな(笑)。
「あ、ああ。性格はイってるがな、実力は確かだ。犯罪者と自慢の娘すら戦わせてんだ、それほど力入れてるんだよあの国は。
名声も、魔界制覇したら軽く上塗り出来るからな。現に着々と成果は出てる、絶対悪の魔族を押してるって言ったらあの国の連中はそんな些細な問題は頭から吹っ飛んでるんだよ」
「マジかよ・・・。まともじゃねぇなあの国は」
「元からだろ?こっちと同盟組んでるのは表面だけ、実際に敵視してるのは魔族だけじゃなくて人間以外の種族だからな。どっちにしろ今あの国を敵に回すのは危険だってことだ。
・・・あ!そういえばこれは飽く迄噂の域なんだがよ、あの国は今人集めしてるらしいぞ」
男は思い出したかのように手をポンッと叩きさらなる持ちネタを話し出した。
「人集め?当たり前だろ、戦争中なんだから1人でも多くの戦力がいるんだろ」
「その集められてる人ってのが『女』って話さ」
「女?それに特別ねぇ。ほんとあの国がやることはわかんねぇな」
分からないと言う男に対して話していたもう一人に男が意味ありげな笑みを浮かべる。
「・・こいつを聞いたのは偶然だったんだがよ、どうもその集められてる女の条件があってな。
精霊を見れたり、会話が出来るっていうことらしいぜ。すでに各地から何人も集まってるそうだ」
精霊が見える・・・会話ができ・・る・・・まさかっ!!!
パリィン!!
「おっお客さん!大丈夫ですか!?」
「あっ・・っと、スマンつい力んじまった。別に怪我してねぇよ」
答えを知った瞬間思わず興奮してしまい持っていたグラスを粉々に潰してしまった。
店員が心配してくるが適当に受け流しながら2人の会話へと耳を傾ける。
「ふーん。どうやって“集めた”のかが気になるな。どうせ碌なやり方じゃねぇだろうけど」
「だな。・・・はいっ、俺が知ってるのはココまでだよ。散った散った!!」
2人の話はそこで終わり聞き入っていた周りの傭兵たちもはそれぞれのテーブルに戻っていった。
静けさがなくなり元の賑やかさを取り戻す酒場。
しかし、この情報はおれに不安を残していった。
・・・・・・・・・・・・・
「-ということらしいぞ?」
目の前には顔を悩ませている魔族3人がいる。
あれから一日が経ち家に着いたおれは酒場での一件(勇者云々まで)を彼らに報告した。
「私たちが離れているうちにそんなことになっていたとは・・・。しかも拠点を2つ落とされたか」
「距離的に近いトロン、カタロスでしょう」
「だな・・・。ジークよ話ではどちらが優勢なのだ?」
「アドリア。って言いたいところだけどな、国っていうのはいい結果しか広めないから断言できない」
「そうだな。しかしあそこは国境の2点だ、先手を取られたのは違いない」
おれの中途半端な答えに少し落ち込むエリス。そのままリザと話しこんでんでしまった。
でも、エリスのこの反応、気になるな。魔界でどんな立場だったんだコイツ?
いつも気品を感じさせる態度、おれでもわかる魔法使いとしての才能、護衛は爵位持ちときたもんだ。
以前それに着いて興味本位で聞いてみたが本人にははぶらかされ、ジェスは知らないと言い、リザは・・・まぁ言うまでもない。
魔族社会がどんななのかは知らないけど、きっとかなり上の位だろうなコイツんち。
「さてと、おれはまたちょっと出るぞ・・・て、どうしたエリィ?」
「また・・・遠くに行くの?」
それじゃ、てな感じで玄関に向かおうとすると目の前にエリィがたっていた。
そしてなぜか寂しそうな声と潤んだ目で迫っきてそれがおれをパニックに陥れる。
「おっおいおい!どうしたっ」
え!なに!?おれ何もしてねーぞ!ああっ泣きそう!?
「寂しかったんじゃない?初日は元気そうだったけど昨日は暗くてさぁ『ジークぅ』って見てるこっちが辛くなったよ。」
「え?・・・そうなのかエリィ?」
「・・・(コクン)」
なんと言うことでしょ~
放置すればするほど大きく弾けそうな爆弾のような涙がみるみる二つの目に溢れてきているではありませんか。
と、ふざけてる場合でもなくエリィは今にも涙を流しそうでギュっと結んだ口はプルプル震えている。
しかぁぁあし!!長年近所のガキどもと暇さえあれば共に遊び、そして数え切れないほど泣かしてきたおれの経験を舐めるでない!!
えっ何したかって?普通に『手放しタカイタカイ』とか『人間風車(両手持って大・回・転)』だよ?
そして発動!幾度の泣かした子供たちを経て習得した『泣く子も黙るゴットハンド』!!!
まぁただ頭を撫でてるだけだけど、これが結構効果ありなのさ。
なんせ今年も10人くらい泣かせたが全員これでピタッと泣きやんでるからな!
(19にもなった大人が子供を泣かすのはどうなんだろうか・・・)
「行かないって。安心しろ。達成報告でギルドに行くだけだよ、一緒に行くか?」
ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ・・・むっ戻ったか?
「行く!!」
「ぐふぅ!?」
答えは喜びの返事といつかのアックスボアを思わせる突進だった。くそ・・・選択ミスった。
「ところでジークさん、着かぬ所を聞きますがその袋から飛び出してる剣みたい鋭くて赤くて綺麗なソレはなんですか?」
一人かやの外だったジェスがおれが持っていた袋から大きく飛び出たアレを指さしていた。
「これ?あー。・・・ドラゴンの角」
「あれはマジだったのか・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「♪~~」
「えらく上機嫌だなエリィ」
「だってジークが帰ってきたんだもん♪」
暗くなり魔灯で照らされた道でエリィはおれより前で鼻歌を歌いながらくるくる回っている。
あれからエリィは随分変わったがその姿はあの夜の川の時と変わらず、光に照らされた白銀を思わせる髪と容姿は相変わらずキレイだ。
彼女の窮地を助けたことでそれなりに頼られてるとは知っていたけど、離れただけでこうだとは・・。
おれという存在は思いのほかエリィの心にくい込んでしまっているらしい。
「エリィ」
「ん?なーにジーク?」
「エリィはこの都市の人達をどう思う?」
「うーんっとねー。とっても良い人達だよ」
「そうか。じゃあジェスやエリス達は?」
「友達ー!。魔族だけど優しいもん」
偽りなく正直に答えるエリィ
「じゃあ・・・おれは?」
するとエリィはピタッと止まってなんか下を向いてモジモジし始めた。
「え・・と、その・・・ゴニョゴニョ」
「ん?何?」
無粋にも聞き返してしまうおれ。
「す・・き。なのかな?」
「いや、逆に聞かれてもなぁ」
すると徐々に声の大きさが上がる。
でも話してる本人も何だかわからないという感じだ
「私がここに来て出会った人たちは皆いい人達で、みんなスキだよ。
でも・・・ジークへのスキとはなんか違う」
うっ、赤くなって見上げてくるエリィの顔がおれの心を深く抉ってくる!!
急になんだこの気持ちは、こっちまではずかしくなってきたぞおい。
「ジークとはいつも一緒にいたから分からなかったけどジークがいなくなっとき最初は平気だったよ。
だけど・・1日くらいしてから少しずつ・・・怖くなってきちゃって。ジェス達と・・いたのに、
うぅ・・また、1人に・・っく。なるのかなって」
身の内を話すエリィは終いには目に涙を溢れさせ嗚咽をこぼし始めた。
・・・見てるだけで凄く心が痛い。
「泣くな泣くな。今は目の前にいる。それに言ったろ?お前は笑ってた方が似合うって」
「うっ・・ひくっ・・・うぅ」
「あぁもう!」
泣きやまないエリィに自分もどうすればいいのか分からず勢いでエリィの手を取ってそのまま自分の胸に抑え込むように抱きしめた。さっきのアレを使わなかったのは単に思いつくよりも早く体が反応したからだ
ただ抱きしめた。それからどれくらい時間が過ぎたか分からないくらいその状態が続き、気づけば腕の中のエリィは泣きやんでいた。
充血させた目で見上げ、おれの一言一句を聞き漏らさないよう息すら止めて、ただおれの言葉を待っていた。
「・・・落ち着いたか?」
返事は無言の頷きだった。
「こっからちょっとマジな話するんだけど、聞いてくれるか?」
「うん・・・、聞く」
やっと落ち着いたのを確認してエリィを放し、それでも両手をエリィの肩に残して語りかける
「酒場の一件の話はまだ続きがあったんだ。ソイツらによると隣国のアドリアがある特定の人達を各地から集めてるらしい」
「それが私に関係あるの?・・・」
告げるのに少し躊躇してしまう。できればこの子にはもう平穏の中で幸せに生きてほしいのに・・・
「集められてるのは『精霊を目視・会話が出来る女性』が条件だ」
「あっ・・・」
「わかったか?エリィ、おまえはまだ危ない状況にいるらしい」
実際あの国が何をしでかそうとしてるのかは分かってはいない。
だが戦争中の国に連れて行かれれば無事に済むわけがないのは明白だ。
そんな事はさせやしない。
いつ死ぬかもわからない生き地獄に帰してなるものか!
「じゃあ、また私は・・」
「だからおれが守ってやる、絶 対だ!」
エリィの言葉が続く前に、それをかき消すほどの声で遮った。
「でもそれだとまた」
「これも前に行ったはずだよな。”おれを頼ってみないか?”って。あの言葉に期限なんてつけた覚えはない。
それになエリィ、お前と出会ってまだたったの数週間だ。それでも、お前といた時間はスッゲー楽しかったんだぜ。
たった数週間だったけど、お前はもう他人じゃない。おれにとってお前は・・・」
「わたし・・は?」
ゴクッとエリィから息をのむ音が聞こえた。よく見れば彼女の頬は赤くなっていた。
日が沈み辺りが暗くなっていたがそれでも赤くなっているのがよくわかる。
「いもうとみたいなもんだ」
「・・・・・・・」
エリィのジト目攻撃がジークに直撃!!
「あれ?どしたエリィ。なんか気に障ったか?」
「むー。まだ妹か・・・」
まるで“子供が親からほしがってたものをプレゼントされた時それが予想と違って不満を抱いてる”みたいな顔をエリィはしてる。すると親の立場であるおれはすごい罪悪感に襲われてるわけで・・・
「ふふ、まだまだこれからだもんっ」
何か悪いことをしたと思い落ち込んでいたおれにはよく聞き取れなかった。
文句の一つでも言ったのかと思ったがエリィは両手を胸のあたりに持ってきてグッと握り、何か意気込んでるかのようだった。
「えっ今何て言った?」
「ううん、いいの。これからもよろしくねジーク」
「?・・・。応っ分かった!」
話が終わったところでちょうどギルドに倒着した。
「数日ぶりティーナちゃん・・・ん?あいつ等はもう帰ったのか?」
「ほんとだ、誰もいないね」
「よく帰ってきたのうジーク」
誰もいない静かなギルドでおれとエリィを出迎えたのは杖をついた顔に深い皺を刻み長く蓄えられた髭を生やした老人、このギルドの長、ギルドマスターだった。
「あれ、どうしたマスター。此処に出てくるなんて久しぶりじゃん。いつも隠居隠居って言って仕事丸投げしてるあんたが此処に一人って何事?」
「余計なことは言わんでいいわい。大体ワシはもう80じゃぞ?もう死ぬぞ?別にいいでないか」
「言いきるなよジジィ。んで、一体何の用だ?」
するとマスターは視線をおれから外し空いた手で自慢の髭を撫でながらあっちこっちと目を泳がせた。 明らかになんか困ってる。
「それなんじゃがのう・・・。おお!その子が噂に聞くお前が連れ帰ったというエリーナちゃんか」
「は・・はい、新しくこのギルドに入りました。よろしくお願いしますオジイちゃん」
この子は老人と会うたびに“~ちゃん”だなぁ。その辺はすごいと思う。
「ほっほ、いい子じゃないか。うむ、合格」
「何がだよ、いいからさっさと用件言えよ。もう忘れかけてるだろ?」
「ふぉ!・・・そうじゃった」
これだよ。このジジィもう頭がボケてきてるからさっさと話を進めないとすぐ忘れる。
「今朝、このギルドに通達があってのう。内容が内容じゃからマスターであるワシ自身が伝えねばならぬと思ってな」
「通達?また別の魔獣が出たのか?」
「そうではない。新しい手配書が来てな、よりによってその人物が我がギルドから出たのじゃ」
そういうマスターは何故か呆れ顔だった。
ギルドから罪人が出る、おれ達に取っては身内が罪を犯したのと同義だ。だからその知らせは大きな衝撃を持っていた。
「マジかよ・・・。その馬鹿はじゃあ誰なんだ」
するとマスターは深いため息をつき、おまけに冷めた目をつけてこっちを見る
「一応聞いておくがお前は心当たりはないのかのう」
「ないな。最近はギルドによく足を運んでないし、ましてやこのギルドにそんなことする馬鹿がいたのかすら知らなかったよ」
そのときのジジィの顔はまるでゴミを見るかのようだった。
なんだろう・・・前にもこんなことがあった気がする。
「これがその大バカ者じゃ」
ジジィが懐から取り出した例の手配書を受け取り、おれはその“大バカ者”を直視した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
因みにジークが撃退したドラゴンは下位です