25話 ジークがいない家で
人でにぎわったあの祭りから3日が経ちジーク宅にはエリーナ・エリス・ジェス・リゼのその家の主を除いた4人がそろっていた。
最初は都市を巡り歩いて回るつもりだったエリス達だったがそれをジークは良しとせずあまり出歩くなと言われ缶詰め状態を余儀なくされていたのである。
それに対し、自分達が身に着けていたマントには魔族特有の魔力を遮断する効果を付与していて、それを身につければ問題ないと自信満々に言い張るエリスだったが
「全身マントで体隠した連中が歩き回るってどうよ?すっげー不審者じゃん。魔族云々より別問題だろ」
ときっぱり言い返され撃沈されてしまったのだった。
因みにこの家の主であるジーク本人は2日前に「おれドラゴンキラーになってみたかったんだよね」と置き台詞を吐いて一人どこかに行ってしまっている。普通なら皆笑って夢物語だと馬鹿にするだろうがこの人物に限ってはそれが可能な力を持っているためジェス達はどう受け取っていいのかわからなかった。
ぶっちゃけ最近の出費が馬鹿にならないので、ちょうど良く見つけた報酬の良い依頼で金稼ぎしてるのである。
sideジェス
「くそっジークめ、自分は一人で出かけておきながら私達には外に出るななどと一体何様のつもりだ!」
「しかないでしょエリス。こうして僕ら魔族を家に泊めてくれてるんだから、
迷惑はかけちゃダメd「ガシィィ!!」イタイイタイイタイイタイっ顔が潰れる!?」
理不尽なアイアンクローに倒れ伏す僕、同じ場所に閉じ込められ続けられる状況に耐えられないエリスはその苛立ちを僕にぶつけることでなんとか暇を凌いでいた。
彼女は何かといらついてる時なにかと僕に当たってくる癖がある。
女だからって魔族の握力は舐めちゃあいけない。相手が人間だったらその頭蓋を粉砕出来るほどあるんだよ?
死ねるよマジで。
「はぁ・・・・」
「どうしたジェス、ため息は吐くと幸せが逃げるというぞ・・・もっと吐け」
「やだよ。いや、僕達こんな普通に生活できてるからさ。ほら、今までずっと追われてたじゃない?」
これまで僕たちは魔界から離れ敵しかいない場所を流れ続けていた。
人里に着いて最低限の補給を済ませたら素性がばれないようにすぐ次を目指し、ときには寝ているときに襲われたこともあって、毎日緊張が張り詰めてまともに息抜きなんか出来なかった。
思い出せば思い出す程今この瞬間が幸せだと感じる。
「そうだな。いつもは野宿で碌に眠れなかった」
「えー、エリスは熟睡してたじゃないか。豪華なべ・・・ごめんなさい」
「チッ」
余計なことを言おうとした僕にぬっと誰の手が伸びてきたが本能が素早く反応し口から謝罪が飛び出し、その手は舌打ちと一緒に戻って行った。
「その件では2人にずいぶん世話になっている。エリィよ、すまないな」
「ううん。エリスたちがきて楽しい、迷惑だなんて思ってないよ」
「でも結果的に2人は魔族を匿ってるんだよ?こんな良い兄妹がいるなんて僕は申し訳なくてたまらないよ」
コレが一番の気がかりだった。ことが知れたらエリィ達も断罪の対象になるかもしれないんだ。
今更巻き込んでおいてなんだけどどうしてジークといいエリィはこんなに優しく接してくれるのだろうか?
そんな思考中の僕を見てエリィは首をかしげていた。距離的に聞き取れなかったってわけではないだろう。表情からして疑問を抱いてる・・・何に?
「兄妹?」
その疑問を含めた呟きはエリィからだった
「ん、どうしたのエリィ?」
「兄妹って誰のこと?」
「もちろんジークとエリィ」
「なんで?私とジークは血繋がってないよ。ここで暮らし始めたのもジェス達と出会った1週間ぐらい前だもん。それまでお互い顔も知らなかったよ」
「うそ!?」
エリィの思いがけない告白に僕だけではなく目の前と近くで聞き耳を立てていた他の2人も驚きを隠せないでいた。
だって年の近い2人の男女が一つ屋根の下で暮らしてるんだ、誰もが身内だって思うだろう。
周りから見たらジークとエリィの接し方はそれほど親しみがあり、とても知り合って1カ月にも満たない関係とは全然思えない。大体そうだとしてもそんな関係で一緒に住んでたの?・・・恋人?
「自己紹介の時ジークの後に名前だけ言ったからてっきりそうかと」
「ごめんね。私名前しか持ってないから・・・」
何気ない会話から一変、エリィの顔に影がさしそれにつられて周りの空気に重みがかかる。
その時を見逃さずにすかさず僕に伸びる手
「アタタタタタっ!ごめんっ今のは自分が悪かったです!!」
「馬鹿がすまない。しかしそれなら何故エリィはココで暮らしておるのだ?前までは赤の他人だったのだろう?」
「エリス、それ僕としてること一緒ぐはっ!」 再度撃沈
「いいよジェス。えっとね、前に私は精霊が見えるって言ったでしょ?
ジークと会うまで私はある宗教にいたの。中でも特殊体質だった私は巫女として暮らしてたんだ」
そしてエリィはポツポツと自分の過去とジークとの出会いを語り始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それでねそれでねっ、ジークはすごいんだよ!
どんな魔物が来ても一振りで“ドッカーン・・・キラン☆”(比喩あらず)てぶっとばしちゃうの。
あと私にいろんなことを教えてくれたし、優しくしてくれるし・・・お肉食べさせてくれたし・・・」
エリィの話はいつの間にか「ジークはすごい!!」に代わっていた。今でも両腕を大きく振って大剣を持ったジークを表現し、口だけでなく手やときには体全部を使ってジークとの思い出を話していた。
てゆうかジークも犠牲者(肉)だったんだね・・・
さっきまでエリィは暗い過去を話していた。両親との別れジークと出会うまでを話す彼女は俯き何かに耐えるようだった。そして救出され一緒に来いと言われたところでエリィの体が止まる。
さすがに辛かっただろうと思いそれぞれが慰めの言葉をかけようとした途端にこれだった。
彼女は顔を華のように咲かせその口からは止まることなくジークをたたえる言葉が出てくる。
その姿はまさに恋する乙女、目にはいる筈のない人を映し、いつもは感じられない女性ならではの色気が出ていて、元から綺麗な容姿はさらに磨きが掛かっていた。エリィってこんなだったっけ?
普段近くにいるから長時間いないことでいっそう気が大きくなってるのかも知れない。
見てるこっちが恥ずかしい気がしてきた。
でも、死の淵に立たされた少女が出会った人に助けられて一緒に暮らしてるなんて、まるで出来すぎた物語みたいだ。
『運命』、そんなものがあの2人を出会わせたかのように感じる。
-なんて思ってたけどそろそろ止めようかな?聞いてるこっちが耐えられない・・・
目を動かせば、なおも続く話に耐えられないのかエリスが顔をそらし少し小刻みに震えている。
ちょっとだけ見える顔が赤らんでいるのはなぜだろう?そして話題を変えるべく僕は即行動を実行した。
「エリィにそんなことがあったなんてね」
「虫唾が走るな。その連中が目の前にいたら、うっかり握りつぶしてしまいそうだ」
「ホントだよ。・・・あれ、目が見えない?って潰れる!今まさに僕が潰れる!!」
悲鳴がこだまし場が一転する。
エリスも分かっていたのか僕の話に続けるといつものペースを繰り出す。
でもだからって僕を使わないでよ!!
「あははっ、エリスとジェスって仲がいいんだね」
「むっ、そう見えるか?」
「うん。ほら『ケンカするほど仲がいい』って言葉みたい」
「じゃあ違うね。これは一方的な虐待だ・・・ケンカにすらなってないよ」
そう返すジェスは仰向けに倒れエリスにマウントポジションをとられている。
見方によっては魅力的(?)な状態、しかし実際にジェスが感じている感情は『愛』ではなく『痛い』
だ。ジェスに反撃する様子は見られない。
エリスの手際の良さを見るとここまでの旅で何度もこのやり取りが行われていたのだとわかる。
哀れジェス、頑張れジェス、君がその苦痛から逃れられることはまだ先だっ
「えー?」
エリスとジェスのやり取り(一方的な暴行)が功をそうし、エリィは話しをやめていた。
「ねぇお外行こうよっ」
「でも、ジークは出るなって・・・」
「大丈夫だよ、私言わないもんっ。それに此処の人達なら大丈夫だよ」
両手を握りしめ胸の前でギュっとして己の意志の強さを主張するエリィ。
あまり根拠がしっかりしてないが彼女が言うことにうそ偽りはないだろう、それにエリスが言うことにも一理あると思う。
この都市は貿易都市でもあり様々な人種が行き来する場所だ。見た目を気にして体を隠すなんて例は港を歩いたら見つかるだろう。
当然それを見かける人達もいるが気にしない、種族・見た目隔てなく接するのが此処の良い所だ。
現にエリィも最近住み着いたわけだがたったの1週間で馴染みこめていた(子供経由)
「うむ、エリィがそこまで言うなら仕方がない。無下に断るわけにはいかないな
そうとなれば早く行こうではないか、暇で暇で死んでしまう。案内頼むぞエリィ」
「うん。どこ行こうかな♪」
「えっ、ちょっと・・・」
着々と準備を始める二人を止めようとするが全く相手にされてない。もはや彼女らの頭の中には僕やジークのことはなくて外の風景で満たされてるに違いない。
助けを求めようとメンバー最後の良心であるリゼを探す、しかしそのリゼは腰に帯剣しすでに支度を終えエリスの護衛の準備完了であった。
そういえばこの人はエリス一番だったなぁ
ごめんジーク。僕頑張ったけど止められなかったよ・・・まっいっか。
結局暇を持て余していたのは僕も一緒。エリスたちに便乗して心置きなく観光を堪能したのだった。
side end
彼らに訪れた久々の穏やかな日常
だが、彼らに安らぎはまだ早い
またもリザをリゼに修正