20話 またもや嵐
朝起きたおれはとんでもないものを見てしまった。
目が覚めたジークはボサボサの頭をガリガリ掻きながら部屋を移動してるとき不意にある物へと目が止まった。目線の先には普通のベッドくらいのソファーがあり、いつもはなにも置いてないただのソファーだったが今日のそれは薄い毛布がかかって大きな膨らみができところどころが凹凸していた。
気になったジークは近付いてばっと毛布をはぎ取った。
そして問題はそこに寝ていた。
「・・・・ッ!!」←声にならない
すやすやと寝息を立てぐっすり眠る少年と少女がいたのだ。
ソファーはベッドほどあるとは言ったがもとより人が2人寝るには満足な大きさではない。
結果的に寝ている2人は落ちないように互いの身を寄せ合い、片や腕を相手の背中や腰に回し(男)
片や抱きつくように両手を相手の背中にまわし自分の顔を相手の胸に沈め足をからめている(女)。
つまり・・・・・・ぶっちゃけ男と女が朝から抱き合ってました!
いかがわしい雰囲気を醸し出してました!(パニック中)
ジークはそれを見た瞬間眠気が吹き飛びはぎ取った毛布を持ったまま停止してしまった。
(マテマテマテマテ!誰だこいつら、あっジェスとエリスだ。
じゃあなんでこんな所で寝てるんだ、あっおれがここで寝せたんだ。
じゃあなんでコイツら抱き合ってんだ!おれが知るかっ!!)
2人を見たジークは頭をフル回転させ1秒で思案した結果パニックしか起きず
結局導き出した答えは
「おれは何も見なかった」
ファサ←毛布をかけなおした
「ああ、今日のお外は何だか気持ちよさそうだな。よし散歩でもしてくるか」
そこからジークは外に出るまで決してソファーを見なかった。
その日の朝、ある家から鍛冶屋の雷ジジイよりも大きな女の悲鳴と
何かが吹き飛ぶ音が都市に響きわたった。
・・・・・・
「ねぇ」
「・・・・・・」
「あのぅエリふさん?」
「なんだジェス(ギロ!)」
「うっ、その・・・あはからなんでか凄くくひから上がひたひんだけど、何か・・・知らない?」
「ほぅ、聞キタイか。ソウカそうか自分ガナニヲシタカシリタイノカ?」
「やっぱいいです」
ジーク宅の朝の食卓は混沌と化していた。
席はジークとジェス、向かい合ってエリィとエリスで並んでいる。
ジェスは顔を大きくはらし横から見たら誰かもわからない有り様で
対するエリスはいつもの冷静で余裕のある顔ではなく顔を赤い野菜のように赤く染め鬼のように睨みつける目は少し潤んでいる。
ジェスが目を覚ました時破壊された壁の下で倒れていて気付いたら顔に激痛が走り人相が変わるほどはれ上がってしまった。爆音で目を覚ましたエリィが駆け付け治癒しようとしたがエリスによって止められ放置されてしまったのだ。
エリィ曰く昨日の怪我の方が軽傷だったという。
そしてどこからか帰ってきたジークはその状況を見てジェスに近寄り肩にポンと手を置くと
「『知らぬが仏』って知ってるか・・・」
「え、何?僕何したの!ねぇジーク!!」
何があったのか分かっているジークの反応にジェスは尋ねるがお前のためだとはぐらかされてしまい、結局ジェスは自分に何が起こったのか分からないままテーブルにつきエリスからの無言の威圧感に怯えるハメになった。
もっとも、近くのジークとエリィもその理不尽な威圧感を体験し迷惑をかけていた。
「そ、そういえばジェス達はなんでこの都市にいたんだ?」
朝食を終えなんとか空気を変えようとジークが苦し紛れに話題を持ちだした
「え・・・あ、ふぁいもともとほほに寄る予定だったんでふけど。
途しゅうでやふはに見ふかってひまってひげながら来たんでふ」
「ジェス何言ってるか分かんないよー。大丈夫?」
辛そうにジェスは話すがその辛さは昨日を思い出しての無念からなのか
それとも単に腫れた顔が痛むのか、どちらにしろ真剣さに欠ける話し方だった。
「そこからはそこの馬鹿に代わって私が説明しよう」
声に反応しそこを見ればドアの前に腹を刺されベッドで寝ていたはずの女魔族が立っていた。
魔法で治療されたとはいえ怪我が完全に完治してるわけではなくまだ安静にしてるべきだというのに
彼女は剣を腰にさし何事もないように立っている。
その顔は痛みを感じさせない無表情だが以前のエリィとはまた違い鋭い眼には強い意志を持っていた。
おそらく必要以上に感情を表に出さない仕事至上のような性格なのだろう。
堂々とした姿にジーク達は制止するのも忘れ、そのまま彼女はテーブルにつくと話し始めた。
「まずは礼を言おう。人だというのにエリス様を助けてくれて感謝する。そして君も私の怪我を治してくれたのだろう?ありがとう」
「おっ清々しいねぇ。おう、どういたしまして」
「えへへ、体もうよくなったんだね。よかった」
意外にも礼儀正しく感謝を告げる彼女に好印象を覚える2人、どうやらとても良い魔族のようだ
「自己紹介をしよう。私はリゼ、『リゼ・ガルデア』だ」
「ジークだ、『ジーク・クルード』。よろしくな」
「私はエリーナ、エリィって呼んでねリゼさん」
「そういえばリゼはケッコーな怪我だったろ、どうしたんだ?」
「そうだな、恩人である君達には知る権利がある。話すとしよう。
すべてを話すことはできないがここに来る前からの事を話すとしよう
エリス様の話によるとリッガルで君たちは出会ったようだがその時私は追手の撃退をしていてな
傍での護衛はジェスに任せていた。まぁ逆に助けられたようだが」
と横を見てすぐに視線を戻すリゼ
エリスの機嫌を取っていたジェスが反応しビクッと震える
「うっ」
「追手はかなりの頻度で襲ってくるが私はこれでも子爵の上位に属している。
たいがいのやつらは何ら敵じゃなかった」
「子爵級だとっ、じゃあなんでそれほどの力を持つあんたがあんな怪我してたんだ?
中位魔族を相手にできる奴なんてそういないぞ」
あの騎士達でも良くて6階級ほどの強さ、とてもじゃないが中位魔族には30人くらいで戦わせても勝てるか怪しいところだ
「ああ、私もそう思っていた。だがあの時騎士の中に1人別格がいたのだ。私はそれに気付かず
戦っていてな油断していたところをやられてしまった。しかもその騎士たちは私たちの追手ではなくこの都市に来ていた途中だったようだ」
「すると、あいつらとあんたを倒したっていう奴はこの都市にいるのか。
そういやダロンのやつが今度の闘技大会に国の騎士も参加するって言ってたな」
「おそらくそれだろう」
「うーん、じゃあお前ら少しでも早くここは出るべきだな。幸い今この都市は明日の闘技大会で
いろんな種族とかでいっぱいだし逃げるなら今が好機だ」
「そうしたかったのだがな・・・」
当たり前の考えにリゼは顔をそらし言葉を濁す
「ん?なんか問d「それはダメだ!!」うおっ!なんだよエリスっ」
突然身をこちらに乗り出し叩きつけるようにエリスがジークの言葉を否定する
それを見たジェスとリゼは同時にため息をついた。
対するエリスはジークを睨み拳を胸の前あたりでプルプルさせている。
「それはダメだ、今日ここを出たらここに来た意味がない
・・・・明日の闘技大会を見れないではないか!!」
~沈黙~
自分たちの立場をまるで無視し言い放った言葉にジークは口をあけてぽかんとする
「え?もしかしてそれ見に来たのかお前ら。逃亡中のくせに?
そんで偶々騎士たちと居合わせて昨日のあれなのか?
・・・・・・・「「「はぁ」」」
ため息が重なったのは決して偶然ではないだろう、そして誰と誰が重ねたのかも聞くまでもない
のほほんと聞いていたエリィもこの時はさすがに
困った笑みを浮かべて「あ、あははっ・・・」と乾いた笑いを出していた。
「エリスはこっちの文化や行事にすごく興味を持ってるんだ。
だから闘技大会を知った時はここに来ることは即決だったんだよ」
いらない情報ありがとうジェスくん
エリスはその意思を変えず本人の中では闘技大会を見ることが決定事項のようだ
結局ジークはエリスに根負けし今日の逃亡計画はとりやめとなった。
リゼは多く見積もって伯爵級、あくまで子爵級