18話 再会それは必然
「ん・・・あー。なんだまだ夜か」
今日は早めにねたが逆に寝すぎて夜中に目が覚めてしまったのだ。窓を見ればまだ魔灯の光がぽつぽつと光っている。
エリィも同じくらいに寝たはずだが起きる様子はなくすやすやと眠っている。
またすぐに寝ればいい話なのだがジークの目は完全にさめてしまったため横になってもなかなか眠りにつくことが出来なかった。
しかし、しばらくすると外で何か音がするのが聞こえた。それは金属がぶつかりあう音やときどき人の声も聞こえる。
人が消える夜には聞けない金属音。この時期は鍛冶職人が夜も惜しんで鉄を打ったりするらしいがあいにくここは遠すぎて聞こえることはない。そしてその音は段々と近付いてきている。
つまり・・・
「厄介事か」
ジークは事の正体を確かめるため起き上がるとエリィを起こさないようにそっと部屋を後にした。
sideジェス
「エリス!ここは僕が引受けるから早く逃げて!!」
「しかしっ「いいから早くっ」くっ、スマン」
援護に回ろうとしたエリスだが逆に強く逃げろと言われ仕方なくその場を任せて走り出す。
その肩には彼女よりも大きな女性が腕をまわして、腹をやられたのか血を大量に流している。
エリスは捕まるわけにもいかないし、何より仲間がけがを負ってるので自分が頑張るしかない。
対峙するは銀色で統一された鎧を身にまとった騎士5人。1人1人の力は僕には及ばないが巧みな連携を繰り出され防戦一方になっている、幸い相手は街中ということで騒ぎを大きくすることが出来ず魔法を使わずに剣や槍などで連携して襲ってくる。
それぞれをいなし、かわし、うける。反撃を試みるがすぐに敵の援護が回って止められてしまう。
自分が足止めになればそれで勝ちになるが相手はそれをよしとはしなかった。
「くそ、やむを得んな。多少の被害なら仕方ないだろう。各自魔法の使用を許可する!」
リーダー格の男の命令に反応して騎士のうち2人下がり詠唱を始める。
ジェスが止めようと奮闘するが3人の騎士が必死に守り手が届かない。
「風よ、その身を刃とし我が敵を切り刻め『エア・スラッシュ』」
「水よ、その身を変え我が敵を貫け『アイス・スピア』」
「っ!」
途端に目の前の騎士たちが飛びのきその先からジェスめがけて数本の氷の槍と見えない風の刃が殺到する。
すんでのところで横に飛んで氷の槍はかわすことが出来たが目視できない風はかわせずジェスの太ももに掠めてしまい切り裂かれてしまった。
「ぐっ」
「機動力は削いだ、とどめを刺すぞ!」
勢いづいた騎士たちは武器を掲げどんどん距離を詰めてくがジェスは足のダメージでにげられない。
(ッ、このままじゃ…)
勝機と見た先頭の騎士が走り出しそのあとに続いて残りの騎士たちもジェスにとどめを刺すべく走り出す。
初撃はかわせるがそのあとに続く騎士たちの連携はきっとかわせない。
「ガっ!?」
ジェスの横でビュンと音がしたかと思うと先頭で走っていた騎士が突然後ろにはじけ飛んだ。
突然の事態に騎士たちは攻撃を止め倒れた騎士を囲むようにして警戒を始める。
「どうした!?」
「くそっ、詠唱した様子は見られなかったぞ!」
(違う、僕はなにもしていない。・・・じゃあ誰が?)
夜目の利く僕はすぐに倒れている騎士を見る。
被っていた兜は何かに当たったのか大きくヘコみその衝撃で騎士も気絶したようだ。
(・・・ん?近くに石が落ちてる?)
疑問にふけっているとその答えは後ろから歩いてきた。
side end
「おたくらこんな夜中に何してんだよ、つーか家壊すな」
緊張が走る場にそこにはいなかった人物の声が響く、ジェスが振り返った先には暗いせいでそこまで見えないが身長が高い男が10メートル離れた場所に立っていた。
男は手に拳くらいの石を数個あってそれを上に投げて取ってを繰り返している。状況からして騎士を奇襲した犯人はこの男で間違いないだろう。
騎士たちも予想外の乱入者に警戒を高め身構えている。突然の奇襲に仲間をやられ気が立った騎士の1人が今にも戦闘を始めようとする。
「チッ、別の仲間がいたのか」
「仲間?何のことだよ」
「とぼけるな!我らを襲ったのはキサマだろう!」
「待てっ、すまない貴殿はもしやここの住人なのか?」
「ああそうだよ。外がうるせーから来て見ればどんちゃん騒ぎしてるわ武器どころか魔法まで使って家を傷つけるわ、ケンカにしては度が過ぎてねーか騎士さんたちよぉ」
男の挑発的な態度に冷静な騎士は少し考えると話し始めた。
「それはすまなかった。だが私たちは今罪人を追っている最中でな、抵抗するため仕方なかったのだ」
「罪人?見るからにガキだが騎士が5人がかりで殺しにかかるほどのものなのか?」
男はあくまで引かないようだがその言葉に騎士たちが笑みを浮かべる
「見た目はただの子だがソイツの正体は魔族だ。つまり貴殿がソイツを助ける必要はない。
さぁもうお帰り下さい。魔族は私たちがきちんと討ちます」
正体をばらされたジェスはついに逃げ場をなくした。
自分が魔族と分かったなら助けてくれたこの男も敵に回るのは明らか、この6人を相手にしてはもう勝機はない。
体から力が抜け脱力したジェスに騎士は勝利の笑みを浮かべ無防備になったその肩を掴む。
その光景を見ていた男は特にリアクションするわけでもなく平然としていた。
「知ってたさ。指名手配されてた2人組の片割れの方の『ジェス』だろ?」
「えっ、・・・なんで名前を」
ジェスは急に名前を呼ばれて驚きが隠せなかった。
確かに手配書で容姿は知られているが名前は知られてはいないはず。
なのにこの男は自分を知ってるという。
男はずんずんジェスと騎士の間に入りジェスを掴んでいた騎士の腕をとった。
このときジェスは初めて男の顔を見てその正体に気づき驚く。
「何をする?」
「1つ勘違いしてねぇか?おれはこの騒ぎを止めに来たんじゃない」
「?・・・では貴殿は何をしに来たんだというのだ?」
騎士はまたしても邪魔されたことにいらだち男を睨みつける。
気づけば男はにやりと笑い空いた方の手を振り上げていた。
「恩人を助けに来たんだよ」