9話 追手
な…長かった……
side3人
「…はっ……はっ、…っ」
朝の人がいない森で3人は走っていた
二人を囮にしてる自分に文句を言いたくなるが今はそんな場合ではない
相手の素性がわからないから呼ばれる援軍の数も予想できない、こっちの人数を考えると逃げるしかない
「い…、一旦休みましょましょう。ここまで来ればもう見つからないかと…」
木々の生えていない大きな広間にでると、あまりしゃべらない部下が声絶え絶えに言う
3人はかなり走っていてもうすでに4キロを超え、武器を所持してるのでさらに疲労がかかっていたので全員賛成で腰を下ろす
「…くっそ!朝からこんな走らせんじゃねぇよっ」
「仕方ないっス、ジークさんがあの子を受け持ってる以上こっちは逃げ切らないと」
「…おまえ、わかってんのか?あいつを犠牲にしてんだぞ!」
「え…もしかしてホントにジークさんのこと知らないっすか?」
真面目に話すのにロイズは“こいつ何言ってんの?”という様な反応をする
そんな態度に怒ろうとするが部下も「あの人なら大丈夫でしょう」と制する
「とにかく、ここも早く離れましょう。追手に会わないにしてもここは危険です」
10分の休憩に3人は腰を上げまた走り出そうとする…、そこで知らない声が聞こえた
「それは困る…、あなた達にもしてもらいたいことがあります」
「来たかっ」
「誰っス!?」
予期していない声に3人とも驚きながら声のほうに身構える
すると木々の間から5人の男たちが出てきた、5人とも同じ格好でやはり黒いローブを着ている
(なんでここに現れる!?)
それが3人の疑問である、少女はジークが連れていてこっちの行方は分からないはずだ
「5人か…、人数からして分けてるっスか?」代表してロイズが尋ねる
「いえ、これで全員です」
その言葉で3人に希望が見えた、相手が5人なら例え魔術師がいても突破できる
「こんなに早く見つかるならこっちが最初っスか?」
「あっちは足が遅いようなので、あなたたちのあとでも追いつくことはできます」
よほどの自信があるのか男は不敵にこたえる
「なら話は早ぇ、たった5人だったら逃げる必要はなかったぜ」
勝機はあると坊ちゃんが前にでる
「もとよりそのつもりです」
男の言葉で相手は何か唱え始める、やはり相手は魔術師のようだ
距離が離れていたので無暗に斬りかかることができず出方を見る
すると男たちの前の地面にシミができ始めそれが徐々に模様のある円をつくる
「これは、…まさか召喚陣!?」男たちの魔法に気付いたロイズが驚いて叫ぶ
「なにっ?止めるぞ!!」
「はっ、もう遅いっ」
そして陣からでた黒い霧がはじけた
side end
3人と別れた後自分たちはべつのほうへ進んでいた、これで両方が追手に会う確率は下がる
本来ならとばして走りたいがエリィに合わせてるため遅くなっている
「無理しなくていいぞ、休むか?」
心配して尋ねるおれにエリィは顔をよこに振る
「大丈夫…早くしないと追いつかれる」
「そうか…」
つらい顔をして断るエリィに胸が痛む
(くそっ…、おれがちゃんとしてれば)
「…ちがう、これは私のせい。だから気にしないで」自分を責めるようにエリィが言う
顔にでてしまったらしく逆に言われてしまった、励ますのはおれのはずなのになんてバカなことしてんだ
「心配すんなって、こう見えても“すごく”強かったりするんだぜおれ」
誤魔化すように頭をなでてやった
そして招かれざる客が現れた
「探しましたよ巫女」
男の声にエリィは固まり、おれは守るように前へ出る
(来たか…)
「あなたが巫女をそそのかした方ですか…、まったく面倒なことをしてくれる」
男の言葉に手に力が入るのが分かる
そそのかす?ふざけるな、それじゃあまるでエリィは死にたいと願っていたとでも言うのか・・・
「“そそのかす“?馬鹿言うんじゃねぇ。普通に生きようとしてるだけだよ」
「それはいけません、彼女には役目があるのです、…そしてあなたにも手伝ってもらう」
「はっ!てっとり早く“死んでくれ”って言えよ、回りくどいんだよ」
相手はあまり時間をかけたくないのか少しの沈黙を置くと「…やれ」と合図する
5人で同じ詠唱をしている様子を見るとそれは召喚魔法だと分かった
「テメェらが出す奴なんてたかが知れる、さっさと出せよ…」
挑発する俺に相手は笑いだす
「そうですか、ではご覧いただきましょう。……出ろ『ベヒモス』」
すると陣から出た黒い霧がはじけるとそれは姿を現したそれを見たエリィは「ひっ」と悲鳴を上げ震えている
高さはざっと3メートル、全長はもっとあるだろう
4本足で黒い巨体を覆う筋肉でできた天然の鎧、頭から背中にかけて荒々しく生えた獣毛、ギョロリと動く大きな黄色い目、大きく開きそうな裂けた口にズラリと並ぶ牙、そして目の上に生えた2つの大きく捻じれた角
魔獣といわれた化け物がそこにはいた
「ベヒモスだと!?クラス5の魔獣じゃないかっ」
騎士団が総出でやっと討伐できる化け物だろっ、…そうか、だから5人同時詠唱してたのか
驚くおれに男は額に汗をながしつつも笑って告げた
「ふはは、さっきはあっけなく終わってしまいましたからね。あなたは頑張ってくださいよ」
「…さっきだと?まさかおまえっ?」
なぜだっ、そうならないために2手に分けたのに。
コイツら確実に全員捕まえるためにあいつらを優先したのか!!
「えぇ、3人は先にやらせてもらいました。実に呆気なかった」
よく見ればベヒモスの角は赤く濡れている、3人はあれに貫かれたのか…
「…おい、テメェ覚悟できてんだろうな」怒りが立ちこみ殺さんとばかりに男を睨みつける
「やる気ですか?あなた一人で?」
気圧されるような殺気を受けて少し怯む男だがそれでも平静を保って聞き返す
「だめっ!にげて!!」
エリィが声を上げて必死に止めようとする、人の本能がアレには絶対勝てないと悟っているのだろう
「だめですよ巫女、あなたにはこの方の最後を見てもらいます」
相手はそれをあざ笑うかのように勝ち誇った笑みを浮かべて言う
フシュウと荒く息をたてるベヒモスは狙いをジークへと向ける、目標は背中の大剣も構えずに下を見ていた
「エリィ、離れてろ…」
「ダメ!ジークが死んじゃうよっ」放さないとばかりに抱きついてくる
「信じろ、大丈夫だから、なっ。それに言ったろ?おれって“すごく“強いんだぜ」
いつもと変わらない笑顔で言うおれを見てエリィはしばらくするとスっと離れ「絶対…勝って…」というと涙を流して下がっていく
「もういいんですか?」
「ごたくはいいからさっさとしろよ」
「いいでしょう」
男が指をパチンと鳴らすとベヒモスは猛烈な勢いで地面をかける、その突進はもはや何にも止められない
それを前にしてもジークは避けようともしない
あと数瞬でのところでエリィはおもわず顔を両手でおさえた
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side エリーナ
「…ば…、バカな…」
男の驚きが聞こえる
少しずつ手をズラすとそこにはベヒモスの後ろ姿があるがジークの姿は見えない
(やっぱり……、…えっ)
よく見ればベヒモスの下には地面がえぐれて長い2本の線がほどできている。それはさっきまではなかったものだ
そもそもあの勢いで走っていたベヒモスがあれだけの距離で止まれるはずがない
じゃあジークはどこへ行ったのか
「ブォォォォオオオオ!!!」
ベヒモスが叫んでいるがそれは驚きの故、今まで止められたことのない必殺がたかが『人間』に止められたのだ
そしてベヒモスの向こうで声が聞こえる
「おい……、こんだけか?」