朔日の日記帳 45
「落ち着いたかにゃ?」
3人は橋のたもとにある公園のベンチに移動していた。ベンチにはリシリーとツウが並んで座り、ツウは彼女を落ち着かせんと肩を優しく抱いていた。
「はい」と目を赤くしたリシリーが返事をする。顔を上げると口を開いた。
「ありがとうございます。かの有名なカッツォ中尉にも父の件でお世話になったようで」
「いやいや、気にしにゃい気にしにゃい。優秀な警察官で在られたお父様の最後を知る機会を得て、そのお手伝いを出来て光栄ですにゃ」
「はい」と言ったその声は感情が高まったのか上ずっていた、再び涙が溜まったかと思うと、その涙が落ちる前にリシリーはツウの胸に顔をうずめた。
「御姉さま、すこしだけ」
「にゃ、おねえさま!?」
ツウの耳毛が逆立つ。横でその毛の動きを見てかテオが笑いをこらえた。
リシリーの鼻をすする音が2度聞こえたとき、ツウは仕方ないと言った表情でリシリーの髪をなでる。
ツウが髪を撫で始めた頃に西日だった日光は夕日に変わろうとしていた。再び落ち着きを取り戻したらしいリシリーがツウから離れた。
「御見苦しい姿をすみません」そういうとリシリーはハンカチを持った手で目じりで拭う。
「私の胸はいつでもあいてるにゃ、いつでも歓迎にゃあよ」
「ハイ」と言ったリシリーは直後ずびと鼻を鳴らす。
「にゃあ、テオ。お手紙を預かっていただろう?」
ツウと目が合ったテオの肩が上下に揺れる。
「ああ、大事な事を忘れる所だった」テオは上着の懐を探る。
「お手紙ですの?」
「ええ」とテオが取り出した封筒は王国民であればだれもが見慣れた紋章の封蝋で閉じられていた。
「お兄様宛です、王弟殿下からの私的な物です、殿下はご多忙につき僕が預かりました」
テオの手からリシリーへと手渡される。
「王弟殿下から?」裏面の封蝋の紋章を確認したリシリーは封筒を返すと表面の文字を読む「狩猟始めのご案内 準男爵ノーシャップ・コンダッシェ殿」
「お兄様は任務を終え、海上を帰路についています」
「狩猟始めは再来週にゃが、お兄様は帰国まで1ヶ月はかかるそうにゃ」
「先生!」
「ええ。リシリーさん、あなたがしなければならない事はわかりますね?」
「はい! 兄が参加できない旨の代筆ですね!」
「いや、ははは。他にもあるでしょう、別荘の管理人を断る手紙を出すとか」
「ほんとうですわ! あと、お目付け役のクソババアも首にしなきゃですわ」
「ク、クソ……?」と困惑するテオの横で「にゃはっ!」とツウが笑っている。
「ちなみにですがお父様は、ええっと、先代の準男爵様は、状況を鑑みるに殉職でした、殉職であれば、その命をもって当時から今も国に貢献していると王家は判断し、コンダッシェ家が爵位を返上する理由は無いと、嘆願の受理を10年前に遡って延期する事にしたそうです。お兄様には帰国次第、正式に嘆願を取り下げなさるようにとご進言ください」
「はい!かならず、伝えますね! 先生、なにからなにまでありがとうございました!」
「にゃあ、それがいいにゃ。そうだ、リシリーちゃん。よろしければお送りいたしますにゃ、車は近いにゃ」
「御姉さま! よろしいので!? ぜひ!」
「にゃ、まいりましょう」ツウが腕を差し出す、リシリーがツウに絡むように腕をとった「あ、テオ。悪いが車は2人乗りなんだ、テオは一人でかえるにゃね」と言うとふたりは歩き出す。
「お、おおう」呆然と立ったままテオは二人を見送る。
公園のきわでリシリーが振り返った、手を大きく振りながら「先生、ありがとう」と言った。
終
ご覧いただきありがとうございました。
思いつきのまま書ききってしまいましたので、説明が不十分だったり、もしかすれば破綻してるかもしれません。なんなら僕の知らない所で同じネタの作品があるのかもしれません(え?名作ですか?マジすか、勉強不足ですんません)にも関わらず読み切って頂いた事に改めて感謝を申し上げます。
また一度は完結済みとした“王立迷宮殺人事件”の完結済み表示を解除し、これを第1章とし今回あらたに投稿しました“朔日の日記帳”を2章として扱い投稿いたしました。一部の方を混乱させたかもしれません、ご了承下さい。
またもや完結済みといたしますが、テオの次なる活躍をお届けする準備が整えば今回と同様に3章を立ち上げ新たに投稿したく考えております。(これに関しましてはサイトの規約違反、もしくはマナー違反という事であればご教示ください。X・旧Twitterの@toriaezuzuにダイレクトメールなど頂ければ幸いです)
また、感想なりコメントなり評価なりを頂けますと至極幸いにございます。
今後ともどうぞよろしく。
R6.10.31 あらせ