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王立迷宮殺人事件  作者: 荒瀬ふく
朔日の日記帳
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朔日の日記帳 29/45

「では次の10月の記述も……」


「国外でお書きになったのかもしれませんね。ひとまず明日にでも図書館などで13年前の9月、11日から14日にかけて積雪があった国、街を特定してみるのもいいかもしれません」


「はい、その街に父がいたのですね」


「あくまでも仮定ですよ」とテオはリシリーに笑顔を向ける。


「さて」とテオはノートに目を落とした「9月は他には」特に無さそうだと言うとページを捲った。


「10月、3日鴨が美味だった、8日は近所の方と会話した…… 14日は久しく長い”友はここ数日ほど買い物に出た様子も無い、引きこもっている? 調理も終えたようで、いやに静かだ。なにかあるとすれば明日、いや明後日だろうか……” ですか」


ノートの見開き左側にはこの記述の下に数行の空白を残し、右のページはすべてが空白だった。テオがページをさらに捲る。


「日記は以上ですね」パラリと白いページをもう一枚、もう一枚と捲った。後ろページがすべて空白であることを確認すると最後に背表紙の日に焼けた色をテオは見つめノートを閉じる。


「お父様の一年ぶりの日記は2ヶ月足らずで終えたのですね」


「その様ですね」


「お父様は12月に失踪し、翌年の9月に日記を再会、それも海外にてと推測されます。そして、10月14日に記入を終えました。それが、一度はこの屋敷にあり、今度はお兄様がお持ちになっていた」


「はい」


「ふー」と深く息を付くとテオは体を深く椅子に沈めた「そういえば、お父様の失踪した具体的な日付はお分かりになりますか?」


「12月の6日です」


「はっきりとおわかりなんですね」


「ええ、爵位を返上する際の書類にその様に記載があったかと」


「なるほど。もう少し読んでみれば何かわかりそうだが…… 今日はこの辺にしましょうか」


「はい、先生。長いお時間、ありがとうございましたですわ。あ、ところで先生、遅くなりましたし今日はよろしければお泊りになりますか? 家の者に部屋を用意させますが」


「いえいえ、そこまで甘えられませんよ。それに僕、部屋で猫を飼ってまして」


「あら、猫ちゃんを」


「ごはんを用意してあげないと」


「うふふ、それは引き留められませんわね。お名前はなんておっしゃるの?」


「ネコって言います」


「ネコ…… 変わった名前ですわね、伝承に聞く、かの有名なドラゴンの名を頂きましたの?」


「ええ、そのドラゴンです。そうだ、勇者様…… ええっと黒髪の魔法剣士が転生者だったという事はご存じで?」


「ええ。転生後すぐにその魔法剣士が傍にいた生まれたてのそのドラゴンにネコと名前を付けたと」


「そう、そうなんですが、黒髪の魔法剣士が転生する前の世界では猫の事をネコとそう呼んでいた、じゃないな、そういう発音だったらしいんですよ」


「そうなんですの? 初めて聞く話ですわ」


「まだ確証がなくて、これもまた仮説の段階なのですがね」


「仮説ですか…… でも、先生は世界で唯一、魔法剣士が残した文字を翻訳できる方なのですもの、きっとそうなのでしょうね」


「そろそろ、世界で唯一では無くなりますがね」


「あら、そうなのですか?」


「ええ、今度、辞書が出版されます。そうなれば誰でも、翻訳が出来る」


「あら出版! 出版は先生のお名前で?」


「辞書は共著です。ですが同時に原著と翻訳を一冊にした物も、解説付きで。こちらは僕の単独名義です」


「おめでとうございます、ですわね」


「ありがとうございます。そうだ、本ができたら今度もってきますよ」


「あら楽しみ」


「是非いちど読んでみて下さい。それに僕が本をもって来るころには、決着がついていると良いですね。叙爵の件」


「まったくですわ。もう暫くお力をお貸しくださいますか? 先生?」


「ええ、もちろんです。僕の方でも調べておきますよ、9月に雪が積もった国のこと」


テオがテーブルに並べられた資料を鞄におさめ始める。


「ありがとうございます、心強いですわ」


「他の調べ事のついでです、お気になさらずに」


広げた資料を次々と鞄に入れたテオが最後、ノートに触れた。


「日記はどうしましょうか」


「もう少しお調べ頂けるのでしたら先生がお待ちになって」


「そうですね、もう一度、家でも見返してもおきますよ」


ノートも鞄に仕舞うとテオは立ち上がった。


「今日は本当に」リシリーも腰をあげる「ありがとうございましたわ、先生」


「いえいえ、お兄様やお姉様のために頑張りましょう。それに夕食をご馳走様でした」テオはドアに向かい歩き始める。


「ぜひまた食べにいらして」言いながらテオの後を歩き続く。


「ええ、必ず。そうだ、来週も僕が代講ですから、よかったら聴講にきて下さい」


「はい、必ず伺います」とリシリーが言い、二人は廊下に出た。

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