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王立迷宮殺人事件  作者: 荒瀬ふく
王立迷宮殺人事件
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第1話6/15

曹長が憲兵本部への報告と魔法捜査研究所への情報転送が完了した旨の報告を携え戻ってきた。

その頃には野次馬も減り始め、冒険者の亡骸がポロ警察によって運び出す準備が行われていた。


一通りの報告の後に軍曹が言う。


「中尉、帰路の途中、ギルドの職員の方から被害者の登録情報を預かってきました」


「おっ」と言いながら登録用紙を受け取る「テオも見るか」


「もちろん」といったテオがツウに肩を並べ横から紙を覗き込んだ、反対からは曹長も覗き込み始めた。


「ええ、ジスト・ティクティオ、男性、生まれが解放歴48年。曹長、本当に38歳にゃ?」


「はい、事務局長さんからはそのように伺っております」


テオが反応する「南の方の生まれなんじゃないか? あっちは生まれたての赤子を1歳と数えるから」


「にゃ!それにゃ!」


「それに生まれた月と日にちが空欄ですから、大森林より南の土地の出身のようですね」


「にゃ? 曹長、なぜわかるにゃ?」


「あの辺りの一部の地域では新年にその土地の住民皆が一斉に年をとります。年末に生まれた子供なんかすぐ2歳になっちゃうんですよ」


「へー、さすが曹長さん。なんでも知ってますね?」


「何でもは知りません、知ってることだけ」


「ははは」「ふふふ」


「なんにゃ? お前らそんなに仲よかったか?」


___

__

_


「そうじゃの、あれはなんのやり取りであったのだ? 我も不思議であったわ」


カウチで顔を洗う猫の言葉にチェックアウトの時間が迫り身支度をしながらのテオが返答する。


「あれは、勇者様が書き残した元居た世界の冒険譚の一説で、登場人物の口癖を曹長さんが引用したんですよ。少し前に続きを出版したんですけど彼女はそれのファンらしくて」


「あぁあれか、勇者ともの好きだったとか言う。兎娘うさぎむすめはそれを好んで読むのか」


「えぇ、好きみたいですね。ネコさんもご存じの通り翻訳したのは僕でしょう、以前にこの物語のことで曹長さんと話した事があるんですよ。それと翻訳しただけの僕を著者みたいに思っている人が多いでしょう。曹長さんもその一人らしくて、僕の事を先生と呼びつづけるのはその辺も理由みたいですよ」


「なるほどのぉ」


「あ、そういえば勇者様が書き残した本に犯罪捜査の物語がありましたね」


「あれか、タンテイなるものが活躍する物語か」


「ええ、それです。ご存じだったのですね」


旧友ともが夜な夜な書き物をしておる横であらすじを語ってくれたわ。まさかうぬよ、翻訳が無いとは言わまいな?」


「1冊だけならありますよ。あんまり人気が出なかったものですから、今は他の物語を優先して翻訳してます」


「お! して、帰ったら読めるのか?」


「もちろん」


「うむ!」


カウチから飛び降りカゴの手前で言った。


「では、一本早い列車にするるぞ」


「ダメですよ、昼前の列車は満員で切符なかったでしょ」


「では、仕方がない…… 」


籠の手前で肩をすくめた香箱座りになったかと思うと直後「否ッッ!」と立ち上がった。


「元の姿に戻っても無駄ですよ、僕はネコさんの背中に乗らないし。僕が居ないと翻訳本の場所が解らない。大人しく昼の特急で帰りましょう」


「そうか… それは仕方があるまいな」


「そうしょんぼりしないでくださいよ、帰りの列車でもお話しの続き聞かせてくださいね」


___

__

_


「あ、ほら大森林のギルドからこっちに移籍した経歴がここに」


テオが指さした先を皆が注目する。


「にゃ、ほんとにゃ」


「移籍は3年ほど前か……」とテオが口元に手を当てた。


「ほんとうですね」とメガネを直した曹長が続けてて言う「大森林は。えぇ…… マルチファイターなタイプが好まれると聞きますね。いかにも前衛しかできません、といったタイプの冒険者は年を重ねると近場の迷宮の探索に鞍替えしがちと。そう、聞いたことがあります」


「被害者もそんなタイプってとこにゃね」


「とはいえ大森林からだと距離があるだろ」


「そうだにゃ」


「こんな北まで来る間に迷宮ダンジョンは数個あるはずだ。国の端から端じゃないか」


「テオの意見ももっぱらにゃが、ポロは数ある迷宮でも唯一、国王直轄の迷宮にゃ、人気が段違いにゃ」


「それにポロは賢者様出身の街だけあって、後衛を希望する冒険者が多く、前衛の冒険者は優遇されがちというのもよく聞きますね」


「なるほどね、さっきまでそこいらに居た野次馬さんたちの中にも冒険者っぽい人が多かったけど、いかにも後衛職って身なりの人が多かったのはそのせいか」


「そうにゃあね、中には被害者を知ってますって顔の冒険者もちらほらいたが、皆ローブにとんがり帽子だったにゃ」


「え、そうでしたか、気が付きませんでした」


「にゃ、曹長もそういうところはまだまだだにゃ」


「はっ。精進いたします。あの、ところで中尉、手配はよろしいので」


「手配とにゃ? 証拠もにゃしにしょっ引くのか?」


「しょっ引くといいますか、話を聞くだけでも」


「必要ににゃったら聞くまでにゃ。ギルド所属の迷宮潜りなら宿泊先もわかってるにゃ」


「そうですね、了解しました」


「それに野次馬だったやつらの装備品を見る限り、ギルドの簡易宿泊所に泊まってそうにゃやつらにゃね」


「はい、でありますし。ここのギルドの簡易宿泊所は建物3階と4階ですから。犯人の可能性も高いかと考え進言したのですが…… 」


「にゃ、それを先に言えだにゃ。まぁ、被害者を知っている素振りをしたやつにゃら顔を覚えているから焦らなくとも良いにゃ」


「はっ。流石です、中尉」


「で」といいつつツウがテオの顔を覗き込む。


「テオ。さっきから熱心だにゃぁ」


「ん? 活動報告の履歴がさ、結構ソロで潜ってるなって思ってさ」


「にゃ、ほんとにゃね」


「え、私にも見せて下さい」


「ここ1年は全部ソロで低層階の探索にゃね」


「ええ、それにこちらに来て入ったパーティーは全部臨時雇いみたいですね」


「大森林で活躍できなくにゃって、ポロまで来たけど。どのパーティーとも肌が合わず」


「やむなくソロで低層階のモンスター狩り」とメガネを直した曹長が「少し可哀想に思えてきました」と続けた。


「にゃ、被害者の無念を晴らしてやらんとならんにゃ」


「迷宮内の事件にこの事件と忙しくなりそうですね」


「にゃ! 気合をいれて捜査をすすめるにゃ!」

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