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王立迷宮殺人事件  作者: 荒瀬ふく
王立迷宮殺人事件
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第1話3/15

うぬ兎娘うさぎむすめとは知り合いだったのかの」


大通りを歩いてしばらく、日が陰りきったころ。ネコを抱えたテオは再び道を逸れ裏路地を歩く。


「曹長さんですか?」


「ああ」


「知り合いというか、ツウの直属の部下の方で、以前、事件解決を手伝った時になんどか」


「なるほどの、事件というと勇者の剣の展示室での事かの?」


「勇者の剣……あぁ、メートル原器展示室の。あの事件の時はどうだったかな? たぶんお会いしてたかな? まぁ、他の事件でもいろいろな所でです」


「なんと。うぬよ、解決した事件がまだまだあると?」


「まだまだと呼べるほどの回数ではないでが。そうですね、もう3回ほどです。」


「聞いておらんぞ、うぬよ隠し事はいかんのではないか」


「隠し事なんて人聞きが悪いなぁ。あと今回みたいに疲れるのは稀です」


「たしかに少々だが労したの。で、日ごろから面白い事が有れば話せと言っておったように我は記憶するが」


「面白い事って…… だいたいネコさんは戦の話とかしか興味ないでしょうに、後はせいぜい喧嘩とか」


「そうではあるがのぉ」


「四天王討伐戦とか、エルフとドワーフの共同戦線とか。僕がどんだけアカデミーから資料の持ち帰り許可を申請している事か」


「それについては感謝しておる。我や旧友ともとその仲間たちが魔王と死線を繰り広げておった傍らで人間共の世界も魔物どもと戦っておったのだと知ると嬉しくてな」


「ええ、それは何度も聞きましたよ、『苦労していたのは我々だけではなかった』ってやつでしょ」


「そうじゃ! そうじゃがのぉ…… 」


「わかりましたよ、今度時間がある時にでも話しますよ」


「よろしい!列車は退屈でいかんからな、そこでならどうじゃ」


「はいはい、でも先にネコさんの話を聞かせてくださいね」


「うむ。では、話の続きに戻るとするかの」


__

___

____


「曹長!王都の憲兵隊本部に連絡! これより大杖を使用し被害者の魔素残滓を測定する!」


「はっ」という声と共に曹長が敬礼する。次の瞬間、歩きだした曹長が規制線を張る地元警察の一人に声を掛けた。


「ポロ警察の方々にも協力を要請します」


警察官の中でも古参と思しき者が他の官に指示を与えるのを見届け曹長は駆け足でその場から去った。

呼応して数名の地元警察官が群衆に「下がって!」などと声を掛け規制線を動かし移動を始める。その傍らで二人は改めて被害者を確認した。


「にゃがテオ、魔法が使われたかが解ったとしてもだ。直前まで迷宮にいたんにゃ、使用者個人の特定はもちろん使用魔法の特定までの解析はここじゃ難しいぞ」


「それは承知だよ。ツウの腕前なら最後に使われた魔法が何時いつ使われたのかくらいはわかるんだろ?」


「はっ、馬鹿にしにゃいことにゃぁね。魔法捜査研究所に行かずとも私に掛かれば何時いつ使われたかはもちろん、支援魔法バフなり状態異常デバフにゃら何時いつまで効力があったのか、10分単位でつまびらかにしてやるにゃ。使用された魔法の系統から術者の流派までお任せにゃぁよ」


「おや? おぬしもしかして腕をあげましたね?」


「いやいや、どちらかというと出世の力にゃね」


「あーーそういうことね。じゃあ。新しいロッドのお披露目だ」


「『そういうこと』にゃ。使う人が使えば戦術級魔法も撃てる代物にゃよ」


「おぉぉ、戦術級…… ほんとに出世したんだなぁ」


「にゃんにゃぁ、しんみり。おばあちゃんみたいに」


「いやぁ、あの座学がからっきしだったツウが、年中補修のツウが、実技の成績だけで進級していたツウが…… ここまで成長したのかと思うと。おいちゃん涙がでてくるよ」


「にゃぁ、あのころ勉強を見てくれたのは感謝しているが、からかうのもほどほどにしてくれにゃ。地方分隊よそとはいえ部下も見ているんにゃがな」


「おっと、そうだったな。まぁ、本当に、出世したってのはいい事じゃないか。まるで家族の事のように嬉しく思うよ」


「にゃはっ! 孤児だったお前さんの鉄板ギャグ久しぶりに聞いたにゃ」


___

__

_


「はて」


「どうしました?ネコさん」


テオは宿に着くと自室へ戻るために階段を登っていた。猫はフロントに預けてあった籠に入れられていた。


「ここで旧友ともに『この時のテオの顔はこうであったと』報告したのだがの」


「こうってどうですか」


「いやぁ、なんと伝えたのだったか忘れてしもた」


「あぁ、そういう…… 」


「ほれ、うぬよ」


「なんでしょう」


「あのときの顔をもう一度してみせい」


「えっ? いきなりですね」


「いいからほれ、してみせい」


「わかりましたよー。こう、ですか? それともこう?? 」


薄暗い廊下にところどころ置かれた魔石灯のほのかな明かりがテオのはにかんだ様な顔を照らす。


「なんか違うなぁ、そんな楽しそうな顔ではなかったであろう。もっと真面目にやれい」


「えぇー、そんな覚えてないですよ…… こう? とか? 」


「いや、もっと。あれだ、おあずけされた犬みたいな、そんな顔であったぞ」


「え? そんな顔してました? やだなぁ、犬だなんて。ネコさんの記憶違いでしょう」


ガガガと言う音と共に鍵が客室のドアに差し込まれる


「否、『にゃは』とか言っておった猫娘の顔とは対照的にうぬは浮かない顔をしておったわ」


「そうでしたか? 覚えて無いなー」


ガチャリという音の後にドアが開らかれた。


「鏡をいつも、それこそ四六時中見ているような奴でもない限り、再現は難しいかの」


「そうですね、鏡を見ていたとしても、同じ表情っていうのは人間には難しいんじゃないですかね?」


ネコが入った籠が開かれる。


「そうか?」と籠から出ると猫が振り向きざま言った。


「人間の表情というのはですね、ネコさん。感情とリンクしたようなとこがあってですね」


「それはわかっておるわ、であればこそ旧友ともにも報告したのだぞ?」


「ええ、ですからその時の感情をしっかり思いだせれば表情も再現できるかもしれませんね」


「ならばその時の感情を思い出すところから始めるのだ」


「そんな難しいこと言わないでくださいよ。それに勇者様にご報告の際はちゃんと覚えていて、お話もできたのでしょう?」


「であるな」


「どういう表情だったかってのはもういいんじゃないですか。今回の事件には関係ないことですし」


「そうか? 我は大事な事だと思ったのだがの」


「そうですか? とりあえず僕は先にシャワーに行ってきますから。今日はネコさんは入りますか、入るならその後にまた話を聞かせて下さいよ」

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