表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

第七話 手練の成果と迫り来る危機

 夏が過ぎ去り、秋になろうとするころ。

 俺はようやく気力の感覚を捕まえることに成功した。

 何度もルイシアにアドバイスをもらったのにこんなに掛ってしまった。

 諦めずに頑張ってよかったと思う。


 その間にルイシアは保存食の製造に成功。

 真夏という不適切な気候のせいでやや苦戦したらしいが、なんとかできたそうだ。

 乾燥した肉と果物を動物の脂肪で混ぜ、さらに乾燥させものらしい。

 確かに湿度の高いこの季節じゃ乾燥は難しそうだ。


「そろそろルイシアに報告するか」


 気力の感覚がわかったので次のステップに移る番である。

 俺はルイシアがいるであろう場所、隠し部屋へと向かった。


「ルイシア、今ちょっといいか?」

「ん?うん、構わないよ。どうしたんだ?リック」


 彼女は暇さえあればここにこもって結界を張っていた装置を調べる。

 俺としては許可したことなので構わないのだが、何がそんなに楽しいのだろうか。

 それに最近は許可の必要性を感じられなくなっている。

 彼女なら、何でも許せる気がする。


「気力の感覚を掴んだ気がしたのでその報告に来た」

「おお、本当か!?」

「ああ、自分の中に溜まっている熱い何か。これが気力なんだろ?」

「うんうん、それだよ。よかったねリック」

「ずっとこのままだったらどうしようかと思ったけど、何とか出来た」

「あはは、それ私も思った。じゃあ早速、テストにするか!」


 俺たちは城の外に場所を移し、テストを開始する。


「これに気力を流して硬くしてみて」


 そして葉っぱを渡された。


「髪の毛じゃなくて?」

「髪の毛は薄すぎるからね。葉っぱや木の枝の方が難易度は低いんだ」

「なるほど」

「葉っぱの持つ硬さを気力で包む感じで。さ、やってみ」

「わかった」


 自分の中の熱い何か。

 それに意識を集中させて動かす。

 ゆっくりと腕を通じて指先へと伸ばし、続いて葉っぱへと。

 葉っぱ自体が持つ硬さを気力で包むように流す。


「……できたのか?」

「どれどれ……ん、硬い!成功だよ!おめでとう、リック」

「意外と、感覚さえわかれば自在に操れるもんだな」

「そりゃね。本来は手を動かす程度の感覚だからね。リックはずっと付いていた手に気付かなかっただけだから、それに気付きさえすれば後は簡単さ!」

「なるほど……」


 強化された葉っぱを弄ってみる。

 感触も見た目も葉っぱのままなのに、曲げようとしたら硬くてできない。

 いつもの弱々しい葉っぱからは想像もできない現象だ。


「葉っぱのままなのに硬さだけが変わって不思議な感じでしょ?ま、後は経験だね。いろんなものを強化してみたり自分を強化して走ってみたり、好きに試してみて」

「わかった」

「あ、それと強化できるのは硬さだけじゃないからいろんな方向性で試してみること」

「鋭さみたいに?」

「うん、そういうの。じゃあ、私は隠し部屋にいるね。わからないことがあったらいつでも聞きに来て」


 ルイシアは城に戻り、森に残った俺は気術の練習を始めた。



――



 その一方、城の外側の壁を越えた先に広がる森にて、ちょっとした騒ぎが起きていた。

 ……いや、ちょっとしたという表現は少々控えめ過ぎるかもしれない。


「ぶち込め!ありったけの魔術をぶち込め!休む暇を与えるな!」


 空中で指示を出す彼の名前はへゲル。

 数週間前にルイシアを追っていた兵隊の隊長である。


 三十人の兵士たちはその指示に従い、空中から多種多様な魔術を対象に浴びせる。

 炎、雷、爆発など、主に破壊力を重視した魔術を。


 そうやって数分、集中攻撃にしてはやや長い時間の間、魔術をぶち込み続ける。


「全員攻撃中止!」


 へゲルの指示に兵士たちの攻撃が一斉に止む。

 やったか!などという気の利かないセリフは延べない。


 魔術を放った場所は煙で満ちており、その周辺は攻撃の余波で焦土化されている。

 そして徐々に煙が収まり、兵士たちが注目する中それが姿を現す。


「や、やったか!」

「おいってめぇ!それ言うなっつったろが!ぶっ殺すぞっ!」

「あっ!す、すみません!」


 魔法のセリフが通じたのか、姿を現した敵は完全に無傷だった。

 その敵とは、へゲル指揮下の兵隊が遠征中に遭遇した異常現象である。


 形は人より五倍ほどの大きさの球体。

 言い表しにくい文様が光っていて、重力を無視したような動きで飛び回る。

 その名は破滅球体(デッドスフィア)

 規則性が知られた数少ない異常現象の一つである。


「さ、散開!」


 指示に従い兵隊が一斉にお互いの距離の広げ散っていく。

 へゲルの指示は正しく、直後に敵から青い蒼炎の光線が放たれた。

 その光線は兵士三人は丸ごと飲み込むほど太く、布陣の間を開けたにも拘わらず一名の犠牲が出てしまった。

 魔法のセリフを唱えた兵士が攻撃を受け、灰になって地に落ちていく。


「くっ、回避に集中しろ!奴はたったの一体、我々は三十人だ!回避に集中して自分が狙われてないと確信したら攻撃しろ!」


 この場で最も有効であると思われる指示を出す。


 しかしへゲルは知っていた。

 異常現象の相手は自分らじゃ務まらないことを。

 今すべき最も賢明な選択は逃げることだと。


 しかし今のへゲルに、その選択肢は選べない。


(このままじゃ間違いなく全滅だ。だがどうする。この隊に逃げ場なんてないぞ!ここで生きて逃げたとしても我々を待っているのは死だけだ。何としてでも任務を果たさねばっ!)


 考えても答えなど出るはずもなく、へゲルは自分も攻撃に加勢するべき敵に向かって手を上げる。

 だが魔術を発動しようとした瞬間、敵が姿を消した。


「……?どこ行っ――」

「隊長!後ろです!」

「っ!?」


 部下の知らせに早急に場を離れる……が、光の速度で発射される光線を避けるのは決して簡単ではない。


「っ、くああああぁっ!」


 命は失わずに済んだへゲル。

 しかし片腕をやられてしまった。

 苦痛に顔を歪ませながら、灰になって消えた片腕を抑えるように掴む。

 だがそれも一瞬のこと、へゲルは気を取り戻して振り返り反撃をかました。


「このっ、くっそたれがぁ!」


 使ったのは風を操る魔術。

 いくら頑丈な破滅球体(デッドスフィア)でも至近距離でも強風には耐えきれずぶっ飛ばされてしまう。


 そして今のでへゲルは、任務失敗の方が部下たちの生存率が高いと確信した。

 決断の瞬間である。


「隊長!」

「はぁはぁ、お前ら、逃げろ。このままじゃ、どのみち全滅だ。俺がやつを食い止める」

「そ、そんな!」

「隊長を囮に使うなんて!」

「そんなこと!」

「指揮官である俺が死んだからと言えば、魔王様も命だけは許してくれるはずだ。あれが戻ってくる前に行け!」

「わかりました!」

「出来るだけ長くお願いします!」

「ご武運を!」


 へゲルの感動的な犠牲に、涙を堪えて撤退する二十九名の兵士たち。


「…………」


 そんな彼らを見送りながら、へゲルは言った。


「あっさり見捨てやがったな、あいつら」


 だが、それでいい。

 へゲルの隊はいつもこんなノリだった。

 彼にとっては、大切な部下たちが生き残れるなら、それでよかった。


「……もう来たのか」


 そして死が迫ってきた。

 ぶっ飛ばされた破滅球体(デッドスフィア)が返ってきたのである。


 空中で対峙する魔族一人と異常現象一体。

 結末はわかっている。

 へゲルが灰になって終わりだろう。


 相手は異常現象、余程の強者でないと単独での太刀打ちは自殺行為である。

 なのでここでへゲルの人生は幕を下ろすことになるだろう……本来なら。


「うわああああああっ!なんだこれとまらねぇ!助けてルイシアぁ~!」

「ふぇ?」

「うあああああぐえっ!」


 悲鳴を上げながら飛んできた何かが破滅球体(デッドスフィア)とぶつかり、共に反対側へと飛んでいく。


「……は?」


 ……状況を説明すると、こうである。

 ルイシアから教わった気力を試していたリック。

 しかし身体強化の調節に失敗し、一歩踏み出すだけで数メートルは飛んでしまう羽目になる。

 そのまま解除できず、ここまで来てしまったのである。


 破滅球体(デッドスフィア)に背中からぶつかって頭を打ってしまったのは自業自得だろう。


 そして、へゲルは訳も分からないまま命拾いすることとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ