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第五話 ルイシア

 ルイシアと共に暮らすことになって数日。

 警戒で満ちた出会いだったが、今ではお互いに対する恐怖などはない。

 今も彼が寝泊まりすることになった部屋を片付けているが、そこはかとないぎこちなさはあれど共に協力して事を進んでいる。


「なぁ、リック。これ君のものじゃない?」

「ん?いや、ただのゴミだ。鉄の棒だろ?」


 とはいえ、まだ信じ切っているわけではない。

 ルイシアは物知りで俺の正体を教えてくれた。

 リックという素晴らしい名前も与えてくれた。

 俺のものに許可なく手を出さないという約束もちゃんと守ってくれている。

 だがそれでも、共に過ごした時間が短く、ルイシアのことを何も知らない。

 だから俺は、彼のことをもっと知りたい。

 知って、そして信じたいと思う。


「いや、これは剣だよ。鉄の棒は丸い。けどほら、これは鋭く尖っているでしょ?」

「なるほど、確かに棒とは違うな。剣は本で読んだから知っていたが、見るのは初めてだ」

「これは取っていた方がいいと思うよ?」

「どうしてだ?ボロボロで使えそうにないんだが」


 渡された剣を見ると、錆びついていて刃も欠けている。

 今すぐにでも折れそうで、とても使えるようには見えない。


「一応は武器だし、私たち人間には気力がある。武器に気力を流せば使えないことはないからね」

「気力って確か人間が使うっていう……」

「うん、それ。多分だけどリックにも使えると思うよ?人間も混ざってるから」

「えっ、本当!?」


 俺に気力が使えるとしたら、もしや魔力や聖力も……。


「私が教えてあげるよ。まぁ、片付けもあるしこれは時間がかかるから追々だね」


 そういってルイシアは再び作業に戻り、俺は剣を倉庫へと運ぶ。

 片付けとはつまり、こういうことだ。

 この城に部屋は溢れるほどあるが、どの部屋も廃墟であるため使うには綺麗にしないといけない。

 その上、ルイシア曰く俺の部屋のすぐ隣の部屋じゃないといけないらしく、片付けやすい部屋を選ぶこともできない。

 理由は、人は出来るだけ共に過ごす方が安全だからだそうだ。

 確かこう言っていた。


精髄(エッセンス)はね?その濃度が一定以上高くなると農道を下げるために異常現象を起こすの。でも人類がエッセンスをエネルギー源に気力・魔力・聖力を使うからせいぜい人のいない場所でしか起きなかったんだけど、数百年前にここにあったルイーナ王国を中心とした人類国家が丸ごと滅んでしまってね。エッセンスを減らしてくれる人口自体が減っちゃてそれ以来はもう地獄だよ。異常現象のほとんどは人類に脅威だから減った人口がさらに減り続ける悪循環さ』


 ちなみになぜ滅んだのかは謎のままで、その原因を遺跡探査で突き止めるのが探検家の仕事らしい。


 ってのが理由で、人は出来るだけ一か所に集まっているのが一番という。

 だったら俺の部屋で一緒に寝ればいいんじゃないかって言ったらなぜか顔を赤くして怒った。

 なぜだろう……。


「そういえばなんだけど」

「ん?」

「リックはどうしてそんな恰好をしているの?」


 倉庫から戻ると、ルイシアから話しかけられそう尋ねられた。

 言われて自分の体を見下ろす。

 記憶通り、死体から剥ぎ取った服を身に着けている。

 ボロボロで股間と胴体くらいしか隠してないが間違いなく人が着ていた服だ。

 おかしなところはないはずなのだが……あ、もしかしてボロボロなところがダメなのだろうか。


「残念ながら、この城じゃこれくらいしか入手できなかった。ボロボロだけどこれしかないんじゃどうしようもなくてさ」

「いや、そうじゃなくて」

「ん?」

「どうして鎧を着ているのかって話なんだけど」


 ……鎧?

 見たことはないが、確か兵士が身に纏う頑丈な服だったな。

 でもこの服は全然頑丈じゃないぞ。

 少し叩くと壊れる。


 ……しかしだとしたらルイシアは不審がったりしないだろう。


「これは……服じゃないのか?」

「服じゃない。いや、服じゃなくはないんだけど、一般的に言う『服』には当てはまらない。それは鎧だ。長い時間に耐えきれず外見どころか機能すら失っているけど、それは鎧だよ」


 服じゃなかったらしい。


「そうなんだ。じゃあ脱ごうっと」


 服じゃないのなら、着ている必要はない。

 動きに邪魔になるだけだ。

 なのでその場で脱ぎ始めると、突然ルイシアが騒ぎ出した。


「ちょっ、ばっ、何やってんの!?」

「え?」

「え?じゃない!何いきなり脱いでるの!?早く着なおして!」


 片手で目を隠し、もう片方の手のひらをこちらに向けるルイシア。

 どうしたのかわからないまま、俺はその指示に従い下ろしかけていた鎧を着直す。


「ふぅ……いい?リック。人はね、異性の前でそう簡単に肌を晒しちゃいけないものなんだ。女性に肌、特に下半身を見せてはいけないし、女性の肌を見ようとしてもいけない。そういうのはお互い同意あってのことじゃないといけないんだよ。わかった?」


 真面目な顔でそう咎められる。

 ルイシアは物知りだからきっとそうなのだろうけど、今回には不審な点が一つあった。


「……話はわかったけど、今その話をするのはおかしくないか?女性なんてここにいないだろ。ここには俺とお前二人だけだぞ?」

「は?」

「えっと、要は異性の前で脱いじゃダメってことだろ?」

「そうだけど」

「だったら俺が今ここで脱ぐ分には問題ないじゃないか」

「…………」


 あれ?すっげぇ睨まれてる。

 信じられないものでも見たかのような目で見てくる。

 俺、なんか変なことでも言ったのだろうか……。

 理由はわからないが、怒らせてしまったようだ。

 こ、怖い……。


「あ、あの……」

「私、女だけど」


 様子を窺おうとしたら、彼の口からポツリとそんな言葉が零れた。

 ……女?…………女!?


「えっ、マジ!?」


 女が何なのかは本で読んだので知っている。

 すべての生物は男と女二つで分けられていて、それぞれ特徴が異なるという。

 繁殖にも男女が必須だとかなんとか。

 それを読んだ時、俺は自分のことをなんとなく男だと認識した。


 だがそれだけ。

 実際に女を見たことなどなく、男との詳しい違いなどわからない。

 だからルイシアのことも男だと思っていた。

 そうか、ルイシアは女だったのか。

 彼じゃなく彼女だったのか。

 女ってかわいい性別なんだなぁ。


「その様子だと性別改念はあるみたいね。つまり私は女っぽくないと」

「えっ、あの、ルイシアさん?」

「私が女に見えなかったってことでしょ?ずっと男だと思っていたってことでしょ?」


 ヤバい!彼……じゃなかった、彼女の背後に漆黒のオーラが見える。

 一瞬、異常現象なのかと思った!

 おこだ、マジおこだ……!

 小柄なルイシアが大きく見える!


「ま、待てルイシア!話だ、まずは話を聞いてくれ!」

「ほお?言ってごらん」

「お、俺は女というものを今まで見たことがない!だからルイシアのことを男だと勝手に思っていただけで、決して女に見えなかったわけじゃない!そもそも女ってどういう見た目なのかすらわからないんだから女だと思う余地すらないんだ!」


 精一杯の弁明を述べる。

 無知な俺には彼女がなぜ怒ったのかわからない。

 しかし怒ったということは俺が何か怒らせるようなことをしてしまったのだろう。

 ならば謝罪して学ぶべきだ!


「知っての通り、俺は無知だ。だから今もなぜルイシアが怒ったのかわからない。だからその、教えてくれないか?君をもっと知りたい!」

「っ、知りたいって……。ふぅ、そう。わかった、許す。いや、そもそもリックに非はないんだから許すのはおかしいかな。私が勝手に不機嫌になっただけ」


 背中のオーラが消えた。

 どうやらわかってくれたようだ、よかったぁ。

 俺は安堵のため息をこぼす。


 その後、休憩がてら性別の見分け方を軽く教えてもらうことになった。


「リックは自分の見た目をどう思う?」

「えっと、どうも思わないけど」


 鏡を見ながら素直な感想を言う。


「じゃあ、私の顔と比べたら?」

「……より硬い印象があるな」


 ルイシアの顔と交合に比べてみると、彼女の顔はどこか柔らかく、俺の顔はより硬いように見える。


「じゃあ、私の顔は?」

「……ルイシアはかわいいと思う」

「かわっ……!?」

「?、どうした?」


 なぜか俺の返事にルイシアが驚愕した。

 顔も赤くなってる。

 素直に感想を言っただけなんだが……今度はどうしたんだろ。


「こ、コホン。か、かわいいはともかく、柔らかい印象じゃない?」

「そうだな。目も大きいし肌も――」

「ストップ。それ以上は言わなくてよろしい」

「あ、はい」


 なぜか遮られた。


「これで大体わかったでしょ?今リックが言ったその印象の違いが見分け方だよ。他にも男女間で違いはあるけど、見分けるにはこれぐらいでいいと思う。今はね」

「なるほど……なんとなくわかってきたよ。今度からは間違わないと思う。教えてくれてありがとう、ルイシア」

「どういたしまして。さ、十分休んだし作業に戻ろう」

「ああ」


 そして俺たちは再び部屋の片付けに戻った。


 こんな感じで、俺とルイシアは共に過ごしている。

 今まで人と接したことがないせいで間違えることがただあるが、その度にルイシアが正してくれる。

 本当にありがたい。

 それに、ルイシアはその存在だけでとてもいい点がある。

 まず見た目がかわいい。

 見ていればそれだけで胸が暖かくなって癒されてしまう。

 そして声だ。

 人の声というものは素晴らしいもので、聞いているとそれだけで胸が躍ってしまう。

 もう俺の宝物全部あげてもいいくらいだ。


 なんというか、毎日が楽しくなった。

 ルイシアを受け入れてよかったと思う。

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