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よく分かんない作品集

霊柩車を見たら親指を隠そう

作者: 七宝

 実はこの前クラスの子が、その⋯⋯自殺しちゃって。担任の先生とクラスメイト数人で葬儀に出たんですけど、その時に信じられないことが起こったんです。


 前日のお通夜はクラスメイト全員と、教師数人で参列して、次の日の葬儀には僕達数人で行きました。


 担任の先生の車が8人乗りだったので、その子の葬儀に行きたい人を7人まで募集したんですけど、7人集まらなくて⋯⋯


 行ってあげた方がいいかなって思って、僕も手を挙げました。結局何人だったかな、5人くらいで行ったのかな、あんまり覚えてないです。すみません。


 斎場に着いて、車から降りるってなったところで1人が「やっぱり行きたくない」って言い出したんですけど、先生が「いやそれ困るし。なんやそれお前。困るし」って説得してみんなで中に入りました。


 けっこう後ろの方の席に座って始まるのを待ってたんですけど、その時にふと頭にあの子の笑顔が浮かびました。


 彼は亡くなる前日まで学校に来ていました。


 3限までは真面目に授業を受けていたのですが、4限の終わり際に突然立ち上がって、静かに笑い始めました。


 先生が「どうした」と声をかけてもなにも答えず、徐々に笑い声は大きくなっていきました。


 彼の顔を見てみると、今までに見たことのない満面の笑みを浮かべていました。


 しばらく経っても全く治まらなかったので、先生にどこかへ連れて行かれてしまいました。その間もずっと、廊下には彼の狂ったような笑い声が響いていました。


 彼が入った棺はお通夜でも葬儀でも、蓋が閉まったままでした。誰も顔が見られないようになっているんです。


(あの笑顔のまま入っているからなんじゃないか)


 そう思えてなりませんでした。


 葬儀が始まると、突然隣に座っていた3人が立ち上がり、前の方へ歩き出しました。


「は?」と思いながら見ていると、3人は棺桶の小窓のあたりで立ち止まって、何かをブツブツ呟き始めました。


 お坊さんが「ん? どした? ん? どした? ん?」と聞いていますが無反応の3人。


 次の瞬間、何を思ったのか1人が棺の小窓を開け、ポケットからスマホを取り出しました。


 シャッター音が何度か聞こえると、会場は騒然となりました。3人とも、笑っているようでした。


 先生は最初は何が起こったのか分からないような顔をしていましたが、我に返ったのか突然鬼のような形相になり、立ち上がりました。


 お坊さんが「え? なにこれドッキリ? えっ? なに? 水ダウ?」と取り乱している横で、3人が同時に口を開きました。


「しーね! しーね! しーね! しーね!」


 手を叩きながら、棺桶に向かって楽しそうに叫んでいます。


「しーね! しーね! しーね! しーね!」


 何度目かのコールの後、「ピシャンヌ」と大きな音がしました。先生が彼らを叩いたんです。


「なにやってんだお前ら!」


 激おこでした。


 3人とも「ハッ」という顔をしたあと、その場に泣き崩れました。体と口が勝手に動いたのだと言います。

 お坊さんはまだパニックで、木魚をナデナデしています。


 先生は3人を連れて退場しました。


 その後葬儀は滞りなく進んで、出棺の時間になりました。最後の最後まで、彼の顔を見ることはありませんでした。


 火葬場へは親族だけで行くとの事だったので、僕は霊柩車にこっそり中指を立てながら見送りました。


 癖なんで、ついやっちゃうんです。


 その後帰ろうと思って駐車場に行くと、先生の車はもうありませんでした。ざけんなよクソが。歩いて帰ったよ。

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