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白の監獄  作者: 山本来海
3/5

3 結衣の出産


「ふっ、んー・・はぁはぁはぁ…」


結衣の陣痛はだんだんと強く、そして間隔も短くなっていっている。時折り、息混じりの声を上げるようになってきた。


だいぶ限界に近い。そんな表情をいているように見えた。

ずっと握りしめられている手が鬱血しそうだ。

しかし、それだけ苦しんでいるのが伝わってくる。


七海という子は、とても冷静で、周りの子たちに指示を出し、結衣の介助をしている。

この中で一番優秀なのが見てとれた。

逆に、さっき悠人を呼びにきた子は、まだ慣れていないようで、七海たちの周りを落ち着きのない様子でうろうろしている。


七海は、横向きなっている結衣の姿勢を仰向けにし、足を大きく開いた状態に変えていた。

そして、七海はその足の間に入り、何かを確認しているようであった。


「咲、また悠人呼んできてくれる?そろそろ子宮口全開になるから。」

「わ、わかった!」


七海は、結衣の足の間から顔を上げると、さっき悠人を呼びにきた子に声をかけていた。



しばらくして、咲は悠人を連れてやってきた。


「七海、どうだ?」

「今、発露ってところ。」


悠人は、七海の横につき、結衣の足の間を覗き込む。

2人は、何かを確認しているようだ。


さっきよりも、結衣が私の手を握る力が強くなる。

それとともに、叫び声を上げ始める。


今までで、一番大きな波の陣痛がきているようだ。

あまりの痛みにパニックになりかけている。顔を左右にふり、握る手を引っ張り踏ん張り始める。


「結衣!結衣!こっちを見ろ!」


悠人は、結衣の叫び声に負けないくらいの大声で、呼びかける。

結衣はなんとか悠人の方を見る。


「結衣、しっかり呼吸するんだ。むやみやたらに、叫んだらよりしんどくなる。」


結衣は、かろうじて頷く。


「そうだ。しっかり吸ってー、吐いてー。そうそう、上手だ。ゆっくり深呼吸して、一回落ち着こう。」


悠人の声を頼りに、結衣はなんとか呼吸を整えようとする。

まるで、魔法のように、結衣の呼吸を落ち着かせる。


しかし、それも束の間。

また握る力が強くなる。


もうほとんど陣痛の間隔がなくなっていた。


「咲。あー、結衣の手を握るのを代わってあげて。」

「は、はい!」


悠人に言われると、咲は私の方に近づいて、結衣の力が緩んだタイミングで、自分の手に持ち替えていた。

私はそのまま咲の少し後ろにずれる。


「ねぇ、こっちきて。」


悠人が私の方を見ながら声をかけている。


「わ、私?」

「そう。君。」


名前がわからない私をどう呼ぶか決めあぐねているようであった。

ゆえに、少し曖昧な呼びかけになってしまう。

ともかく、呼ばれたので、悠人のそばに行く。


そばに行くと、悠人は私の体を結衣の足の間が見える位置に引き寄せる。


「ここをよく見て。今、発露って言って、赤ちゃんの頭が見えるのがわかるだろ。でも、まだ完全には見えてない。すぐに引っ込んでしまう。これが引っ込まなくなったら、排臨っていうんだ。」


私は、悠人の説明を聞きながら、そっと結衣の足の間を覗き込む、結衣のそこから黒い毛が少し生えた塊のようなものが、出たり入ったりしているのが、見える。


「結衣、次の陣痛ではお腹の方を見て、長く息むんだ。」


悠人は、説明しながら、結衣にも声を掛ける。

よくわからないが、順調?に進んでいるのだろうか。



しばらくすると、その塊は、引っ込まなくなった。

結衣の表情はさらに歪んでいる。

思わず、叫びそうになるのを必死に耐え、悠人の声を頼りに呼吸を整えている。


「あーーーーーーーーーっ。」


先ほどまで、なんとか耐えていた声がまた漏れ始める。

しかし、今回は違った。

結衣の声と同時に、その塊が、外に出てき始める。


「結衣!頭が出てきたよ。しっかり呼吸して。ふっふっふーって吐くようにするんだ。」


悠人はこまめに声を掛ける。

私は、悠人に引き寄せられた足の間から動くことができず、赤ちゃんが出てくるところを眺めていた。


「七海と一緒に赤ちゃんを取り上げるんだ。」


えっ・・・。

赤ちゃんを取り上げるなんてやたことがないし、できない。


「ここを持ってくれる?」


七海は私に声をかけつつ、私の手を取り、誘導してくる。


「こ、こう?」

「うん。しっかり持っててね。」


赤ちゃんは肩が抜けると一気に出てきた。


「うわぁ。」


思わず声がでる。

私は、落とさないようにしっかりと持つ。

七海も隣で支えてくれている。


・・・・・・。


”オ、オギャー”


少しの合間が空き、産声が部屋中に響く。

安堵の声が周りから聞こえる。


「お疲れ様。よくがんばったね。結衣。」


結衣は、先ほどまでの歪んだ表情はもうどこにもなく、産んだ子供を見る目つきは母親そのものになっていた。



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