1 白い部屋
気がつくと、そこは何もない真っ白な世界だった。
ベッドの上に寝かせられている。
周りを見てみるが、特に他に家具などもない。
ただ、ベッドが一つ置かれているだけの小さな部屋のようだ。
なぜこんなところにいるのか。
これは夢の中なのだろうか。
軽く手を動かし、近くの太もも付近をつねってみるが、ちゃんと痛い。
やはり、現実のようだ。
何かを思い出そうと、考えてみるが、何も思い出せない。
とりあえず、少し動いてみよう。
外に出れば、ここがどこなのかがわかるかもしれない。
そう思い、ゆっくりと起き上がってみる。
正面の壁にはガラス窓があり、外から、中が見えるような構造になっているようだ。その横には、扉があった。
"ブーーー"
突然大きな音が鳴り響く。
私は、思わず布団の中に潜り込む。
どうやら、何かのセンサーが反応したようだ。
遠くの方から足音が聞こえ、こちらに近づいてくるのがわかった。
「301番が目を覚ましたみたいです。」
・・・・・・。
恐る恐る、声がする方に目を向ける。
そこには、背が高くガタイの良い男とその上司と思われる少し小柄な男がガラス窓の外からこちらを見ていた。
「301番、聞こえるか。」
小柄な方の男がこちらを見ながら話しかけてくる。
どうやら、私は301番と呼ばれているようだ。
・・・・・・。
私は声を出して返事をしようとした。
…が、肝心の声が出なかった。
長い間ここで寝ていたのか、うまく声を出せない。
仕方がないので、首を縦に振って答える。
「水を飲ませてやれ。」
小柄な男は、上手く声が出せない私の様子を見て、そう指示していた。
そういえば、喉がとても渇いている。
すぐにガタイの良い男が、水を持って、ガラス窓の隣の扉から部屋に入ってきた。
「ゆっくり飲め。」
そういうと、水の入ったペットボトルの蓋を開けて、私に差し出してきた。
私はゆっくり起き上がり、差し出されたペットボトルを受け取った。
水を口に含むと、さっき自覚した乾きが潤っていくのが感じられた。喉を通っていく、水がとても気持ち良かった。
一口、また一口と、私は水に縋るように飲む。
「その辺にしておけ。」
まだ外にいる小柄な男がそう声をかけると、ガタイのいい男が、私の手からペットボトルを奪った。
もっと飲みたい。
…が、仕方ない。何も覚えていない。何もわからない私には、ただ目の前にいる男たちの言いなりになる他ないようだった。
しかし、だからといって言いなりになる理由はない。
「……あ、あの…。」
水を飲んだことで、少し声を出せるようになったようだ。
「な、んで、わたし、ここに…」
まだ、かすれて声にならないような声で、男に尋ねる。
ガタイのいい男は一瞬、小柄な男の方をみるが、特に何も言わない。
仕事を遂行しろということだろう。
ガタイのいい男は、私の言葉には、何も言わずに布団をたたみ、扉を開ける。
「ついてこい。」
質問に対する答えは得られなかったが、きっとガタイのいい男は知らないのだろう。他にも色々聞きたいことはあるが、きっと聞いても答えてはもらえない。
私はとりあえず今の状況を受け入れるしかないと、渋々、ベッドから立ち上がる。
さて、どこに行くのだろうか。
ついてこい。と言われたら以上、私には、ついていく以外の選択肢はない。
ここがどこだかわからないが、とりあえず指示に従う他なさそうだ。