第3話 ちょっとそこまで
「冗談にしては、笑えないな。話を俺たちにする理由がわからない」
「ま、そうじゃの。無駄に年を取ってる男のカンよ。先ほどのやり取りや、身のこなしからしてかなりのものだと見込んでな」
「爺さん、見る目あるねえ、若はっと……」
ボルクスがいつもの調子でしゃべりかけたところで、止まる。
俺の視線が向いたからでもあるが、ぎりぎり自分で気が付けたというところか。
「ふむ? まあ良い。で、どうじゃ」
「どうって言われてもな。爺さん、なんであんたがそんなことを知ってる?」
これは紛れもなく本心だ。
未探索の遺跡、それは宝箱だ。
良くも悪くも、何が出てくるかわからない。
帝国広しといえど、遺跡関連ほど欲望を飲み込んだ土地は多くない。
ロマンあふれる、といえば夢があるが……。
それは、点在する遺跡とその探索でにぎわったという意味である。
「冒険できる時間がないままこの年になってのう……最近確かめたら、まだ未探索なのが分かったんじゃよ」
爺さんが見た目通りなら、10年20年といった年月、未探索ということになる。
詐欺か?と思っても無理はない、無いのだが。
そばにいる孫娘が気になる。
(こんな娘の前で、馬鹿なことをするだろうか?)
近くで見ると、よりその整った顔がわかる。
着飾れば、どこぞの貴族令嬢でも通じそうなほどだ。
つまり、下手を打てばこの娘がそういう目にあうことをわかっているはずなのだ。
「……長くは探索できない。それでよければ付き合おう」
「若!? いいんですかい?」
わからないというのが本音だが、外れはないと思う。
爺さんの言葉を使うようで悔しいが、カンだ。
「よし、出たものは7でいい」
「そいつは持って行きすぎじゃないか?」
「ん? いや、そちらが7でいいということじゃよ。なんなら8でもいい」
さすがに10では、気持ち悪いじゃろ?なんて笑う爺さん。
隣の孫娘も、胡散臭そうに見ているほどだ。
「なるほどな。あんた、とにかく冒険が好きなんだな」
なんとなく、爺さんの生き様というか、考えがわかってきた。
発散して楽しみたいのだ。
だから、探索するということが主な報酬になると。
一度きりの美味い食事に高い金を払っても、惜しくないと感じるタイプだ。
「ほっほ。わかってもらえて何よりじゃ。では明日、七つ時にここで」
その後は普通に食事をし、別れる。
自己紹介は……明日でいいか。
そんなことを思いながら、問題なく朝になり……。
「まさか……お嬢ちゃんも行くのか?」
「ええ、お兄様。何か問題でもありましたか?」
問題ありまくりである。
てっきり、宿あたりで留守番すると思っていた孫娘も、今日はローブを脱いで武装している。
急所を守る皮防具に、先端に水晶球のついた杖。
見るからに魔法使いだ。
それはいい、のだが……。
「若、親戚の方で?」
「いや、俺にはこんな若い親戚がいた覚えはないぞ」
「なあに、このぐらいだと年上は兄や姉と呼ぶもんじゃよ」
戸惑う俺とボルクスを見て、爺さんは笑う。
そういうものか?と孫娘を見ると、にこりと笑顔を返された。
「あー、コホン。俺はヴィル。こっちはボルクス」
「ワシはアルフ。そして孫の……」
「フェリシアです。どうぞよろしく」
ぺこりとお辞儀をする姿に、妙な既視感。
爺さんにも感じたが、なんだろうな。
その後は簡単に戦い方を確認しつつ、その遺跡へと向かう。
馬車も預けたままで何があるかわからないので、一緒にだ。
(本当は、事故があってはいけないからこういうのは良くないのだがな……)
直々に、稼ぎながら向かえと言われてる以上、稼ぐに越したことはない。
それに、ほかの参列者も何かしらしながら移動してるはずだ。
道中、このようなことをして忠誠を示しましたよ、みたいなもんだ。
なんなら、武勇伝を添えて納めるのが希望と知らせに書いてあったぐらいだ。
なんというか……豪快というか、うむ。
「それで、遺跡はどこにあるんだ?」
「あの岩山じゃよ」
アルフ爺さんが指さすのは、街から半日もかからないだろう岩山だった。
やはり、騙されているのでは?と思ってしまった。
なにせ、こんな場所で長い間未探索の遺跡があるはずがないからだ。
「おいおい爺さん。冗談はやめてくれよ。みんな節穴だったっていうのか?」
「ほっほっほ。行けばわかる」
今問い詰めても、答えは出なさそうだ。
心配そうなボルクスに頷き、仕方なくアルフ爺さんの先導に従い進む。
そうして、獣や魔物に出会うことなく件の岩山に。
やはり、草木以外何もないし、洞窟だってない。
「なあ、アルフの爺さんよ」
「まあ、見ておれ。フェリシア、ここじゃ」
「はい、お爺様」
爺さんが指さしたのは、何の変哲もない大きな岩。
その前にフェリシアが立ったかと思うと、何事かをつぶやき始め……。
「これは……結界魔法!? 隠ぺいも混じっている」
「おお? それがわかるか。剣だけでなく、魔法も鍛えているのじゃな。ますます気に入った」
どういうことかを聞く前に、重厚な音が響く。
驚くことに、岩が徐々に移動し始め……階段が現れたのだ。
「……なるほど、未探索なわけだ」
「そういうことじゃの」
未知の場所、未探索の遺跡。
俺は、自分がにやりと笑みを浮かべるのを感じていた。