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1-18 魔法練習②

 シリルアは的から一番離れた囲い側に立ち、こちらをじっと観察している。

 本当に観察と研究目的だと分かるくらい潔い視線で、居心地は少し悪いけれど、好意的なことはよく分かる。

 その後、二人に見守られながら「ファイヤーボール」を繰り返したものの、わずかにサイズが大きくなるだけで進展があるようには思えなかった。

 大した時間も経っていないのに、腹から盛大に空腹を訴える音が鳴った。まだ夕飯の時間には早いし、いつもより空腹になるのが早い。

「休憩にしましょう」

 フローリアの言葉で、アンはフローリアのもとに近寄った。見守っていた二人からの気遣わし気な視線が居た堪れない。

「さ、最初ですから、気にしないで……」

 言葉にされると尚一層居た堪れなさが増す。

「フローリア様はどうだったんですか……?」

「……私は、気が付いたときには魔法を使えるようになっていたので」

 やはり規格外で参考にならないと思ったが、何も言えなかった。

「二人とも、ちょっと良いか?」

 ずっと囲い近くで黙っていたシリルアが会話に加わってきた。

「俺は魔法適性が無いから感覚的なことは分からないけれど、アン嬢の空腹は魔力の使い過ぎによるものじゃないか?」

「そうです」

 男子学生に腹の音から空腹を指摘されるのは恥ずかしさがあったものの、盛大な腹の音を聞かせてしまった手前、肯定するしかなかった。

「空腹になるということは、体内魔力を使っていたということだよな。魔素を使えていないということじゃないか?」

「シリルア様のおっしゃる通りですわ」

「体内魔力と魔素?」

 聞きなれない単語にアンは聞き返した。

「体内魔力というのは、魔力を持つ人間の体内にある魔力のことを言う。魔力量測定の魔力はこの体内魔力の量を測定している。一方、魔素というのは、自然に素材する魔力のことを言う。水が空気中や海、川に存在するようなものだ。魔素は目にも見えず、感知することも出来ないが、俺たちの周りに常に存在する」

 水のようなものと言われて、想像しやすく理解できた。

「魔法適性者は、この魔素を体外から取り込み、魔法という形で放出する能力を持つ者のことだ。魔法適性があることが分かった時点で魔法を使えるように訓練をするものだが、フローリア嬢のように、十歳未満で魔法適性が分かり、自然と使えるようになっている者も存在する」

「褒めても何も出ませんでしてよ」

 フローリア嬢が照れたように言うが、シリルアは横目で見ただけで返事をしなかった。

「魔法適性者の数が少ないから、訓練はそれぞれに合わせた内容になるらしい。大体が魔素を体内に取り込むことと、取り込んだ魔素を魔法として発動させることが中心だと聞く。これらが出来るようになると、魔法付与の訓練をすることもあるが、まずは魔素の吸収と放出だ」

 魔法について詳しいことを初めて聞いたアンは、うんうんと相槌を打ちながらシリルアの説明を聞いている。フローリアからはここまで詳しい話を聞けていなかった。

「そこで、アン嬢の現状を踏まえると、魔素の吸収が出来ていないのだろう。空腹は体内魔力を消費したときに見られる現象の一つだ。魔法の発動は出来ているが、不安定で出力も弱い。発動の練習も必要だが、それよりも魔素を吸収出来るようになることが先だな」

「なるほど……!」

「ということだよな、フローリア嬢」

 シリルアがフローリアに振ると、フローリアは「そういうことです!」と頷いている。アンが初めて知ったという反応をしているのを見て、シリルは苦笑いをしている。

「フローリア嬢は物心ついた頃には魔法を使えていたそうだし、元から大出力で放つことが出来る天才型だから、魔素の吸収については当てにならないな……」

「え、そうなんですか!?」

「……そうですわね」

 フローリアが肯定したので、そんな!?とアンは目を見開いた。

「それに、感覚でやっていそうだから、教えるのは難しそうじゃないか……? 俺は魔法適性が無いから、理論は教えられても実践は難しい。訓練の指導者がいれば一番良いが、すぐに呼べるかは分からないしな……」

「魔法適性者が少ない上に、指導者になれるような人材で手隙の方はいらっしゃらないでしょうね……」

「魔力量もそこそこあるにしては空腹になるのが早いから、魔力効率も悪そうだな」

「確かに、魔力効率も悪いですわね」

「変な癖がついているかもしれないから、きちんと訓練してもらった方が良さそうだな」

 フローリアとシリルアがうーんと悩む。

「そうなると、あの方しかおりませんわね」

「まぁ、そろそろ始まるし、そのときに相談するか。専門じゃないとは言われそうだが、この学園では一番詳しいだろうし」

「アンには出席するように言っておりますので、わたくしも同席しますわ」

 フローリアとシリルアが納得したように二人で話を進めているので、アンは自分のことなのに完全に蚊帳の外になってしまった。

「あの方って、どなたですか?」

 自分のことなので、話がどこに進んでいるのか理解するために二人に質問をした。

 二人は顔を見合わせると、その人物を想像して、二人して仕方ないというように諦めの息を吐いた。

「魔術科のイグニアス先生ですわ」

「イグニアス先生の専門は魔術だが、魔術科の授業では魔法についても扱っていて、その担当もしているんだ。それに、毎年放課後に魔術科以外に向けた魔術の授業を行っている。これに出席すれば、魔術科でなくても魔術の基本は分かるようになるし、応用まで教えて貰うことも出来る。教え方は詳しいんだが、ただな……」

 シリルアが苦い顔で言い澱むので、アンはごくりと唾を飲み込む。

「頼りないというか、抜けているというか……」

「だらしないと言いますか……、それでも伯爵家出身ですから、身なりを整えて夜会に出席されたときは、きちんとされた印象になるのですが……」

「学園内だからなのか、気を抜いた風貌をしているんだよな……」

「悪い方ではないし、教師としての職務は果たされていますが、ざっくばらんと言いますか……」

「学園では周りを気にせず研究して過ごしているみたいだから、かなり自由人なんだよな」

 二人が交互にイグニアスについて教えてくれたが、言いたい放題されているな、とアンは思った。

「でも、間違いなく魔術については詳しいし、魔法についても学園内では一番詳しいだろう」

「相談することも出来るとは思いますが、どれくらい相談に乗っていただけるかは分かりませんが、もしかしたら興味を持ってくれるかもしれませんし……!」

 物は試しですわ!とフローリアがアンを励ますように言うので、アンは苦笑いを浮かべながら首肯した。

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(Twitter開設の活動報告に、描きましたフローリアのイラストを掲載しておりますので、イメージの参考にご覧ください)

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