表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/19

1-13 バッサリショック事件

あけましておめでとうございます!

お久しぶりになってしまい、すみません……。のんびりペースですが、更新を再開していきたいと思います。

今回は少し短めです。

 アンは昨日と同じように事務棟の柱の前に立っていた。フローリアに言われたように、朝早くからではなく、学生達が登校してくる時間帯から待っている。

 通り過ぎていく学生達が、アンの姿を見て好奇の視線を送ってくるので、居心地が悪かった。向けられる視線と、今まで頭部にあった重さが無くなったことの二重で落ち着かない。それでも、アンはフローリアが登校してくるのをじっと待っていた。

 しばらくすると、昨日と同じように、人だかりの中にぽっかりと空いた空間が近付いてきて、その中心にフローリアがいた。アンはフローリアを見付けた瞬間に駆け寄った。

「フローリア様、おはようございます」

 フローリアに頭を下げて挨拶をしたが、返事がないことを訝しみながら顔を上げると、フローリアはアンの頭部を凝視して固まっていた。流石に公爵令嬢であるので、口をあんぐりと開けるようなことはしていないが、水色の瞳が溢れんばかりに見開き、口元は笑みを作ろうとしていたのか中途半端な形になっている。

「どうされましたか?」

 フローリアが固まったままなので、昨日出来なかった荷物持ちをしようと、アンはそっとフローリアの手から学園鞄を抜き取ろうとしたところでフローリアが我に帰った。

「鞄は自分で持ちます。……アン、あなた、髪は」

 フローリアが信じられないというように、わなわな震えながらアンの頭をじっと見ている。

「髪ですか? 切りました」

「切った!?」

「今まで気にしてませんでしたが、髪って結構重いんですね」

「えぇ、髪は重いし、魔法適性のある者の髪は貴重な魔法素材になるわ……。ということではなくて!? なぜ切ったの!?」

「訓練の邪魔になりますし、日に何度か入浴するとその度に乾かすのも手間なので……」

 髪が長いとケアが面倒くさいし、ケア用品をいつまでも貰い続けるのは心苦しいけれど購入し続ける金銭的余裕は無い、ということを告げるのは、昨日のフローリアの行為を無碍にするみたいで辞めておいた。

「それでも、そうだとしても、そこまでバッサリ切らなくても良かったのでは!?」

 フローリアが叫ぶように嘆いたので、アンは流石に切りすぎたかと、自分のうなじを撫でた。

 アンの腰まであった赤髪は、今やそのほとんどが切り落とされ、うなじが見えるくらい短く、頭の丸みがわかるくらいのいわゆるベリーショートになっている。前髪は手を加えなかったので、目元が少し隠れるくらいの丈のままだ。

「しかも、あなた、自分で切りましたね!?」

「よくお分かりになりましたね……! 孤児院でも年少の子達の散髪は私がしていたので、得意なんですよ!」

「おおよそ綺麗には切れていますが、他人の髪を切るのと自分の髪を切るのとは異なりますわ……。今日の放課後は、わたくしの家に参りますわよ」

「え……」

「放課後、わたくしの教室まで来ましょうね」

 まだマナーの授業も習っていないのに、公爵家に行かなければいけないんですか!?と抗議したかったが、有無を言わさないフローリアのお手本のような令嬢スマイルに、アンは「はい」と返事をするしかなかった。


 その日の授業が終了し、フローリアの教室に向かいながら、アンは今日あった出来事を振り返っていた。

 教室に入った途端、ラルフが近寄ってきて、バッサリと切られたアンの髪に驚いていたが、短いのもまた格好いいと褒めてくれた。遠くからステファンが「男じゃねぇか」と言っているのが聞こえたが、ユウリがステファンをじろりと見たので悪態吐いて視線を逸らしていた。

 背丈もクラスメイトの男子たちよりも高く、髪型も同じくらい短いので、ステファンが言うように男に見えてしまうかもしれないことに、その時気が付いた。しかし、それでも構わないと思ったし、何なら髪が長いときにもステファン達から性別を間違えられていたので、全く気にならなかった。隣の席のエリアスも「そちらも似合っているよ」と褒めてくれた。

 そういえば、とアンは廊下を歩きながら、朝のことを思い出す。

 フローリア様は、髪を切ったことをどう思っているのだろう……。

 アンが髪を切ったことにショックを受けているようだったが、感想は何も聞いていなかった。

 やはり、切らない方が良かったのかなと悔いるような気持ちが一瞬生まれたが、あのまま長い髪の世話をして生活し続けることは難しかったので、これで良かったのだと結論付けた。

 貴族科の教室棟に入ると、擦れ違う学生たちから多くの視線を向けられた。朝の時点で噂が回っていたのか、驚愕というよりは噂通りだったのねという反応が多かった。その中には、いくつかの好意的な熱い視線と、真逆の冷めた視線が混ざっていた。熱視線には戸惑いしかないが、冷たい視線はステファンと似たような雰囲気を感じ取り、そのように思われるのも仕方ないとも思った。しかし、アンは平民な上に騎士科の学生で、女性騎士には短髪も多いとライノルドが言っていたので、貴族の考え方や好まれる髪型は当てはまらない。

 それでも、内心で小さく溜め息を吐いて気持ちを切り替えると、フローリアの教室を覗いた。

 昨日と同じ席にフローリアは座り、令嬢たちとこれまた同じように談笑していた。話の切れ目で声を掛けようと、その場から見ていようと思ったのに、フローリアはすぐにアンに気が付いて手招きをした。

「フローリア様、お待たせいたしました」

 フローリアの近くに寄り、令嬢たちにも会釈をした。

 令嬢たちはアンを一目見て「まぁ」と丸く目を見開くと、

「髪を切られたのは本当だったのね」

「凛々しさが増しましたわね」

「短いのも長いのも似合われるのね」

アンを取り囲んで口々に言う。

 背丈はアンより頭一つ以上小さいが、令嬢たちのキラキラした瞳にたじろいで反応に困ってしまった。

「みなさま、アンが固まっておりますわ」

 フローリアの言葉に、令嬢たちは「ごめんなさいね」と離れてくれた。

「それでは、アン、参りましょうか」

 フローリアは有無を言わさぬ笑顔でアンに告げると、周りの令嬢たちに挨拶して歩き出してしまった。アンも令嬢たちに会釈をして、フローリアの後を追った。

明日も更新があります……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ