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新規連載の百合小説です!
同時連載なので不定期更新ですが、まず2話目まで予約投稿しております。
よろしくお願いします!
息も絶え絶えだが、必死に走る。
周りの家や商店の多くが燃え上がり、夜なのに異様に空が明るかった。逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえてくる。
両手に幼い弟たちの手を握っているため、早くは走れない。村の人たちが逃げる方向を追いかけていたが、次第に置いていかれる。みんな自分の命を守ることに必死で、子供だけの私たちを気にかけていられる人はいなかった。みんなが逃げた方向が分からなくなり、どこに向かえば逃げられるのか分からなくなる。
「あっ!」
「レイ!」
手を引いていた末の弟がつまずいた。走っていた足を止めて、弟に駆け寄り助け起こす。
「まだ走れそう?」
弟の膝が擦り剥けて血が流れている。私がもっと大きければ、弟を抱えて走ることが出来るのに……。泣き出しそうな弟の頭を撫でて、なんとか走るように言おうとしたら、明るかった視界に影が差した。
「ね、姉ちゃん……」
横にいた上の弟が怯えたように声を発する。私も影の方を見上げたら、鎧を着た男が剣を片手に持ち、気持ち悪い笑みを浮かべて立っていた。
「まだ子供が残っていたのかぁ……」
その笑い方に、自国の兵士ではないことに気付く。男は気持ち悪い笑みを浮かべたまま、手の剣を徐々に頭上に持ち上げている。
──殺される。
もうここまでなのだろう。
咄嗟に弟二人を腕の中に抱えて庇う。ぎゅっと目を閉じて、その時が来る瞬間を覚悟した。その刹那、瞼を閉じた視界が白くなるほどの光が起こった。光は一瞬で消えて、覚悟した痛みがいつまでも訪れなくて、そっと瞼を開ける。周りはまだ炎で明るかったが、男の影は無くなっていた。
「え?」
男の立っていた方を見ると、焦げ臭いにおいを放ちながら仰向けに倒れていた。声も聞こえないから、死んでいるのだろう。
「間に合ったかな」
聞いたことのない声が聞こえて、そちらを見れば、私よりも背の低い子供が立っていた。肩くらいの短い金髪、脛くらいの丈のローブを羽織っている。後ろには鎧を着た人たちがたくさん立っている。奥の方に、自国の紋様が入った旗が見える。
「その子たちのことは頼んだよ」
金髪の子が言うと、後ろに控えていた男の何人かが私たちを抱えてくれた。
「それじゃあ、行きますか」
金髪の子は不敵に笑うと、軽やかに歩み出した。
「あ……」
私がその子にお礼を言おうとしたが、抱えた男たちが走り出してしまった。
その後、私たちは村の人たちが避難していた駐屯所に連れていかれた。そこには、隣の家の奥さんも居て、私たちを見つけると、駆け寄ってきてくれた。無事で良かったと抱き締めれらた。
「アン、お父さんとお母さんは……?」
奥さんが心配そうに言うのに、私は首を振って答えた。二人の弟は父母が亡くなったことを理解できていない。分かる言葉を言うと、気付いてしまう気がして声には出せなかった。奥さんは私と弟たちの様子から察したのか、「そう……」と言うと目を伏せた。弟たちには今ここでは話せない。他にも親を亡くした子供がいて、父と母を呼びながら泣いている子が何人もいた。それ以外の大人たちもみんな憔悴して、座り込んでいる人たちが多い。迷惑をかけるわけにはいかない……。
やがて、兵士が用意した幌馬車に村の人たちは乗せられて、私たちは生まれた村を後にした。