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16 悪夢
星のない夜を歩いていた。
暗闇が支配する世界は、ごく普通の顔で僕の隣にあった。
後ろから吹いてきた風が、頬を撫でていく。
生温かくて、生臭い、得体の知れない生き物の息のような。
あまりにも無遠慮な、気味の悪い空気が満ちていた。
目の前まで近付いたところで、はじめてそれが見えた。
闇色に浮かぶ、君を見つけた。
手を伸ばせば届きそうなところに――。
「違う」
僕は即座にそれを否定した。
違う。これは僕の欲しいものじゃない。
君は笑っていたはずだ。
いつだって、僕に笑顔を向けていたじゃないか。
光の中にいる君がもう見れないなんて、受け入れられるわけがない。
怒っていた顔も、泣いていた顔も確かにあったのに。
蒼白の面に、笑顔のない君しか思い出せないのは何故なんだろう。
「ミレニア」
黙っていないで、返事をしてくれ。
「ミレニア……」
もう一度、呼びかけに応えてくれ。
あの温かい声を聴かせてほしい。
その願いが叶うのなら、僕は悪魔にだって魂を売るのに。




