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家族の元へ
※史実とは異なるというか全く違うようになるかもしれません。
ある昼下がりの並木道、一人の老人が歩いていた。
見た感じにはもう、七十代後半くらいに見えるが腰が少しも曲がっておらず、杖も持っていないところから、ひょっとしたらもう少し、若いのかもしれない。
老人の名は『田川 義明』。
今年で七十三になる誰から見ても健康的な立派なじい様だった。
「田川さん。」
突然後ろから、名前を呼ばれ義明は振り返ると義明より、歳を喰っていそうな黒い袈裟を着た坊さんが原付きを押しながら義明に近づいて来ていた。
「これは住職さん、買い物ですか?」
「ええ、お線香をきらしましてね。」
いつもは弟子に頼むのですが、健康の為にたまにはと、住職は好々爺といった感じに笑った。
「ところで今日も御家族の所へ?」
「えっ、ええ。」
「そうですか。皆さんもきっと喜ばれますよ。では、私はこれで」
そう言うと住職は原付きに跨がり颯爽と店へ向かい走り去って行った。
「・・・喜ぶか。」
一言、呟き義明はまた、歩き始めた。
最愛の家族の眠る場所・・・墓へと。