嫁が押せ押せな夫婦の話(男女。孫視点から見た夫婦)
祖母は、祖父のことが大好きだった。
いつも祖父の隣にいたし、歩くときは手を必ずつないで。
「だーいすきですよぉ」
そう言ってはくっついて、
「ええい、くっつくな、ひっつくな!」
よく祖父に怒られていた。
祖父はと言えば、前述のようにくっつけば怒り、手をつなげば歩きづらいと文句を言った。
祖母がアプローチするたびにそうだったから、幼心に、
(おばあちゃんも、ほどほどにすればいいのになぁ)
(おじいちゃんもああも怒鳴らなくてもなぁ)
と思ったものだ。
また若いころの祖母は美少女で(写真を見せてもらった。ちっちゃくて、目が大きくて、笑顔が最近人気のある女優に似ていた。ちなみにその血はまったく僕の遺伝子に影響を与えず、どちらかと言えば強面の祖父の血が色濃く出た。残念である)、
「こんな美少女から言い寄られてたとか、どんなラノベだよ腹立たしい」
と祖父に対して嫉妬にも似た羨望を抱いたりもした。
祖父は贅沢者だ、とやっかみもした。
そうして幾歳か過ぎ。
祖母が亡くなった。
突然の死だった。
嘆き悲しむ周りを置いて、祖父は淡々と葬儀の準備を進めていた。
火葬場で、煙突から上がる煙を見つめる祖父に、
「大丈夫?」
と一応聞いた。
「大丈夫だよ」
祖父は応えた。
だろうな、と思ったけれど。
「もうこれ以上の辛いことはねぇってわかるから、いっそ清々しいよ」
その言葉で、ハッと気が付いた。
祖父は、祖母が大好きだった。
祖母が、大好きだったのだ。
END.