運命の鼓動
これは、とある国で起こった国王殺害未遂事件のお話。――――――――――――
此処はとある国の王都。
王都というだけあり、非常に発展しているようで、
物の出入りが激しく、市場は非常に活気がある。
人々は豪華とまではいかないが、一般の人間よりは裕福なのが見て取れる服を着て、
市場で取引をしている。見たところ、家を持たない浮浪者。
いわゆるホームレスはいないようで、だんだんと暗くなったこともあり、
皆各々の家へ帰宅している。
――――――そんな中、男がいた。――――――
その男はローブのようなボロボロの布切れを身に纏い、
ただうつむいていた。その姿はまるで乞食のようだ。
その男は何時になってもその場を動かず、ただただ立っていた。
直立不動の体制を何時間も続けていた。
そんな男を不気味に思ってか、はじめこそ心配して話しかける者がいたが、
次第に人は離れていった。
そして誰もいなくなったとき、男は動いた。
その布に手をかけ、道端に脱ぎ捨てた。
その時、その男の全身が見えた。
その男は金髪に、青色の瞳をしており、
細身の長身であった。その姿は、
模範的な帝国人の背格好であった。
服装は帝国の軍服を着ており、その軍服はボロボロで、所々が切り裂かれている。
階級章は、薄汚れていてわかりにくいが、おそらく中佐といったところであろう。
(帝国において中佐は上から10番目の地位であり、階級表で見ると以下のとおりである。
―★★★―:元帥
★★★★:大将軍
★★★:大将
★★:中将
★少将
☆☆☆:大尉
☆☆:中尉
☆:少尉
♦♦♦:大佐
♦♦:中佐
♦:少佐
♢♢♢:第一等級兵卒
♢♢:第二等級兵卒
♢:第三等級兵卒
❀:訓練生)
男は見たところ、手に何かを持っているようだ。
それは丸い楕円形をしており、男はそれを強く握りしめている。
その何かを男は投げた。
――――――その瞬間――――――
それは爆発を起こした。しかし、非常に小さく、
爆風は、まるで風が頬をなでるようにやさしいものだった。
爆音も非常に小さく、屋内の市民が驚いて様子を見に来る気配もない。
男はその光景を見て、満足げにうなずいてその場を去っていった。
――――――次の日
男はまたそこにいた。
今日の服装は、軍服を着ていた。
今日も市場は活気があるものの、市民はみなどこか、そわそわしている。
市民の会話が聞こえてくる。
婦人A「今日はパレードがあるんでしょう?一目見て見たいわね。」
婦人B「そうねぇ。国王陛下も参加なさるんでしょ?私も見て見たいわぁ。」
婦人A「そうなの?美形で有名な国王陛下のお顔を拝見できるなんて。」
婦人B「いいわよねぇ。私はこの後も家事があるのよ。」
婦人A「いいじゃない今日くらい。見て行きましょうよ。」
………どうやら国王が参加する軍事パレードがあるようだ。
だからみなそわそわしているらしい。
そのためか、いつもは道の真ん中を占領している市場が、
今日はすぐ撤去できる道端に移動している。
しかし、男は道のど真ん中に座っていて、どう見ても邪魔である。
そして市民がパレードを心待ちにしていた時、
軍靴とラッパの音が聞こえてくる。
その音が聞こえた瞬間、市民はまるで蜘蛛の子を散らすように、
市場を撤去したのち、道端に集った。
そんな中、男だけがずっと座っていた。
そして、パレードの先頭が見えてくる。
先頭だけだが、その一糸乱れぬ歩調から、よく訓練されていることがわかる。
膝を曲げず、足を延ばして高く上げている。
いわゆるガチョウ足行進という奴である。
パレードの先頭は、男が座っていることに動揺しているが、
国王陛下も参加しているパレードで停止は許されないため、そのまま突き進んでいく。
男はそれでも動かなかったため、もみくちゃにされる。
足でけられ、胴体で体当たりをされても男は自ら動こうとはしなかった。
民衆は熱狂的に軍隊を歓迎した。
はじめは男がいたからか、少し静かであったが。
男が見えなくなると、皆熱狂的な声をあげ、
国王陛下万歳と壊れたスピーカーのように繰り返した。
そして、ついに国王陛下が見えてきた。
国民はより一層歓迎した。声を張り上げ、歌い、踊った。
国王陛下の周りの軍人は、煌びやかな軍服を着ている中、
より一層煌びやかなものを着ており、金銀プラチナを、
ふんだんに使った軍服となっている。
胸元についている勲章が、
3個以下のものはおらず、国王陛下護衛部隊は、
よく訓練された精鋭部隊だということが、見て取れる。
国王陛下が近づいてきても男は動かなかった。
国王陛下は不審に思い、側近へこう聞いた。
国王「おい。あの男は何だ?」
側近「はっ!わかりません!」
国王「わからないだと?一体どういうことだ。」
側近「あの男、パレードの先頭が近づいても一切動かないのです。」
国王「ふむ…無視してもよかろう。」
その後、国王が男の前まで進んだところで、
――――――男が動いた――――――
男は何かを二つ投げた。
その瞬間、国王陛下護衛部隊が国王の目の前に飛び出る。
1秒、2秒、3秒、だんだんと時間が過ぎてゆく。
護衛隊が国王の護衛をやめ、男の捕縛に移り、
何かの上を通り過ぎた瞬間、
小さな小さな爆発が起こった。どうやら投げた二つの内、
一つが爆発を起こしたようで、護衛隊の足を負傷させた。
これは男には予想外だったようで、驚きの表情を見せた。
皆があっけにとられる中で、男はいち早く切り替え、
もう一つの何かに目を向けた。
もう一つの何かは、数分経っても爆発しなかった。
皆気が抜けた中、国王と親衛隊だけは警戒を怠らなかった。
そして軍人の一人が、その何かをどけようと近づいた瞬間、
――――――大爆発が起こった――――――
一瞬、何が起こったかわからなかった。
それは、雷が直撃するのも生ぬるいほどの衝撃だった。
一つ目の爆風が無風に感じられるほどの爆風であった。
それはもはや台風である。いや、もしかすると台風よりも強いかもしれない。
風で木々はへし折れ、爆発の衝撃で人々は消し飛び、
その両方で、煉瓦造りの家々は崩れ去り、吹き飛んだ。
しかし、その爆風は国王陛下には届かなかった。
それに男は絶望し、すぐにカプセルを口内に放り込み、かみ砕いた。
男は痙攣し、喉を掻き毟りながら絶命した。
男は帝国軍人だと思われる服装をしていたため、
帝国を問い詰めたものの、帝国はしらを切り続けた。
それに国王は恨みを抱き、独立戦争を起こした。
これは、そう、、、スェードン王国で起こった国王殺害未遂事件であった。
これがスェードン王国独立戦争につながるのは、また別のお話。
次は貴方の国で、このような事件が起こるかもしれない。
貴国の良き隣人は、明日には憎むべき宿敵になっているかもしれないのだ。
――――――おしまい――――――
著:ラメール・フルムーン/Lme-l full moon
題:運命の鼓動