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ミランダ

突然ヤンデレと薄暗い話を書きたくなりました。

新年早々のヤンデレです。

あと1〜2話で終わる予定の短話です。


 一人目の婚約者はご家族が事業に失敗して婚約が無くなった。

 二人目の婚約者は病気が原因で婚約式をする前に話が白紙になった。

 三人目の婚約者は、婚約式直前で不慮の事故により亡くなった。


 そんな私、ミランダについた名前が「死神の花嫁」なんて怖い名前がついてしまったのだけれども。


 悲しいことに、そんな私に四人目の婚約者が現れてしまった。






 私、ミランダはスタン伯爵家の長女として生まれた。少し歳が離れた弟と妹のお世話が好きで、弟達が大きくなったら遊んでくれなくなったので、最近は孤児院の子供たちに遊んでもらっている。


「ミランダ様! 今日は何して遊ぶ?」

「ふふっ、マークったら顔に泥が付いてるわ」


 私はポケットに閉まっていたハンカチで幼い少年マークの泥を拭った。

 小さな子供たちの笑顔は私にとっての癒し。たとえ貴族だからって、子供たちは容赦がない。私におんぶを、お絵かきを、お歌を歌ってと次々に要求してくる。

 最初の頃は孤児院の先生方にとても心配されたのだけれど、こうしている時間が好きなのだと分かってくださった今止められることはない。


「今日はお歌でいいかしら? そろそろ生誕祭でしょう? みんなでお歌の発表会をしましょう」


 私は自邸で練習していたピアノ曲を孤児院に寄付されたピアノで奏でることにした。子供たちは喜んで一緒に歌ってくれる。素直で可愛い子供たち。

 ああ、何て可愛い天使たち!

 一緒に遊んでいる私が死神の花嫁だなんて知られたら泣いちゃうかもしれないなぁ。




 私が初めて婚約したのは十一歳の時だった。

 家同士で決めた婚約者の男の子。同い年だったその子は、いつも私と会うといじめてくるから私はとても婚約が嫌だった。けれどお父様達に嫌だと言えず困っていた。

 そんなある日、婚約が白紙になったと言われて思わず喜んだのだけれども。

 その原因が彼のご両親のお仕事がうまくいかなくなったからと聞いて、私はとても反省した。

 人の不幸を喜んでしまったなんて神様ごめんなさい……

 その頃十二歳になったばかりの私は、自分の心の狭さにベッドで泣いた。


 次に婚約者が出来たのは十三歳の時。

 十三歳から十五歳の間ぐらいに婚約者がいるのが当然だったから、その頃の私はもう驚かなかった。

 周囲の友人もみんな婚約者が決まっていた頃だったし、私も一人目の婚約者の時に受けた傷も癒えていた頃だった。

 今度は婚約者の方とわかり合いたい、という気持ちだった。


 新しい婚約者はとっても優しそうな年上の人。確か七つぐらい離れていた。

 まだ子供だった私と婚約なんて、と思っていたけれど。とても顔が素敵だったので私はドキドキしてた。

 

 けれど、その彼も突然病に倒れてしまったのだ。

 私はそれを理由に婚約を破棄せず彼が治るのを待つつもりだったのだけれども、両親が頑なに断っていた。

 その時の両親の顔が随分と怖かったのを覚えている。

 後々聞いてみれば……どうやら病の原因が、女性との淫らな関係によって起きてしまったのだと知って……私の二度目の恋は終わった。


 三度目の婚約にもなれば、ようやく私も大人になってきた。

 デビュタントを父と一緒に行くことになった私は、周りが婚約者と並んで参加している姿を見て何処か慌てていた。

 早く婚約をしないと行き遅れる、なんてことも不安に思っていたからかもしれない。

 

 三人目の婚約者は普通の方だった。そう、とても普通の方。

 彼は私が綺麗だから気後れしてしまうと言っていたけれど、そんな控えめな彼に好感を抱いた。

 良い旦那様になって下さると信じ、二人の時間をゆっくりと紡いでいった。


 ようやく婚約者を持てたことで落ち着きを取り戻していた。それが十五の歳のこと。

 けれどその婚約者は私が十六歳の時、婚約式を進めようとしていた時に不慮の事故で亡くなってしまったのだ。落馬事故によるものだと聞いた。

 彼は運動神経が良くないと自分で言っていた。けれど周囲の誘いに断れず鷹狩りに行ったらしい。

 その場でスピードを出し過ぎて亡くなってしまったのだ。


 私はとても悲しくて、彼の葬儀で大泣きした。

 悲しみの底に居た私は当時気付かなかったけれども、私を見る周囲の目は何処かとても冷たかった。


 それが、私が「死神の花嫁」と呼ばれているせいだと気付いたのは少し経ってからのこと。




 もう、結婚は望めない。

 そう思った私は両親にも結婚は無理してしたくないと伝えたら頷いてくれた。

 父と母は私にとても優しかった。

 私が五歳の頃に誘拐される事件があって以来、両親は私にとても優しくなったのだ。

 当時の事はあまり覚えていないけれど、まだ幼い弟と生まれたばかりの妹にかかりっきりだった両親は私に関心が少し薄かった。

 その頃の私は姉として弟や妹のお世話をしなければ、という使命感に駆られていてあまり手のかからない子供だったらしい。

 だから、一人の時間があっても大丈夫と思われていたのだ。


 そんな頃に誘拐事件に巻き込まれたことがあって、それからは父と母は私に対して過保護に接するようになっていた。

 だから私が無理に結婚しなくても構わないと告げれば、それにも賛同してくれた。

 私も十八になって結婚に対する希望は無くなっていた。死神の花嫁なんて名前も付いているのだし、好んで結婚したい人なんて出てこないだろう。

 だったら小さな子供たちと一緒に生きていけたら素敵だな、なんて思っている。

 孤児院で働かせて頂けないかしら? と思っていた頃。


 私の元に四人目の婚約者が現れたのだ。




「エドワルド・ユグ・ランフィルドです。ミランダ嬢、どうか私と結婚して頂けますか?」


 透き通るような灰色の瞳と黒曜石のように輝く黒髪。まるで妖精のように透き通った白い肌。

 こんなに素敵な男性がどうして私と?


私は信じられない思いのまま、エドワルド様に跪かれながら結婚を申し込まれた。手には花束を、既に用意していたという指輪の宝石は見たことがないほど大きかった。

 これは夢かしら?


「あの、エドワルド様」

「どうか、エドと呼んでください。私もミランダとお呼びしたいので」


 嬉々として微笑まれてしまえば、私は顔を赤く染めながらエドと呼んだ。彼は本当に嬉しそうに私を見つめている。


「エド様。私のあだ名をご存知ですか? その……」

「死神の花嫁でしょう?」


 切れ長の細い灰色の瞳がうっすらとほほ笑んだ。


「死神という言葉など、可憐な貴女より私に相応しい名前だと思いませんか?」


 そう言われてエド様を見る。黒色の髪に灰色の瞳。物語に出てくる死神と言えば髑髏の印象があるけれど、時折人の姿で表現される時の死神は、確かに目の色が無く髪も黒かったように思える。


 けれど私は首を横に振った。


「エド様に死神という名は相応しくありません。妖精の方がしっくりきますわ」


 そう告げると、エド様はとても大きく目を開いてから大きく笑われた。

 恥ずかしいことを言ってしまったかしら? 成人した男性に妖精だなんて、それも失礼だったかもしれない。

 思い返して頬を赤く染めていたのだけれども、エド様は気にせず私に微笑みかけて下さった。


「ミランダ嬢こそ私にとって妖精ですよ。どうか、噂を理由に私の愛を断らないで。私は例え貴女が悪魔だろうと死神だろうと喜んで妻に迎えたい」


 掌に狂おしそうに唇を押し当てられてしまえば、今までそんな風にされたことがない私は顔を苺のように赤く染めるしかできず。

 半ば強引に婚約を受け入れることになったのだ。





 婚約してから数ヶ月。

 あれよあれよという間に結婚式の準備まで進められていた。

 エド様を知ればしるほど私には分からない。

 どうして、貴方は私と結婚したいのだろう?

 それと同時に怖くなる。


 エド様にも不幸が訪れたら?

 私のせいで、エド様が事業に失敗したり、病気になったり、事故にあったりしたら?

 三人目の婚約者のように、亡くなられてしまったら?


 私は不安から身体が縮こまった。

 彼の事を考えるなら婚約を断るべきなのだ。


 優しい優しいエド様。

 婚約を申し込まれてからずっと毎日のように私を訪ねてきて下さる優しい方。

 私が孤児院に行くことが好きだと知って、一緒についてきて遊んでくださったりもする。

 社交界に出ることが怖い私に対して「嫌なら行かなくて構わない。私も好きではないから、一緒に屋敷に籠っていようか」と冗談を仰って下さるエド様。


 いつも優しく微笑んで、灰色の瞳に私を映しながら「愛しているよ」と告げてくださるエド様を。


 いつの間にか私も好きになっていた。

 だからこそ彼を大切に思うのなら婚約は破棄しなければならないのに。


 私はエド様を失うことが怖くて言い出せなかった。




 私より三つ年上のエド様は、実は王家の血筋を引いていらっしゃるという。

 王家は長い歴史の中で血統を大事にしているため、直系の王族が代々継いでいる。

 その王族の一族で、しかも新しく立たれた新国王の異母兄と知った時には倒れそうになった。

 言うなればエド様は王位継承権をお持ちの方。下手すれば王様になられるほどの方だった。

 今は王族の名を捨てて侯爵位を頂いたばかりだという。

 さらに彼のお仕事は、異母弟の国王様の補佐役だと知って私はついに卒倒した。


 どうしてそれだけ身分の高い方が私のような娘と結婚したいというのか、不思議に思って聞いたことがあった。


「君は忘れているかもしれないけれど、私達は小さい頃に出会った事があるんだよ?」


 そう言われて、私は驚いた。

 過去の記憶を辿っても、私にはエド様と出会った思い出が出てこない。

 その事を残念に思っていたけれどエド様は笑って気にしないでと励ましてくださった。


「私としては恥ずかしい思い出だから思い出さないでもらいたいな」


 そう言われてしまえば、私も無理して思い出さずにエド様からの昔話で当時の思い出を想像する。

 幼い頃のエド様。

 きっととても可愛らしかったかもしれないわ。残念、どうして覚えていないのかしら……




 知れば知るほど好きになっていくエド様。

 婚約を破棄しなければならないのに出来ずにいた私に、一つの転機が訪れた。


 エド様の元婚約者という方とお会いしたからだ。




 それは、とある社交界の場だった。

 私はエド様にエスコートされながらその社交界に参加していた。

 けれど、貴族同士とのお付き合いが苦手で避けていた私にはその場がとても息苦しく、いくつか挨拶を交わした後にバルコニーで休憩を取っていた。

 王族の一人であったエド様にはいつも人が集まっていらした。

 具合が悪くなった私を酷く心配なさっていたけれど、私はエド様に無理を言って一人で休ませて頂いていた。

 渋々承諾して「少ししたらすぐに戻るから、それまで外の空気を吸っておいで」と優しくしてくださったエド様に益々恋をしてしまう。

 

 今まで体験したこともないこの想い。

 恋がこれほど苦しいだなんて。

 三人の婚約者がいた私は、今までどの人にも感じなかった感情を抑えきれずバルコニーに佇み悩んでいた。


 外の景色を眺めながらエド様とのことを考えていた私の前に、その女性は現れた。

 

 カトリーヌ様。侯爵令嬢であり、王族の遠縁にもあたる高貴な方。

 私でも名前とお姿は知っている。女性の間でとても有名なお方だったからだ。

 けれど直接お話をしたことはない。

 どうしてこちらにいるのかしら?

 私は慌てて頭を下げた。


「ご機嫌よう、カトリーヌ・ユグ・エスター様」


 私は失礼がないように丁寧にご挨拶した。それでも、日頃社交に出ていない私だから拙い挨拶になってしまったかもしれないと、ドキドキしながら頭を下げていた。


「貴女、自分の立場を分かっていて?」


 いきなり冷たい言葉が私に投げ捨てられた。


「えっ」

「エドワルド様の婚約者だなんて……どれだけ汚い手を使ったの? 最低ね……っ!」


 顔を上げた途端、冷たい液体が顔に掛かった。

 驚いた私は、しばらくシャンパンを掛けられたことに気付かなかった。


「私とエドワルド様の婚約破棄と同時に婚約されるなんて、汚い手を使わない限り出来る筈がないわ! 下賤の者が! 身の程を知りなさい!」


 今度はグラスを投げつけられる!

 そう思って私は手を前に出して衝撃を待った。

 けれども届いてきたのはカトリーヌ様の悲鳴だった。


「あっ………!」


 ゆっくりと瞳を開けてみればその場に倒れ剣を向けられたカトリーヌ様と、冷たい瞳で彼女に剣を突きつけるエド様のお姿だった。


「エド様……」

「死にたいらしいな」


 聞いたこともない低い声だった。

 これは本当にエド様の声?


「お前との婚約は王の宣言でもって白紙となったというのに無駄な足掻きをするものだ」

「エドワルドさまっ」

「その汚い声で私の名を呼ぶな」


 刃を口先に向ければ、カトリーヌ様から小さな悲鳴が聞こえた。


「ミランダに手を出すなと言ったはずだ。出せばどうなるか分からないはずは無いよな?」

「もうしわけ……ございませっ……」


 鋭利な瞳にくわえ薄っすらと微笑むエド様の顔は恐ろしいほどに冷たかった。


「詫びるのは私ではない。彼女にだ」

「も、申し訳ございません……! ミランダさんっ……!」


 私は、今起きている状況を理解できないままに呆然と立ち尽くしていたのだけれども。

 剣を鞘に戻したエド様がカトリーヌ様から離れると上着を脱いで私に羽織って下さった。


「すぐに着替えよう。大丈夫かい?」


 いつもの優しいエド様がそこにいた。


「はいっ……でも、カトリーヌ様が」


 まだ床に蹲った状態の彼女が心配で名を呼ぶけれど、エド様は少し眉間に皺を寄せた後微笑んで首を横に振られた。


「彼女の事は気にしなくて構わない。すぐに護衛が来るだろうし。今は君の事だよ。さあ、衣装室に急ごう」


 言うや否やエド様は私を横抱きにし、足早にその場を離れた。

 私は彼の背後から見えるカトリーヌ様の姿から、ずっと目が離せずにいた。

 そして、彼女が放った言葉もまた、私からずっと離れなかった。





 衣装室に行き、その場に会ったドレスをお借りして濡れた身体を清め終えた。 

 待合室でずっと待っていたらしいエド様が、私の姿を見つけて慌てて駆け寄って下さった。


「大丈夫かい? ミランダ」

「はい、ありがとうございます」


 そう答えるけれど、エド様は未だ不安そうだった。


「本当に? どこか痛むところは? 他に何かされなかった?」


 他に……

 私は彼女が言った婚約の事を思い出した。


「エド様……エド様とカトリーヌ様は婚約者同士だったのですね」

「……カトリーヌが話したのか」

「はい。私、知りませんでした……」


 そう。私は無知だった。

 エド様が王族一人であったことも、カトリーヌ様と婚約関係を結んでいたことも何一つ知らなかった。

 きっと誰もが知っていたかもしれない事を、私は自分のあだ名が噂されていることが嫌でろくに社交界にも出ていないせいで知りもしなかった。


「彼女との婚約は王位継承のために決められていただけだよ。継承は放棄したから今はもう婚約を破棄している。それに、私は君としか婚約をしたくない」


 エド様の言葉に、不覚にも私は喜んでしまう。

 けれどダメだ。

 私は首を横に振る。


「エド様……どうか、私との婚約を無かったことにしてください」


 そう告げた時。

 何一つ言葉が返ってこないことが気になって顔をエド様に向けてみて。


 私は酷く後悔した。


 彼の顔色は蒼白なほどに白く血の気が失せたようだった。瞳からは絶望の文字が浮かぶほどに悲しみに暮れていた。

 悲痛なほどに悲しみを帯びた顔。今にも泣いてしまうのではないか。

 私は、答えを間違えてしまったの?


「ミランダ……どうして? ミランダ。何がいけなかった? どうしてそんなことを……?」

「それは……」

「嫌だっ!」


 急にエド様に抱き締められる。

 強く、もがくことすらできないほどに強い力だった。


「君と別れるなんて考えられない……そんなことをしてみろ。私は……狂うかもしれない……っ」

「エド様」

「お願いだミランダ。どうか嘘だと言って。カトリーヌすら抑えきれなかった愚かな私への罰で言っただけなのだと。私は罪を償うために何でもしよう。だからどうか……」


 別れないで。

 心からの叫びを、私は掠れるような声で聞いた。

 同時に、涙が浮かび上がる。


「ちがう……のです。違うんです、エド様」

「ミランダ?」

「私と一緒になった人はみんな不幸になってしまうのですっ」


 一人目は事業に失敗した。

 二人目は病に侵された。

 三人目は亡くなった。


 私は死神の花嫁なのだ。


「私と婚約した人はみんな不幸になりました……私は、私のせいでエド様が不幸になるのが嫌なんです……!」


 エド様がカトリーヌ様に向ける視線は怖かった。

 同時に、その視線を私に向けられることの方が怖かった。

 婚約によってエド様を不幸にした私が、彼に同じような視線を向けられたらと思うと。

 私は絶望しそうになった。

 それと同時に、彼を不幸になんてしたくなかった。

 好きだから。

 本当に好きだからこそ、身を引くべきなんだ。


「ミランダ……可愛い私のミランダ。どうか顔を上げて」


 涙を零す私の額にエド様がそっと口づける。


「君のせいで不幸に? そんなことある筈がない。君と共に在ることこそが私の幸せなんだよ?」

「でも……」

「昔、君と出会っていた時の話をしただろう? あの頃の私は生きているだけで不幸だった。けれど君という人に出会って、それが大きく変わったんだ。今、私が生きているのは確かに君のお陰なんだよ」


 顔を見上げてエド様を見つめる。

 彼の顔は、本当に穏やかに微笑んでいた。


「死神の花嫁だというのなら、私はその死神にすら君から奪ってみせる。君の全てを私の物にしたい。どれだけ死神が私に刃を向けようとも君から手を離すことはないと約束する」

「エド様……」

「でも君も許してね? きっと私は死ぬ時ですら、君を道連れにしてしまうかもしれないから」


 彼は優しく微笑みながらとんでもない言葉を放つ。

 私は驚いたけれども、笑って頷いた。


 死神の花嫁と呼ばれる私に対してこうもはっきりと想いを伝えてくださる方はきっと、エド様以外にいないだろう。


「死神ごと愛してあげるよ。ミランダ」


 瞳に押し付けていた唇が、そっと涙で濡れた唇に触れて。

 私は初めての口づけに酔いしれた。





 それから暫くして……

 無事エド様と婚約を済ませ、結婚式も執り行い。

 

 何事もなくすべての行事を終えた後、社交の場で仲睦まじく過ごす二人を見守る人々から。


 私達が「死神夫婦」と呼ばれていることを。

 やっぱり社交に疎い私は気が付かなかったのだった。


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