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㈱ユートピア管理舎、加護サポート課 〜生きる特異点な彼女〜

作者: 東堂 灯


「なぁんでぇぇえええええええっ!?」


フロア中に響いた声にチラリとしか反応しなかった同僚達は、なんだまたお前か…とでも言いたげな顔で各人の仕事に戻った。

…少しはどうした?とか聞いてくれてもいいじゃない、薄情者共め…


「あらあらぁ…今度はどうしたのぉ〜?」

「…ぜんばいぃぃぃ〜…」


声をかけてきたのは私の教育係だった先輩。今では主任か。

おっとりとした喋り方で、ともすれば同性から反感を買いそうなものだけれど、美人でぽわんとした彼女にとても似合っていて、不思議とそんな声は聞いたことがない。


「このログ見てくださいぃぃい…」

「…あらぁ〜…これはこれは…」


先輩に見せたのは私の担当世界のログだ。

担当()()なんて言葉も、最初こそ随分と仰々しくて違和感があったけれど、もう慣れてしまった。


ここはバーチャルで作成した世界の管理を作成者に代わって行う、株式会社ユートピア管理舎である。




【生きる特異点な彼女】





まずこの会社、㈱ユートピア管理舎はバーチャル空間に作成された世界の管理を主力とした会社である。

そもそもこの業界、一般には馴染みが無いだろう。私も知らなかった。

だが馴染みが無いが、クライアントは世界有数の資産家達で、社員はエリート揃い、給与も年間休日も福利厚生もばっちりとくれば、多少怪しくとも面接を受けた当時の私を褒め称えたい。

…エリート揃いの中でなんで私が入社できたのか、だとか、奇人変人を地で行く同僚達は本当にエリートなのかーーーコスプレ可、なんて冗談かと思ったのに普通にドレス姿、やたらとリアルな馬頭とかいるのよ、信じられる?これがエリートのやること?ーーー、という点は置いておいても、だ。


知名度は低いがライバル会社も少ない、むしろ管理といった部分でのシェアで言えば自社だけと言ってもいい。

定年までの離職率は驚異の3%。それも止む終えない事情。素晴らしい。



とまぁそんな我社で、ちょっと手間がかかりすぎる、と言われるのがここ加護サポート課だ。

ここでは自社で委託された世界の中でも、クライアント自身が手を加える事の出来るプランの、かつオプションで付加できる『加護』と呼ばれる目印のついたキャラのサポートをする部門である。

要はたっかいオプション料金で、作成者に代わってキャラを丁寧に育成する課である。


「今回はまぁ…こっちの世界に獲られちゃったのねぇ…?」

「なんでなんですか!私が丁寧に丁寧に丁寧に手をかけた可愛い子に…っしかも他世界からって…っ!!何してる干渉管理課…!!!」


育成とはいえ、そこらのゲームのように簡単ではない。

そこは莫大な資金にモノを言わせた遊び、キャラ毎に高性能なAIを組み込んでおり、それらは本当に意志を持つかのように動き、成長する。

それらの成長、あるいは発展はまるで本物の国、世界を管理しているのと同等レベルと言っていい。


今回の問題は、他世界のキャラから干渉され、よりにもよって加護持ちを奪われた事だ。

殆どないとはいえ、同じサーバー上で作られた世界間は稀に干渉問題を起こす。それらを監視・保守する課もあるのにこの体たらくである。


「なんで毎回、毎回、私の可愛がった子達はまぁ、干渉に巻き込まれたり修正不能のバグを起こしたりとこう…っこう問題児に育つの…っ!!」


加護オプションはその料金に見合った分だけ、我々サポート課が干渉し育成を手助けする。それこそ課金したその時から、キャラが死ぬまで…あるいは消滅が確認されるまで丁寧に。

それはもう丁寧に監視・保護し、生きている人間のように成長するものだからその可愛さといったら我が子同然。


それを…それを…っ!!!


「まぁ今回は私達の範疇じゃないわよぉ…干渉課には協力のお願いしたのぉ?」

「…干渉課でも今は干渉不能になってるから、稟議だして上の承認とって強制干渉しかないって…そんな事してる間に私の、私だけの可愛いあの子がどんなに怖い目に合うか…うぅうぅう〜…」


基本的に加護の担当者は1キャラにつき1人、サポートで2人という3人体制が敷かれるが、私は1人で4つの世界の加護持ち全てを担当している。

何故なら私が担当した子達は軒並み問題行動を起こしまくり、生きる特異点と呼ばれる頃にクライアントからのクレームを恐れた上司より、1人で簡単な世界の担当になるよう言われたからだ。

…1人で担当できる世界はクライアントの手を離れて久しく、かつその加護は生命維持を基準とするものでない、消滅確認まで目を掛ける必要のあるもの、という限られた世界しかない。

だがその分、管理が楽(手間は変わらなくともクライアントの干渉がない分結果の予想が容易である、という意味)で、時間経過も勝手に弄れるものだから1人での管理が可能で、問題があってもクレームにはなりづらい、私にピッタリの世界達だ。


…まぁ、正直なところ。オプション料金は莫大だったが既にクライアントはその世界に興味が薄れて次にも繋がらず、かといって料金分の管理は必要という、コストばかりの閑職である。


「強制干渉ねぇ…もしかしたらクライアントに確認とってそのまま、なんて事もあるかも?」

「あぁぁあ…さよなら私の愛し子ちゃん…きっと君は強い子よね…幸せに暮らすんだよ…」


強制干渉はよっぽどの事がないと認められない。同サーバーの各世界の干渉問題にどんな影響があるか未知数らしいから。詳しくは知らないけど。

少なくとも今まで、丁寧に育成したキャラ達が強制干渉まで無事だった事はない。諦めよう。


「まぁ、飴ちゃんあげるから元気だしてねぇ…?」

「いいんだ、いいんだ…私にはまだ愛し子達がいるもんね…他の世界の子達を愛でよう…ふふふふふふ…」

「お、置いておくわねぇ〜…もうすぐ定時なんだから、あまり愛でてないで帰り支度して帰りなさいねぇ〜…?」














「今回も彼女の世界は可笑しな事になったみたいだね?」

「あら、専務」

「今回はどうなったんだい?」

「加護を付与された少女が他世界のコに奪われて、世界間干渉に対応しているうちに加護持ち周辺でトラブルが乱発、元の世界線に戻そうにもやたらと力を持った存在が発生、…まぁソレが奪ったのですけれど、ソレが加護持ちを保護しており、妨害されて現在は彼女からの干渉は不能となっております。」

「ハハハハッ!干渉不能にまでされたのかい?いやぁ…これまた随分と力を持ったコがいたもんだねぇ。」

「とはいえ、少し階級を上げれば対応可能ですが…」

「あぁ、まぁそうだろうねぇ…いやなに、彼女の受持ちはそういった事も折り込み済だ。交渉に使うからそのままで構わないさ」

「はい、承知致しました。」


この専務と呼ばれるモノは、本当に化け物じみた力を有している。

…正直、彼女の担当にならなければ言葉を交わすことすら畏れ多く、そもそも関わりもしなかっただろう…今では軽口すらたたける仲だ。


「それにしても、彼女はまだ気付かないのかい?…鈍いねぇ…」

「何と申しますか…はい…まぁ…」


彼女は気付かない。


…ここはバーチャル空間の管理を代行する会社ではなく、()()()()()()()()している事に。

クライアントは皆其々が創生神と呼ばれるモノであり、そもそもこの社内に()()()()()なんぞ、殆ど居ない事に。


「流石は生ける()()()だねぇ…いやいや、彼女が居てくれてボクとしては助かるよ、神格持ちがバンバン発生・発見出来るからね!」

「本当に…ありがたい事です。発生までの過程も保管できますから、干渉の心配も少なく、余所に行かれずにすみますもの。」


神格持ちはそもそも発生数が少ないうえ、縛られる事を嫌って会社に所属してくれない。

世界の管理なんて大仕事、任せられるのは神格持ちかそれに準ずるモノだけだと言うのに…おかげでこの業界(とはいえライバル会社は他に3社しかない)はどこも人手不足だ。


「ありがたいけど…ただねぇ…いつ気付くかとドキドキするからねぇ…」

「…もうこのまま気付かずにいた方が彼女にとっては幸せかもしれませんものねぇ…」


仲良く呑みに行った同僚が、人形ですらないバケモノだと知ったら。

新人の時にお茶をぶっかけたお相手が、自分の世界の創生神そのモノだと知ったら。

いや、そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と知ってしまえば、表面的にはただ人のあの子に耐えられるかどうか…


「あぁ、でも彼女、もう寿命が人として生きられない位にズレてしまったからねぇ…そうだなぁ、今回の件が落ち着いたら適当な世界に放り込んで、無理矢理でも理解してもらおうか。」

「…可愛い後輩なので、お手柔かにお願い致しますね?」


大丈夫大丈夫。なんて軽く笑っていらっしゃるけれど、このヒトの感覚は全くあてにならないから、しっかり私が監査に入ろうと決意する。

…いやでも、生きる特異点だし、何とかなるかも…?


「まぁ、一段落してからさ。…さて、我々もかえろうか。」

「はい、専務。」

「…で?本日は何処に()()()か、私のお姫様?」


まだ社内だというのに、このヒトは全く。

横目でフロアを見れば、既にコチラの言葉を聞ける器官を持ったモノは居なくなっていた。

彼女が居る間は、皆気を遣って(あるいは面白がって)人間のように振る舞っているから、その器官すら調整されているが、彼女が社を出てしまえばそれも必要ない。


「雪と氷に覆われた、星空の綺麗なーーーーにお願いできますか?私の王様。」

「姫君の仰せのままに」


そうしてそのフロアからフタリは消えた。



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