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第3話 妹と幼馴染、時々女神。

「おい、そんなにくっ付くなよ。歩き辛いだろ」

「え~、いいじゃないですか。兄妹なんですし」


 唯の用意してくれた朝食を堪能した後、まだ肌寒い風が吹く中、二人並んで学校への道を進む。


 ――私立峯ヶ崎(みねがさき)学園。


 それが俺の通う学び舎の名前らしい。そして唯は峯ヶ崎学園中等部の生徒。二つの学校は名称に違わず隣接している。今の俺たちの様に。


「だからってこんなに近づいたら、その、色々とまずいだろ」

「何がですか? はっきり言ってくれないとわかりませ~ん」


 小悪魔的な笑みを浮かべ、上目遣いで、さらに腕を絡ませてくる。すると明らかに平均以上のボリュームがある凶器(おっぱい)が押し付けられる訳で。


「……む、胸が当たってるぞ」

「……兄さんのえっち」


 恥ずかしそうにしながらも、身体を離そうとはしない。

 なんなのこの可愛い生き物は。ギャルゲーの主人公ってどうしてこんな殺人的な誘惑に平然としていられるの?

 万年引きこもりには刺激が強すぎる。ちょっと優しくされただけで好きになっちゃう童貞が、こんな明け透けなアピールに耐えられるわけがないだろ!


『お、他のヒロイン登場前にルート確定しちゃう? しちゃう⁉ いいよいいよ~、女神的にはオールオッケー! ただしこの世界は中学生だけど十八歳以上みたいな設定はないから、キスまでにしてね?』


 周囲の目を気にせず抱きしめてしまいたい衝動が溢れかけたが、とある業界に消されかねない危険な発言をのたまう女神(ノイズ)によって踏み留まった。

 危ない危ない、早くもリタイアしてしまうことろだったぜ。


『ちっ、惜しい』


 仮にも女神であろう存在が舌打ちなんてするんじゃねーよ。


「妹のおっぱいを堪能しているところ恐縮なんですが、兄さんも今日は始業式だけですよね?」

「……ああ、そうだよ」


 前半部分は聞き流し、質問形式の後半部分に肯定する。

 決して、『おっぱいを堪能している』に頷いたんじゃないんだからねっ!


『あの、男のツンデレを聞かされるのって結構くるね。こう、精神的に』


 勝手に人の心を覗いておいて文句言ってんじゃねえぞメガミモドキ。


『もどきじゃないから! ちゃんと資格持ってるからぁ!』


 資格制なのかよ。知らなくていい女神事情がどんどん更新されていくな。主に負の方向に。


「兄さん、どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


 女神とのやり取りなど知る由もない唯は、急に黙ってしまった俺を心配そうにのぞき込む。ああ、本当にいい娘だ。そしてかわいい。


「じゃあじゃあ、午後は一緒に買い物行きませんか? せっかく時間があるので、腕によりをかけて作っちゃいます! 何でもリクエストしてくれていいですよっ!」

「そうだな、それじゃ――」

「こ~~~~お~~~~! お~は~よ~!」


 行こうか、と放課後の行動を決定しようとした時、ドップラー効果(救急車のサイレン)の如く後方から声が響いた。

 その音源を確認しようと振り向くと同時に……


「とうっ!」

「ぐえっ!」


 腹部に強烈な飛び込み頭突きをかまされた俺は身体を支え切れず、唯のおっぱいから引き剥がされ……もとい、その場に尻餅をつく。

 視線を下に向けると、そこには腹にめり込んだ金髪ツインテール。顔は押し付けられていて確認できないが、すーはーと荒い呼吸の音が聞こえる。

 ……走ってきたからだよな?


「おい、大丈夫……」

「久しぶり、洸!」

「ぐえっ!」


 急に頭を振り上げたせいで、その後頭部が俺の顎にクリーンヒット。


「あ、ごめん! 大丈夫⁉」

「お前は新学期早々、俺を殺す気か!」

「やあねぇ、偶然よ偶然。それより、元気にしてた? 春休みの間どうしてた?」

「世間話を始める前に、まずは起き上がれ!」


 金髪ツインテールに黒いニーハイソックス、絶対領域と二次元的な情報を詰め込んだ彼女は二階堂(にかいどう)玲奈(れな)。その記号的アイテムに相応しく性格はツンデレ。加えて俺との関係性は幼馴染という圧倒的テンプレキャラ。ツルペタなところもザ・王道である。

 そして……


「何よ、あたしと密着してもうれしくないっての?」

「……ソンナコトナイヨ」

「どうして片言なのよ。どうして申し訳なさそうに目を逸らすのよ!」

「それは玲奈さんが幼女……少女……つつましい体型だからじゃないですか?」

「あら、唯ちゃんいたの? 気が付かなかったわ」

「よく言いますね。私に嫉妬して駆けてきたくせに……」

「何よ⁉」

「何ですか⁉」

「二人とも落ち着いて⁉ 朝っぱらから胃痛展開は勘弁してぇ!」


 日下部唯と二階堂玲奈は犬猿の仲。その設定は眼前で繰り広げられる攻防で、明瞭に記憶に記録された。

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