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 魔物が人の生活圏に入り込むのは相当大事のようで、各地で慌ただしくしていた。この国で一番ゆっくりしているのが、モニカかもしれないくらいだ。無意味に爆弾を投げたり仕掛け続けたりする女が最も落ち着いているとは、悲惨なものだ。

 通行人は慣れない大荷物を抱えながら全力疾走しようとしていたり、同じところを行ったり来たりして体力の消耗を楽しんだりしている。

 階段を面倒に思った人は、二階から飛び降りて足を悪くしていたし、病院から病人が脱走する事態にもなっているようだ。

 ちなみに魔物が侵入した際の死傷者数はゼロだった。正確には魔物が一匹爆死しているが、ここの常識ではあれとオートマタドールの損害はカウントしないらしい。

 魔物の侵入経路になった天井の穴の真下は、無人で可動し続ける工場しかなかった。メンテナンスも修理も機械が自動で行うため、特別な理由がなければ、完全に無人な場所だ。その工場は瓦礫の被害にあって、穴やへこみだらけになたそうだ。しかし人的被害は全くなかった。

 それなのに怪我人が増え続けているのはなぜだろう。魔物が来ただけでどこも恐慌状態になっていた。オートマタドールたちが収拾に当っているが、圧倒的に数が足りず、慌て狂った人が溢れていた。

 オートマタドールたちは脱獄犯に構う余裕がないらしい。さっきまで捕まえようと躍起になっていたモニカも絵堂も放ったらかしだった。

 絵堂からしたら都合がいい。道を作る必要がなくなったわけだ。

「ローレル、ジエンドを倒しに行くぞ。あいつに訊きたいことができた」

 頷くローレルに、モニカが顔をしかめる。しかしそんな感情は無視された。

「奴を倒すためにも、私たちには仲間が必要なの。縄で繋がないだけ、ありがたいと思ってね」

 縄はないが、ローレルはモニカに逃げられないよう腕をがっちり握っていた。どうやら力はローレルが上らしい。モニカは抵抗しているようだが、掴まれた腕は振らせてすらもらえなかった。

 いくらでも文句が出てきそうなモニカの口が閉じる。腕を掴まれた状態で爆弾を取り出しローレルに貼り付けたら、自爆になってしまうからか、抵抗は無駄だと悟ったモニカは大人しかった。

 モニカはローレルに連行されながら、慣れない歩速、不確かな歩みを強要される。顔では文句を言いながらも、口では決して言わない姿は、ある意味では健気だった。

 絵堂はついさっき会ったばかりのサイグルの顔を思い出す。知らない顔だった。しかし覚えがあった。確かめたい思いが、絵堂の足を前に進める。

「西だったな?」

 西が方角を指しているのか、特定の地名なのか確かめていないが、きっと日が落ちる方向に違いない。空の穴からの日差しから大体の方角を推測する。その方向に手を伸ばしてみると、ローレルが頷いた。

「うん。とても遠いから、列車に乗っていきましょう」

「列車?」

 思いもよらない単語が出てきて、絵堂は眉をしかめた。聞き間違いかと疑ったが、訊き直しても訂正はない。

「地上に出て少し行くとね、駅があるのよ。そこで乗れる列車は、ジエンドの城まで直通なの。歩くよりずっと速いはず。乗ったことないけど」

 ローレルの言い間違いでも、自分の聞き間違いでもない。簡単にジエンドの城まで行ける列車があるようだ。どうやって建設したのか興味がある。魔物に邪魔されなかったのか?

「どうしてそんな駅があるんだよ」

「移動が簡単にできるようにじゃないかな? 駅がなかったら、片道だけで何日もかかるからね。魔物たちも楽したいんだよ。きっと」

「魔物たちも?」

「うん。魔物専用の駅だから。人間は近づいたら八つ裂きにされるよ。試してそうなった人がいるし」

 なるほど。人が建設したわけではないのか。勇者を送り込むための駅じゃなくて、魔物が人を襲撃するための移動手段。その割には、全く襲撃がなかったようだ。さっきの襲撃が初めてだと聞いた。つまり、列車は全然使われていないのだろう。ちゃんと走っているのだろうか。

「向こうも思ってたより文明的なんだな」

「魔物たちの技術は人よりも優れているって噂もあるくらいだから。噂だけどね」

「列車か。そりゃあ、利用しない手はないな」

 ローレルの手に力が入ったのだろうか。モニカが呻いた。

「だからまずは駅。列車は魔物じゃないと利用できないから、変装するか忍び込むかの二択かな」

「忍び込もう」

 即答するとローレルは意地悪げに含み笑いをする。

「変装の自信がないんだぁ」

「俺は魔物の特徴を知らない。ローレルにはあるのか? 魔物になりきって、自分を隠し通せる自信が」

「まあ難しいよね。魔物は人の何倍もの力を持っていて、人と同等、もしくはそれ以上の知能を有し、平均で三ヶ国語マスターしている。私達みたいな特別な存在じゃないと、そもそも対抗できる相手じゃないからね。外見だけ真似ても、綻びは出るでしょ」

「魔物って、そんなに言語を喋れるのか?」

「魔物は襲撃する国の主要言語だけ、言葉を覚えないといけないんだってさ」

「大変なんだな。誰から聞いたんだ?」

「昔戦った魔物。人間は人間語という言語で一つに定めろって文句言ってた。それが今際の言葉」

「苦労したんだな」

「一つの国を滅ぼしたら、新しい国に襲撃をしなければいけない。そのため、新しい言語を覚えることになる。だから魔物は本気を出さず、人と魔物は均衡を保てているってのが私の説。当ってると思わない?」

「サイグルはやり方を見直すべきだな。そうすりゃ、すぐに人間の築いた城なんて落ちる」

「地下ぐらしも気休めだって判明しちゃったしね。王様は気が気じゃないんじゃない?」

 確かに滅ぼそうと思えば、こんな街は簡単に滅ぶ。今回は一箇所に穴を空けて侵入してきたが、空の全面を落とせばこの国はもう現状維持すら無理難題になるだろう。この街は瓦礫に耐えられるほどの造りじゃない。

「サイグルが本気になる前に急ぐか」

「うん」

 目的地は魔物が作った駅か。知っている駅とどう違うのか興味がある。しかしサイグルの存在を考えると、思っている以上に駅の可能性も捨てられない。

 サイグル、彼は何者なのだろう。絵堂は半ば確信しながら考える。流暢な日本語を使っていた。彼は同郷の者に違いないと。


 モニカは掴まれた腕に慣れ始めた途端に爆弾で遊んだ。威力を押さえた爆弾を、ローレルの袖に差し込んだり、ぽろぽろ落としてみたり。その度、絵堂が面倒を見たので被害はなかった。

 非常に疲れる道中だったが、暇はしなかった。

 地上へのエレベーターはスカスカだった。今は慌てている人ばかりのこの街では、エレベーターのような移動は混み合うと予想していたのだが、嬉しいことに全く外れだ。

 地上は魔物をイメージしてしまうのだとか。人々は何をするべきか全く把握していないまま慌てているわけだ。何もわからないから慌てているのかもしれない。

 エレベーターを上った先にはタレットが異常な数あったが、それらは一つ残らず破壊されていた。オートマタドールの残骸も残っている。

 地上の防衛が完全に潰されていると地下に伝えるべきだったのかもしれない。しかし絵堂たちは迷わずに進んだ。次攻めてくる前に、サイグルを倒せば解決する問題だから。


 駅は、駅だった。しかし雰囲気は全く別物だった。見た目は駅そのものだけど、看板の類が一切ない。駅名もないのか、文字が一切見当たらなかった。壁は一色でのっぺらぼうだ。コンビニもない。周囲草や木だらけ。虫はいても、人は寄り付かないような駅だった。廃駅のようにも思えるが、しかし廃駅にしては掃除が行き届いている。

 いるのはどれも魔物だった。聞いていた通り、人の姿はどこにもない。魔物用の駅は改札もトイレの扉もやけに大きい。不思議の国に迷い込んだみたいだった。

 魔物は少数じゃなかった。駅員と思われる、ワックスを塗ったりんごみたいな魔物が一体。他に何十体かが改札の前にいた。

「あいつら、何してるの? 絵堂、わかる?」

 魔物はその場で周囲の警戒をしているようだ。中には剣やレーザー銃と思われる機械の塊を担ぐ者までいる。奴らにとっての敵が間違いなくここに来ると確信しているようだった。

「待ち合わせだろう。駅で立ち尽くすってなればコレだ」

「待つって、誰を?」

「俺たち以外にいるか?」

 他に勇者がいるなら、そいつかもしれないが。

 ローレルは肉食動物を警戒する草食動物のように、ちょんと上げた首を高速回転させて周囲を見る。敵は正面にしかいないと確認すると、頭を引っ込めた。

「バレてるのかな?」

「だったら襲ってくるだろ。まだ見つかってない。回り込むか」

 駅なら入り口が複数あっても不思議じゃない。混んでない入り口があるなら、そっちを選びたいと思うのは自然だ。

 駅の大きさから入り口は幾つかありそうだ。ただサイズが大きいだけかもしれないが。

 敵が正面にいる状況で、必要以上の言葉はいらない。ローレルは三度頷くと、杖で地面を引っ掻きながら絵堂の後ろについた。先行しろと言いたいのだろう。

「待って」

 モニカがようやく声を出す。今度はモニカがローレルを掴んで引き止めた。

「正面から突撃するのが賢いと思う」

 そう主張するモニカは微かに震えていた。魔物が恐ろしいのだろうか。それとも、絵堂とローレルに意見をするのに勇気が必要だったのだろうか。震えの由来を問うような場ではない。モニカの案について考える。

 正面突破か。確かに最も効率的かもしれない。突破できないはずがないし、短時間で行える。ローレルは自分の身くらい守れるだろう。モニカはどうだか怪しいから、モニカの身の危険が最も大きなリスクだ。他の問題はあまりない。魔物を多く蹴散らすので足元が悪くなることと、多くの魔物たちの尊いか疑わしい命が失われるだけだ。

 ローレルも似たような結論に至ったのか、晴れた表情だった。

「一理あるけど……エドゥはどう思う?」

 モニカが放る。何を放ったかは、考えなくていい。

「どう思うもこう思うもないだろ。もう爆弾投げてやがる」

 モニカは強いようだ。駅まではまだ距離があるのだが、腕だけの動作で爆弾を正確に届けていた。

 このまま逃げて、魔物の戦力を削ってもいいが、それでは何時までたっても駅に入れないだろう。増援が来るたびに逃げることになる。モニカの爆弾で一掃できるなら、逃げる必要すらない。

「モニカ、爆弾をくれ」

「点火したのでいい?」

「それでいい」

 モニカからそっと手渡された爆弾は、手のひらサイズの四角い置き時計のようだった。これから爆発して粉々になるとは思えない精巧なつくりだ。左上だけが透明な窓になっていて、青い魚の模様がお洒落なデジタル時計になっている。時限爆弾にもできるようで、窓の奥に設定用のボタンが見えた。

「これ、もう投げていいのか?」

 モニカは無表情で親指を立てる。

「強い衝撃の後に静止すると爆発するよ」

 投げるとき手のひらで爆発したら馬鹿みたいだと考えながら、絵堂は振りかぶって投げた。二つの爆弾はそれぞれの軌跡を描いて、魔物の中に落ちていく。先にモニカの爆弾が落ちて、その後に絵堂の爆弾が届いた。

 魔物たちの中心で二つの爆発が起きる。しかし、魔物たちは爆発前に爆弾に気づいていて、爆風に巻き込めたはずの何体かには避けられてしまった。

 駅が大きすぎて、爆発は小さく見えた。しかし破壊力が十分だったのは音が証明してくれる。

「かっこいい」

 モニカは爆発を見て満足していた。状況を忘れたのか頭を出して。それが魔物に発見される。

 声がない代わりに、銃声と銃弾が飛んでくる。敵はプロなのか狙いは的確だ。絵堂が右手でモニカの視界を塞がなければ、金属の塊がモニカの目から侵入して頭の中をぐちゃぐちゃに掻き混ぜていたに違いない。

「ローレル!」

「いけるよ。今防御魔法が終わったところ」

 もはや隠れる意味はない。絵堂は日向に乗り出して聖剣を抜いた。

 聖剣は木の枝よりは頑丈で降りやすい棒きれだ。案外使えるとオートマタドールを相手にして理解している。それだけの物でしかないはずだが、手に持ってみると不思議と高揚した。

 魔物の数は多い。視界いっぱいの敵意が圧を持って押し寄せてくる。しかしあのオートマタドールの大群を見た後だと、数えられる量ではなんとも思わない。やろうと思えば絵堂が一人だけでも片付けられる数だ。

 しかし、絵堂はこの場では時間稼ぎ役でしかない。絵堂よりもずっと早く効率よく数を減らせる方法を知っている者がいるからだ。

「水の音。木の葉の音。永劫に現界を包む自愛の主よ」

 絵堂は聖剣で足元に線を引く。

「悪いが、この線から先は関係者以外、立入禁止だ。少しくらいなら多めに見るが、帰るつもりがないなら強制排除するから覚悟しろ」

 魔物たちは臆せず攻めてくる。遠距離攻撃が鬱陶しい。後ろを狙う攻撃は特にだ。

「無情の衣を纏い、姿を成せ!」

「モニカ、好きにしていいぞ」

「好きに? つまり、爆破しても構わない?」

 今更何を言っているんだと絵堂はため息をつく。銃弾を剣の腹で受け止めながら、「そうだよ」と告げた。

 瞬間、モニカの顔が明るくなる。もしかして爆破の意味を取り違えただろうかと不安にさせられる。

 モニカは身を屈めてどこかへ消えた。何をするつもりか不安で仕方がない。しかしモニカよりも今は正面の魔物だ。

 最前の魔物が絵堂を間合いに入れて、のこぎりのような刃がずらりと並んだ棍棒を振り下ろす。刃には毒が塗られているのか、てらてら輝いていた。

 全く退かないところは評価しよう。しかし蛮勇もいいところだ。

 絵堂が一歩踏み込む。それで魔物が聖剣の間合いに入った。聖剣を振り抜く。魔物が棍棒に力を込めて振り下ろすには長い時間が掛かるようだ。コンマ何秒くらいだったろう。あくびをする時間すら余った。

「真実は白。しかし欲するは黒」

 魔物の胴が割れる。勢い余って二つになった体が、絵堂の後方に転がった。

「あー悪い。お前この線越えてなかったな。いや、本当にすまない。これで他は線を越えたらってしたら不公平だな。公平さを保つために、近寄ったら斬るに変更したいんだが、異論は……なさそうだな。お前たちが仲間思いで助かったよ」

 まるで独り言のように、寂しく空気に溶けていった。

 もはや足元に引いた線が無意味なものになる。魔物は例外なく寄ってくるからだ。魔物は広がり、包囲するように寄ってくるのが厄介だった。そのせいで常に移動しながら戦うしかなかった。足元に増える屍という障害物がこの上なく厄介だ。動くたび、足に当たって気になる。蹴飛ばして魔物にぶつけてみたが、嫌がらせにしかならなかった。

「ローレル、まだか?」

「偽りの舞踊会への招待状を送る。彼らを永劫の享楽に誘え――エドゥはもう現界?」

「まだいけるよ。数が多くて面倒になっただけだ。モニカに爆弾もらっとくんだった」

 絵堂の後ろで、ローレルが杖を振り回す。空気を切る音が小気味よく流れる。

「エドゥ、ありがとう。前衛が機能しているって、こんなに素晴らしいのね」

「今までのチームでは機能していなかったのか?」

「魔物一体に、魔法詠唱一回でチームは半壊、魔法二回が限度だった。身を守るための障壁魔法を発動したときには全滅が約束されるくらい。魔力を充填しながら、こんな雑談もできなかった」

「どうでもいい。魔法はいつになるんだ?」

「気になる?」

 パチと音がした。足元の枝が折れた音だった。どうして折れたのか、絵堂が踏んだからだ。どうして踏んだのか、絵堂の足の下に突然滑り込んだからだ。どうして枝が滑り込んだのか、突如背中から暴風が吹いたからだ。

 魔物たちは絵堂よりも風を強く感じていた。目がある者は瞼を開けられず、口や鼻がある者は息がままならない。皮膚に傷ができるほどの風に押されて、魔物は一箇所に集められた。

「プルスパイラル」

 風は更に強くなる。周囲の草木を見てみると、渦を巻きながら一点に向けて風が集まっているのがわかる。その一点に風が集まり、決して外へ出ていかない。風の中心点、魔物が集まっている一点は、どれだけの風が詰まっているのだろうか。

 魔物の体が一切動かなくなり、中には体表が潰れて凹む者が現れ始めた。おかげでどれほどの力が加わっているのかがわかった。

 この中にモニカが巻き込まれていなければいいけど。モニカは防御手段は持っていない。もし巻き込まれていたら、空を舞うモニカを見ているはずだ。見ていないのだから無事だと信じたい。

 ローレルの魔法に巻かれた魔物は重なっていく。魔物の上に魔物が乗り、その上にまた魔物が乗る。どうやら上からは風が吹いていないようで、縦にはまだ逃げ場があるようだ。しかし――。

 ローレルは機を見つけたとほくそ笑んだ。

「潰れて!」

 魔物たちの上から空気の重りが落ちてくる。全方位が風の壁が立ちふさがり、魔物たちが避ける空間はない。そもそも重りは透明で全く見えなかった。避ける発想が魔物たちにあったのか怪しいところだ。

 重りが落ちる。風の渦とは逆方向に周りながら、重りは魔物たちを押し潰した。

 体液が満ちる。魔物の体が破裂して空いた穴から、赤っぽかったり青っぽかったり無色だったり、様々な液体が現れる。しかし風に押し止められ、決して風の外へは漏れなかった。

 破裂音が広がると同時に風が止んで、魔物たちが開放される。しかしもう魔物ではなかった。スナック菓子を雑巾で拾って、その雑巾を絞る。そこから出てきたスナック菓子のようだった。狭い一点に押し込められていたものが、溢れて周囲に飛び散る。

 さて、飛んできたこの肉片は何だったのだろうか。魔物だったのか、もしくは人間だったのか。過程を見ていなければ判断できなかった。

 ローレルの魔法一つで、魔物たちは片付いた。しかしなぜかまだ魔物がいる。駅の改札を抜けて攻めてくる。

 実は直前に列車の音がした。駅に到着したような音だった。

「増援か」

 またローレルに頼む必要がある。今回も数が多い。ローレルが拒否するなら、強引に中央突破してもいい。丁度列車が来ているようだし、乗り込んでしまおう。

「ローレル」

「わかってる。私の魔法はこのためにあるようなものだから」

 ローレルが杖を地面に突き刺す。大して刺さっていないはずだが、ローレルが手を離しても杖は立ったままだった。

「じゃあ始め――」

 爆発が起きた。大きな爆発と小さな爆発が幾つかだった。大きな爆発は駅全体を攻撃し、小さな爆発は魔物に対して行われる。爆発は魔物の増援どころか駅そのものを巻き込んで、強制的に形を変化させた。

「私、必要?」

 ローレルは魔法をやめたのか、杖が倒れていく。ローレルは杖を支えるように掴んだ。

 目の前の光景を見る限り、もう魔法は必要なさそうだった。

 おそらくこの爆発の主犯はモニカだろう。他に思い当たる節がない。

 駅を爆破する必要はなかっただろうと呆れつつ、絵堂は歩く。必要なくなった聖剣を腰に戻して、瓦礫の間を歩くモニカへ向かった。

「どうだった?」

 道がなくなった駅で、モニカは自慢げだった。絵堂は壊れかけの駅を見回す。

「よくここまでやったものだよ」

「違う。綺麗な爆発だったでしょう」

 絵堂は言葉に詰まる。爆発それ自体は見ていなかった。瓦礫が落ち、魔物が吹き飛ぶ。見ていたのはそればかりだった。

 ローレルは言葉に詰まる絵堂に見かねて、代わりに答える。

「見てたよ。すごかった」

「私もそう思う」

 それ以上の言葉はいらないらしい。ローレルとモニカは笑い合っていた。

 モニカはまた新しい爆弾を放り投げていた。起きたのはとても小さな爆発だったが、壁を削るだけの威力はあった。

「ついてきてよかった。爆破しても人に文句を言われない施設があるなんて考えてもいなかったから」

「魔物は文句を言いそうだが」

「そんなの黙らせればいいのよ」

 魔物のものと思われる武器が転がっていた。作りが荒い長剣だ。ただの金属の棒にも見える。ローレルがその剣を必要以上の力で蹴っていた。道を作る目的だが、それにしても力を込めすぎだ。本当にこいつは魔物が相手だと荒々しい。

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