表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/14

13

 行きと違って何事もなく帰ってきた。サイグルと共に魔物が消えたのかもしれない。

 人間が住み暮らす街。地下に隠れる人の密集地。王都エルターヴェ。到着だ。

 絵堂はそこの王城に用がある。ジエンドを倒した報酬を受け取らなければいけない。

 絵堂もローレルもいつもより早足で、真っ直ぐ城に向かった。

 王城の門の前、モニカとクリシェがいた。起き上がっているし、瞬きも、鼓動もある。どうやら生きているらしい。二人に気づいたローレルは安堵する。

 しかし絵堂はすぐに浮かんだ新しい疑問で、モニカとクリシェが頭から消えた。

「おい、ここで何をしているんだ?」

 ここにいるもう一人に問いかける。その者は顔をあげると、嬉しそうに歯を見せた。

「よく戻った。勇者とその仲間よ。無事ジエンドを倒してきたのだな」

「王自ら出迎えか。ご機嫌だな」

 そう言いつつ、絵堂は王の足元を見る。みすぼらしいシートに、小銭が一枚入った壊れかけの箱、ほつれた裾が見える。

「そういうわけではないんだ。言いにくいんだが」

 言い淀む間も与えず、モニカが説明する。

「落ちぶれたんだって。私たちがジエンドと戦った日に、突然、王から乞食になって、城から追い出されたらしいよ」

「本当に不思議ですよ。ある日、急に王から乞食まで落ちることがあるなんて」

 話を聞いてみると、モニカがここにいるのは、落ちた元王を眺めるのが楽しいからだそうだ。

 クリシェは、この街にモニカ以外の知り合いがいないから、モニカに引っ付いていた。

「ところで、私の盾を知りませんか。ジエンドに投げた後、回収できなかったから」

 クリシェの盾は知らない。最後に盾を確認したのはモニカだった。

 モニカは盾に仕掛けた爆弾を爆破させた。それ以降は知らないそうだ。

 クリシェは項垂れたが、そう悲観することじゃない。どうやらクリシェの装備の重量は戻っているようだ。盾があればより重かったに違いない。盾が無くなったおかげで、少しだけ軽くなっているのだ。

「それで、報酬は?」

「一介の乞食に出せる額じゃない」

 元王は文無しだった。

 今は城の前にいる。絵堂は近くの門番に近づいた。門番はやはりオートマタドールだった。散々こいつの仲間を屠ったはずなのだが、忘れられたのか襲ってこない。

 今思えば、モニカの脱獄に関わる一切は、サイグルの仕業だったのだろう。そんなことを言っていた気がする。

 脱獄自体はモニカが自分でやったのかもしれないが、あらゆる人に絵堂が関わっていると思い込ませたのはサイグルがやったに違いない。奴なら、それくらいはできる。

 絵堂は門番に笑顔で挨拶をしてから本題を告げた。

「今の王に会わせてくれないか?」

「問い合わせます。少々お待ちを」

 オートマタドールは完全無表情で、前を向くばかりだった。まるで完全に無視されているみたいだ。

 実際はちゃんと対応してくれている。

「ここでの会話を含めて報告しました。王より預かったメッセージをお伝えします。『勇者が契約したのは前王とで、現王や国とではない。契約の旨を記した書面や映像なども存在しない以上、履行する必然性は皆無である。個人的には、ジエンドの討伐に感謝をしています。ありがとう。一方的ですが、報酬は脱獄幇助やその他諸々の免罪としました。それでは良い一日を』以上です」

「以上ですじゃない。他にないのか?」

「ありません」

「そうか。よくわかった。ありがとう」

 タダ働きってことか。もはや溜め息すら出ない。

 絵堂は不機嫌を隠さずに、ローレルたちの元へと戻った。

「おい、元王なんとかならないのか?」

「今の私に、王家の宝物庫を開けられると思いますか? 王家の純血ってだけの男になってしまったのに」

 元王は悔しそうに歯を噛む。ちなみにこの男の名前はラウル・ハロステロムだ。

 その元王は、妙に門番を気にしている様子だった。何か考えがあるのだろう。そう察した絵堂はより元王に近づく。その先は小さく儚い声だった。

「何か考えがあるのか?」

「鍵はない。しかし、金庫の場所なら知っている。抜け道も知っている。地位は失ったが、知識は失っていないのだ」

 自叙伝、次は三十三巻だったか。絵堂はその一冊だけなら読んでもいいと思えた。王家から追い出され、元実家に強盗に入る男の話なら読んでもいい。

「案内してくれ」


 なぜか全員ついてきた。

 城の抜け道は狭い。二人は通れない太さだった。そこを絵堂とローレル、モニカ、クリシェ、その四人を元王が先導する。全員が完全武装だった。ローレルは杖を。クリシェは鎧に重い槍も持っていて足が遅い。絵堂は素手だ。聖剣はもう折れて無い。

 進んでいくと、広い通路に飛び出る。絵堂が知っている城の通路だ。幸いにも無人だった。

「城内かくれんぼには慣れている。いつも仕事や勉強から逃げていたからね。音でも立てない限り、簡単には気づかれない」

 城の人間がどんな仕事をしているか、記憶している元王は、どの時間に誰がどこを通るのかを完璧に把握していた。

「城の人間は誰もが効率的すぎるんだ。だから容易に動きが読める。こっちだ」

 そうして案内された先には、大きな扉があった。上から下まで金属で、ぱっと見ただけで四箇所は鍵穴がある、見た目から強固な扉だった。奥には大事な物がありそうだ。

 元王は頷く。それが答えだった。

 扉を破ろう。壁や床を破る手もあるが、どこも厚い壁で覆われているに違いない。防犯設備も全方位張っているに決まっている。どこを壊しても同じだ。一番近い扉が楽。

 絵堂が拳を握ると、モニカが一人で前に出た。手には爆弾が握られている。もちろん、起動済みだ。

「みんな、離れて」

 待って欲しい。この扉は、爆弾一つで破れる強度なのだろうか。

 絵堂は爆弾を食ってしまおうかと考えるが、実行するには遅すぎた。

 モニカが爆風の範囲内から出た瞬間に、爆発を起こす。爆風と爆音だけが広がった。扉はそのままだ。これで扉の耐久度は、モニカの爆弾を悠々と凌ぐと証明された。

「何者だ!」

 もちろん、絵堂たちの声ではない。

「バレたか。逃げるぞ」

 元王が逃げる中、絵堂は扉を強引に引き剥がしていた。何も持たずには帰れない。その思いだけが絵堂を突き動かす。防犯用のベルが鳴っても絵堂の耳には入らなかった。

 目の前に広がったのは宝の山。札束の山はもちろん、希少金属の山や、幼稚園児が描いたような両親の肖像、精巧な細工が施された小物が無数にあった。展示会のようにそれぞれが違うケースに保存されている。

 絵堂は迷わずに金属を狙った。金色に輝く棒がわかりやすくていい。それを両手にポケットに詰め込んでから逃げる。

 宝箱から出ると、廊下で戦闘が開始されたところだった。モニカ爆弾が通路を壊し、ローレルの魔法がオートマタドールの進行を阻害していた。

「俺は逃げるけど、みんなはどうする?」

「私が突破口を開くから、そこを全力疾走ってのはどう?」

「ローレルの案を採用する。行くぞ」

「ぃよっしゃ。燦然たる朝露を扇ぐ雛鳥よ。此度本質を転換し、災いをもたらす漆黒と化せ。我は剣士。生者を切り裂く悪。抗えない糸に縛られ従い、尽くせ」

 ローレルの手に剣のような黒い棒が現れた。それを振ると、黒い何かが飛散して、オートマタドールを食らった。

「念の為に言っておくけど、黒いものに触らないでね」

 どんな物でも溶かす砂らしい。

 逃走は楽だった。絵堂を先頭にクリシェを最後尾にして急ぐ。絵堂が道をひらく役目だ。

 オートマタドールは絵堂とローレルの前では時間稼ぎにもならない。数が多いだけだった。

 急いだ分、脱出には行きよりも時間が掛からなかった。

 しかし、城から出て終わりじゃない。城から大量のオートマタドールが追ってくる。

 元王とも合流して、国からの脱出が始まる。絵堂とローレルとモニカと元王の四人で……四人? ……クリシェの姿が見えない。

「クリシェは?」

 モニカが証言した。

「捕まったと思う。槍に潰されて途中から走れなくなっていたから」

 結局、クリシェとは何者だったのだろうか。悪い言い方になってしまうが、居ても居なくても変わらない存在だった。考えても、それ以上の答えが出せない。

 とにかく今は逃げなければ。

「クリシェは置いていこう」

 全員が即同意して、スムーズに逃走劇が始まる。モニカが定期的に背中に爆弾を投げてくれるおかげで、追手は苦戦していた。

 しかし、ジエンドを倒したのに、どうしてこう逃げているのだろう。ジエンドの討伐は偉業だったはずだ。もっと感謝されると思っていたのに。

 こんなことなら、初めから金庫を襲って盗んでも同じだった。ジエンドを倒す時間が無駄ではないか。

 絵堂は文句を連ねながら逃げる。きっと逃亡期間はまだまだ続くのだろう。次はクリシェを助けなければ。平和的にできればいいが、きっと強引になる。なぜなら、絵堂はそういう存在だからだ。

 絵堂は、前の仕事をクビになる前に、力で会議室を制したことを思い出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ